品質等誤認惹起行為(不競法2条1項20号)

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「品質等誤認惹起行為」とは

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 不正競争防止法2条1項20号[条文表示]は、商品・サービスの品質・内容等について誤認を生じさせるような表示を行う行為等(品質等誤認惹起行為、又は原産地等誤認惹起行為)を「不正競争」の一類型として定めています。

 事業者の間で、商品やサービスについて公正な競争がなされるためには、各事業者が、商品・サービスなどについて正確な表示を行うことが必要です。他方、商品の表示において誤認を惹き起こす行為は、適正な表示をして取引を行う事業者から不当に顧客を奪い、公正な競争秩序を阻害することになります。

 それで、品質等について誤認を与える表示が、不正競争行為の一つとして定められています。

品質等誤認惹起行為の要件

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 品質等誤認惹起行為(原産地等誤認惹起)の要件は以下のとおりです。

  • 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信に
  • その商品の原産地などについて
  • 誤認させるような
  • 表示をし又はその表示をした商品を譲渡等する

 以下、各要件について簡単に見ていきたいと思います。

表示の対象となるもの

 品質等誤認惹起行為となるような「表示」の対象となるのは、法文によれば、「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信」です。その中には、以下のものが含まれます。

商品やサービスそのもの

 刻印や印刷によって商品それ自体に表示することに加えて、商品の容器、包装、タグ、ラベルや説明書に表示することも含むと考えられています。

これらの広告

 広告とは、公衆に対して営業目的をもってなされる表示をいい、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、インターネット等においてなされるものが含まれます。

取引に用いる書類や通信

 「取引に用いる書類」には、見積書、注文書、納品書、請求書、領収書、計算書、契約書、送付書等の書類が含まれます。また、「通信」とは、取引に用いる書類によるもの以外の通信(電話、電子メールなど)をいいます。

表示の内容となるもの

 品質等誤認惹起行為(原産地等誤認惹起行為)となるような「表示」の内容となるのは、法文によれば、以下のとおりです。なお、具体例は、リンク先をご覧ください。

「誤認をさせる」

 まずここでいう「誤認」については、現実に誤認が生じていることは不要であり、表示自体が「誤認をさせるような」ものであれば足ります。

 ある表示が、誤認を惹起させるような表示といえるかについては、当該表示の内容や取引の実情など、諸般の事情を考慮した上で、表示が付された商品全体を観察し、取引者・需用者に誤認を生じさせるおそれがあるかどうか、によって判断します。

 例えば、「●●タイプ」と表示した場合でも、表現の形式や他の状況から、「●●」と誤認させるような表示に該当すると判断されることがあります。

行為の種類

 品質等誤認惹起行為(原産地等誤認惹起行為)となるような行為は、法文によれば、以下のとおりです。

商品について
  • 誤認させるような表示をすること
  • その表示をした商品を譲渡し、引き渡すこと
  • 譲渡若しくは引渡しのために展示すること
  • 輸出し、輸入すること
  • 電気通信回線を通じて提供すること
サービス(役務)について
  • 表示をして役務(サービス)を提供すること

表示の内容に関する具体例

 以下、判例で取り上げられたものを中心に、どんな内容についての表示が不正競争行為と判断されたか、事例をあげてみたいと思います。

原産地の誤認惹起行為の例

 商品の原産地について誤認させる行為も、規制の対象に含まれます。なお、原産地とは、天然の産物の産地のほか、生産、加工、製造等がなされた地となることもあります。判断基準としては、取引関係者にとって重要と観念される価値が当該商品に付加された地がどこか、が重要です。例をあげれば、以下のようなものがあります。

ベルギーダイヤモンド事件

 裁判所は、天然の産物であってもダイヤモンドのように加工のいかんによつて商品価値が大きく左右されるものについては、その加工地が一般に「原産地」と 言われている、と述べました(東京高裁昭和53年5月23日判決)。

世界のヘアピンコレクション事件

 ヘアピンを販売するに当たり、透明の包装袋の表面に、外国国旗が端的にセールスポイントを示す文言とともに又は単独で印刷されたシールが貼られており、当該シールが、その色彩、貼付位置により消費者の注意を惹くものであった、という事実を前提に、裁判所は、「当該商品が当該外国製であることを容易に想起させる」と述べました。さらに裁判所は、「世界で初めて・・・世界中のピンを集大成-57種類-」といった表示が、消費者の誤認をいっそう強めると述べ、原産地誤認表示に該当すると判断しました(大阪地裁平成8年9月26日判決)。

京の柿茶事件

 京都で製造されたものでない商品に「京の柿茶」という表示を付した行為につき、裁判所は、「被告商品の製造地あるいはその原材料の生産地が京都市及びその周辺あるいは京都府であることを表示するものと理解する者が多いと認められる」とし、「商品の原産地、品質に誤認させるような表示をする」とされました(東京地裁平成6年11月30日判決)。

カバン原産地等表示事件

 中国製のかばんについて、「Manhattan passage」の記載の下に「NEWYORK CITY,N.Y.,U. S.A.」の記載をした表示について、一般消費者は、被告商品の原産地は米国であると誤認するおそれがあるとし、原産地誤認表示に該当する判断されました(大阪地裁平成12年11月9日判決)。

氷見うどん事件

 岡山県の製麺者に発注して製造させた手延べ麺に「氷見うどん」と表示した行為につき、原産地について誤認を生じさせる表示であると判断され、約3億7000万円の損害賠償の支払いが命じられました(富山地裁高岡支部平成18年11月10日判決)。

日本ライス事件

 平成15年産千葉県産コシヒカリ、平成16年産千葉県産コシヒカリ、及び品種不明の未検査米を混合した米の包装袋に、あたかも平成17年産福井県産コシヒカリ単品の商品であるかのような表示をした行為について、原産地誤認表示、品質誤認表示にあたると判断されました(大阪地裁平成20年4月17日判決)。

商品の品質・内容に関する表示とされたもの

清酒の等級の表示

 級別の審査及び認定を受けなかったため酒税法上清酒2級とされた清酒に清酒特急の表示証を貼付した行為については、たとえその清酒の品質が実質的に清酒特急に劣らない優良なものであったとしても誤認表示に当たると判断されました(最高裁昭和53年3月22日判決)。

「本みりんタイプ調味料」

 被告が製造販売する液体調味料は、加塩による不可飲処置をとって酒税の負担を免れた本みりんではない商品でしたが、その容器に「本みりんタイプ調味料」という表示を付していました。

 裁判所は、消費者には「本みりん」の部分が強く印象に残り、「タイプ」「調味料」の部分はほとんど目に入らず、消費者にエキス分の高い本みりんであるかのような誤認を生じさせることになると判断しました(京都地裁平成2年4月25日判決)。

ろうそくの品質

 被告が販売するろうそくに「燃焼時に発生するすすの量が 90%減少」といった表示をしていたものの、実験の結果そのような効果は認めらかったという件について、裁判所は、商品の品質を誤認させ る表示であると判断しました(大阪高裁平成17年4月28日判決)。

キシリトールガムの効果

 江崎グリコ株式会社が販売するキシリトール入りガムについての「約5倍の再石灰化効果を実現……」などという比較広告が、客観的事実に沿わず、品質に誤認を与えるという理由で、原告である株式会社ロッテの請求を認めました(知財高裁平成18年10月18日判決)。

PSEマークの表示

 電子ブレーカーにつき、電気用品安全法所定の検査を受けていないにもかかわらず、同検査を受けた電気用品に付すことを許されてるPSEマークの表示を付して販売したことが、品質等誤認惹起行為に該当すると判断されました。ただし、PSE表示が付されたことによって製品に対する需要が喚起されたとはいえないとして、損害の発生は否定されたました(知財高裁平成24年9月13日判決)。

特許権消滅後の特許表示

 ある特許製品が、特許権の消滅によって実際には特許発明の実施品ではなくなったにもかかわらず、国際的な特許で保護されているとか、特許を取得しているといった表示を付し、少なくともいずれかの国・地域の特許発明の独占的実施品であるかのような情報を需要者に提供した行為について、「品質」を誤認させるような表示をした不正競争行為に該当すると判断しました(大阪地裁平成24年11月8日判決)。

リサイクルトナーカートリッジ事件

 リサイクルのインクカートリッジについて、リサイクル品を装着すると、原告のプリンターのディスプレイに、「シテイガイノトナーガソウチャクサレテイマス」などの表示がされました。裁判所は、この「シテイノトナー」という表示を、「原告プリンターに 用いられるべきものと定めたトナーカートリッジであると理解するものと考えられる」と述べ、リサイクルのカートリッジの販売を品質等誤認惹起行為となると判断しました(大阪地裁平成29年1月31日判決)。

数量に関する表示とされたもの

数量の限定の有無

 実際には、販売量、 品質、内容等が限定されているのに、その限定を明瞭に記載せずになされる商品の広告(例えば、在庫は少量の中古品、展示現品しかないのに、そ の旨を明瞭に表示せずにする広告)を、す量につき誤認を生ぜしむる表示、と判断しました(名古屋地裁昭和57年10月15日判決)。

「品質等誤認惹起行為」に対する是正方法

 「信用毀損行為(営業誹謗行為)」に対する是正方法・責任追及方法としては、差止請求・予防請求・信用回復措置請求・損害賠償請求などが考えられます。

 なお、是正方法・責任追及方法に関しては、「不正競争行為に対する是正方法」のページもご覧ください。

差止請求(3条1項)

 不正競争行為によって営業上の利益を侵害される(おそれのある)者が、侵害の停止又は予防を請求することができます(不正競争防止法3条1項[条文表示])。

 この点、差止請求ができる要件として「不正競争行為によって営業上の利益を侵害される(おそれのある)者」である必要がありますが、この営業上の利益の侵害は、利益侵害の発生について相当の可能性があれば足りるとされています。

 そのため、品質等誤認惹起行為の存在が認定されれば、営業上の利益を侵害されるおそれが認められることは多いと考えられます。

 この点、前述の京の柿茶事件判決は、「右のように不正競争行為に該当すると認められる以上、特段の事情がない限り、被告の不正競争行為により、同業者として柿の葉の茶を製造販売する原告は、その営業上の利益を侵害されるおそれがあるものと認められる。」と判断しています。

廃棄除去請求(3条2項)

 侵害行為を構成した物や侵害行為によって生じた物を廃棄すること、侵害行為に供した設備を除却すること、その他必要な行為を請求することができます(不正競争防止法3条2項[条文表示])。

 例を挙げれば、品質等誤認惹起行為と認められた記述が含まれる製品のラベル、説明書、カタログの廃棄やウェブサイトの削除といったことが考えられます。

信用回復措置(14条)

 営業上の信用を害された者は、侵害した者に対して、信用の回復に必要な措置を取らせることができます(不正競争防止法14条[条文表示])。

 具体的には、謝罪広告や訂正広告を出させること、取引先に対して謝罪文や訂正文を発送させることなどの方法が、例として考えられます。

 もっとも、裁判例としては、損害賠償請求を認めた上で、原告の損害を填補するには損害賠償で十分に足りると述べ、謝罪広告等を認めないものが少なくありません。

損害賠償請求(4条)

概要

 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者に対しては、損害賠償請求を行うことができます(不正競争防止法4条[条文表示])。

 この点で、不正競争防止法5条は、損害額を推定する規定を定めており、同条2項については、品質等誤認惹起行為にも適用されます。

不競法第5条第2項に基づく請求

 信用毀損行為(営業誹謗行為)によって営業上の利益を侵害された場合に請求しうる損害賠償額に関しては、損害額の算定方法を定めた不正競争防止法5条2項[カーソルを載せて条文表示]が適用されることがあります。

 同規定では、被侵害者が被った「損害額」を「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」と推定すると規定しています。

 ただし、この規定は「損害の額」の推定規定であり、「損害の発生」まで推定するというものではありません。したがって、品質等誤認惹起行為を理由に損害賠償請求を行う当事者は、前提として、当該不正競争行為によって、損害が発生したことについての立証が必要と考えられています。

 また、品質等誤認惹起行為については、ある事業者が行った品質等誤認惹起行為によって特定の競業他社がどれだけの損害を被るのかの判断が難しいことが少なくありません。それで、損害賠償請求が認められないこともあるほか、認められるとしても、当該不正競争をした当事者の利益の多くが賠償額としては否定されることが多いと思われます。

 なお、不正競争防止法5条2項についての詳しい解説は、「不正競争防止法違反行為に対する是正方法」をご覧ください。

品質等誤認惹起行為に関する損害賠償の例

品質等誤認惹起行為に関する損害賠償請求のうち、不正競争防止法5条2項の規定を適用して損害賠償が認められた少ない例としては以下のようなものがあります。

氷見うどん事件

 先にご紹介した、岡山県の製麺者に発注して製造させた手延べ麺に「氷見うどん」と表示した行為について、裁判所はは不正競争であると認定し、被告が得た営業利益に原告の市場占有率である93.24%を乗じて、原告の被った営業上の損害額を3憶6900万円余(過去8年分)と算定し、約3億7000万円の損害賠償の支払をが命じました。

こしひかり事件(新潟地裁長岡支部平成11年12月13日判決)

 被告が「コシヒカリ魚沼一等」と表示した米袋に、そうではない米を詰めたというケースで、裁判所は、被告が得た利益を287万2326円と認定し、被告のチラシが被告米袋の商品の独自性を前面に打ち出していることといった事情を踏まえ、当該利益額をそのまま損害賠償額として認めました。

 

 


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