2006-04-30 語学教室の途中解約と特定商取引法

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事案の概要

H18. 1.30 京都地方裁判所

本件は,語学学校Y社との間で語学の教授に関する契約を締結したX氏が,この契約を中途解約し,既払いの受講料の返還を求めた事案です。

Y社の各コースは,有効期限内に使用可能なポイント数をまとめてパッケージ化したものでした。X氏が契約したレギュラーコースの場合,受講者は1回のレッスン当たり原則1ポイントを使用して受講できるシステムになっていました。

そして,ポイントの料金については,購入したポイント数が多くなるに従い,1ポイント当たりの単価が低額になる制度となっていました。例えば,80ポイントを購入する場合,単価が1ポイントあたり2300円となりますが,600ポイントを購入する場合,ポイントあたり単価は1200円となっていました。

X氏は,3年間有効の150ポイントをポイント単価2050円で購入していましたが,36ポイントを使った時点で,契約を解約しました。

ところで,Y社には,契約を中途解約した際の精算方法を定めた規約がありました。この規約によれば,支払を受けた金額から,消化済み受講料等を差し引いた金額を返還することになっていましたが,この消化済み受講料を算定する際のポイント単価は,X氏のケースでは3800円となっていました。

これに対し,X氏は,この規約は特定商取引法などに違反し無効であり,消化済み受講料を差し引く場合も,ポイント単価は契約時の2050円とすべきであると主張していました。

判決の概要

【結論】

 請求認容(X氏の主張を認める内容)

【理由】

裁判所は,解約に関するY社の規定について,特定商取引法49条2項1号イに違反し無効であると判断しました。特定商取引法49条2項1号イとは,継続的なサービス契約において中途解約された場合,事業者が,すでに提供済みのサービスの対価に相当する額と「解除によって通常生ずる損害の額」の違約金を請求できるが,それ以上の請求はできない,というものです。

裁判所の判断の理由は次のとおりです。

特定商取引法49条2項1号イは,提供済みサービスの対価の精算という性質のものである。それで,契約締結時等にサービスの対価に関する単価が定められている場合には,原則として,この契約締結時等に適用された単価に従って上記提供済みサービスの対価を算定するべきである。そして,合理的な理由なく契約締結時の単価と異なる単価を用いることは,同法49条2項1号の趣旨に反する。

Y社は,契約時には1ポイント当たり2050円の単価を用いて受講料を算定しているのに対し,中途解約時には1ポイント当たり3800円の単価を用いて提供済みサービスの対価を算定している。かかる算定方法を採用するに足りる合理的理由があるとは認められないから,本件規定は,特定商取引法49条2項1号の趣旨に反し無効である。          

解説

【特定商取引法とは】

今回関係した法律は,特定商取引法という法律でした。

特定商取引法とは、今までは訪問販売法と呼ばれたいた法律が改正されてできたもので,訪問販売など,消費者との間にトラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に,トラブル防止のため,事業者に対する規制を定め,また,事業者と消費者の間の法律関係を規定する法律です。

特定商取引法が対象とする取引は次の6類型です。
1)訪問販売・・・・自宅への訪問販売,キャッチセールス,アポイントメントセールス等

2)通信販売・・・・新聞,雑誌,インターネット等で広告し,郵便,電話等の通信手段により申込を受ける販売

3)電話勧誘販売・・電話で勧誘し,申込を受ける販売

4)連鎖販売取引・・個人を販売員として勧誘し,さらに次の販売員を勧誘させる形で,販売組織を連鎖的に拡大して行う販売

5)特定継続的役務提供・・長期・継続的なサービス提供と高額の対価を約する取引(現在,エステティックサロン,語学教室,家庭教師,学習塾,結婚相手紹介サービス,パソコン教室の6役務が対象)

6)業務提供誘引販売取引 ・・「仕事を提供するので収入が得られる。仕事に必要である」として,商品等を売って金銭負担を負わせる取引

それで,上記特定商取引法の対象となる事業を始めようとする場合,特定商取引法を理解しておくことは必須です。

【特定商取引法で定められた民事ルール】

特定商取引法は,行政上の規制のほか,消費者と事業者の間のトラブルを防止するための民事上のルールを定めています。具体的には以下のようなものがあります。

1) クーリング・オフ・・・・申込み又は契約後一定の期間,消費者が無条件で解約できます。ただし,通信販売には,クーリング・オフに関する規定はありません。

2)意思表示の取消し・・・・ 事業者が事実と異なることを告げたとか,重要事項を故意に告げなかった等の違法行為を行った結果,消費者が誤認し,契約をしたときは,消費者は,その意思表示を取り消すことができます。

3)損害賠償等の額の制限・・・・消費者が中途解約する際に,事業者が請求できる損害賠償額に上限を設定しています。

【損害賠償の予定と消費者取引】

本件が問題となった条文は,特定商取引法49条2項でした。同項を引用すると,

「役務提供事業者は、……特定継続的役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
1.当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始後である場合次の額を合算した額
イ 提供された特定継続的役務の対価に相当する額
ロ 当該特定継続的役務提供契約の解除によって通常生ずる損害の額として第41条第2項の政令で定める役務ごとに政令で定める額」

つまり簡単にいえば,消費者は常に中途解約ができます。そして,事業者は,支払いを受けた金額から,既に受けたサービスの対価の部分の金額と一定の損害賠償(「語学の授業」の場合の上限は5万円)を引いたものを最低限返金しなければならないわけです。

ですから,例えば,契約書の中で,中途解約した場合は料金の返還はしないと記載しても,これは無効となることが多いと思われます。

今回の問題は,「既に受けたサービスの対価」をどう計算するかであり,安い単価で大量にポイントを購入した消費者が途中解約の場合,まとめてポイントを購入した時点での安い単価ではなく,消化済みのポイントに応じた単価での精算をするという約款の有効性でした。

語学教室側の主張は,最初に大量に買ったから安く買えたのであり,精算を受けることで,結果として安く受講できてしまうのは不公平であり,学校が不当に不利益を被る,というものでしたが,裁判所は,これらは精算時に契約時の単価と異なる単価を用いる理由とはならないと判断しました。

【違約金の予定と消費者取引】

ビジネスの世界で,契約の中に「違約金」又は「損害賠償の予定」の定めがなされることがあります。これは,契約を定めるにあたり,契約違反をした場合に違反当事者が他方の当事者に支払う金額をあらかじめ決めておくものです。

この「違約金」(損害賠償の予定)については,民法420条1項は,当事者が債務不履行の場合の損害賠償を予定した場合には、裁判所はその額を増減することができないと定めており,原則として,違約金の条項は有効です。そして,この違約金条項は,いざ相手方に契約違反があった場合,非常に役立つ条項であることは確かです。

その理由の一つは,契約違反によって損害を被った場合,面倒な因果関係の立証や,損害金額の立証をしなくて済むからです。さらには,違約金の条項による,契約違反に対する抑止効果も期待できます。 それで,契約書の作成において,いかに違約金条項を工夫するかは重要な点です。

そして,「最初に大量に買ったから安く買えたのであり,精算を受けることで,結果として安く受講できてしまうのは不公平」という主張は,仮にこれが事業者間取引であれば通りうる主張と思いますが,裁判所は,消費者保護という特定商取引法の趣旨を重要視しました。

このように,対消費者取引の場合は,前記のような特定商取引法や,消費者契約法による規制がありますから,いたずらに事業者側に有利な定めをおいても無効とされてしまうおそれがあります。それで,違約金の定めの内容や金額については,慎重に考える必要があります。



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