2014-08-05 残業代請求と労働時間の把握

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1 今回の判例  残業代請求と労働時間の把握

 

東京地裁平成25年5月22日判決

 A氏は、電気機械器具の製造・販売等を営むB社において、治具の調整や設計を担当していました。

 A氏は、B社に対し、労働時間は、本来は出勤・退勤時間が記録されている入退館記録表によって算定されるべきところ、B社が時間外勤務命令書によって算定しているのは実労働時間を反映していない、等と主張して、時間外割増賃金と深夜労働に対する割増賃金等を請求しました。

 本件の訴訟での争点は以上のほか多岐にわたりますが、本稿では、労働時間の管理把握と認定の問題を中心に紹介します。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断しました。

  • B社においては、就業規則上、時間外勤務は所属長からの指示によるものとされ、所属長の命じていない時間外勤務は認めないとされていた。
  • B社の実際の運用としても、時間外勤務については、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられ、実際の時間外勤務については、時間外勤務終了後、本人が「実時間」として記載し、翌日それを所属長が確認することによって、把握されていた。
  • 本件において、時間外勤務命令書で認められる時間以上の時間外労働の事実を認めることはできない。

 

3 解説

(1)残業時間の認定の原則

 会社によっては、労働者の労働時間の長さが悩みの種となっているケースがあります。その一つに、無為に社内に居残るだけと思われるのに、タイムカードのような機械的な打刻時間を基礎として時間外労働時間が認められてしまい会社の負担となるという問題が生じ得ます。

 この点、一般に、労働者が、終業時刻以後も事業所内に残り続ける場合であって、これについて会社の明示又は黙示の指示(黙認・許容)があれば、労働時間と認められていますし、裁判実務上、タイムカードや入退館記録といった機械的打刻の記録があると、こうした打刻時間が、労働時間であると強く推定されています。

(2)残業の許可制と労働時間管理

 他方、機械的打刻以外に会社が労働時間管理を厳格に行っており、かつそれについての立証ができる場合には、機械的打刻以外の方法による労働時間の認定がされることがあります。

 そしてその一つの方法は、今回のケースのように、残業を許可制・承認制にすることです。これは、日々の現実の運用として、実際に許可を申請させ、都度の判断で許可を出すという扱いがされていれば、そして、機械的打刻以外の労働時間の記録化がしっかりとされていれば、効果がある方法であるといえます。

 しかし、実際には許可制がきちんと運用されておらず残業が黙認される状況が発生している場合や、労働者が残業しないと間に合わないような過剰な業務量やノルマを課されているといった場合には、許可制・承認制が名ばかりであって「労働時間管理を厳格に行っている」とは認定されないリスクが生じることになります。

 また、今回のケースは、翌日所属長が残業時間を確認していることから、自己申告制に近い制度であると考えられます。このようなケースでは、労働者が、労働時間の申告を抑制されていなかったか否かが問われることになります。

 この点、一律に特定の時間までしか労働時間の記録が認められていないとか、労働者全員が一律の時間しか労働時間が認められていないといった運用がなされている場合には、会社が労働時間の申告を抑制していたという判断につながり、機械的打刻による時間が労働時間と認定されるという結果になりえますので注意が必要です。

 以上のとおり、労働時間の管理は、制度を作ることに加え、後に立証できるような形での日々の運用が後にものをいうことになります。つまり、普段手間をかけて管理をしているか否かが一つのカギとなるという点、留意するとよいように思われます。

 

参考ページ:労働法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/


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