2016-02-17 特許侵害と先使用による実施権

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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1 今回の判例  特許侵害と先使用による実施権

知財高裁 平成27年6月30日判決

 A氏は、発明の名称を「繰り出し容器」とする特許権(特許第4356901号)を保有していました。なお、A社特許は、平成19年3月1日に出願されたものでした。

 そしてA氏は、B社に対し、その製造販売する口紅の容器が同特許権の侵害に当たると主張しました。なお、B社は、フランスの世界的な化粧品メーカーであるLグループのグループ会社でした。

 原判決(大阪地裁)は、B社が当該特許権について特許法79条所定の先使用による通常実施権(以下「先使用権」という。)を有すると判断し、A氏の請求を棄却したため、A氏が控訴しました。

2 裁判所の判断

 知財高裁も一審と同様A氏の請求を棄却しましたが、その理由の一部は以下のとおりです。

● Lグループの日本法人を含めたLグループの商品の口紅容器の製造を行っていたC社は、Dの指示に基づき、遅くとも平成18年2月14日(A氏特許の出願前)までに、口紅容器に係る図面を作成した。

● 当該図面には、A氏特許発明の実施品の製造に必要な情報が記載されていることが認められるから、Dは、A氏特許発明について「特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者」に当たる。

● そして、当該図面が作成されたころには、同図面は、フランスのL社に送付されたものと推認され、同社の子会社でLグループの一員である日本L及びその完全子会社であるB社も、B社商品の各部品の輸入時には、A氏特許発明の内容を「知得」していたと評価するのが相当である。

● よってB社は、A氏特許発明について、「特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得」した者に当たる。これらによれば、B社においては、A氏特許権についての先使用権は成立する。

3 解説

(1)先使用権とは

 日本では、ある発明について最初に特許を出願した者が特許を取得するという、いわゆる「先願主義」を採用しています。

それで、甲社がある発明を行い、その後たまたま乙社が同じ発明をした場合に、甲社が特許出願をせず、乙社が特許出願をし特許権を取得した場合、その後甲社がその発明を実施することは、先願主義を貫けば甲社の特許権侵害に当たることになります。

しかし、このような結果は、事業者にとって不当なリスクを与えてしまうことになるため、特許法79条は、「先使用権」という制度を定めています。

 先使用権とは、ある者が、特許権者による当該出願の際に、すでにその発明を実施して事業を行っていたケース、又はその準備を行っていたようなケースでは、当該特許権の登録後であっても、当該発明を実施することができるという権利です。そこには、具体的に次の2つの類型があります。

 (i) 特許権者の発明の内容を知らないで独自に同じ内容の発明をした者
 (ii) 特許権者の発明の内容を知らないでその発明をした者から知得した者

 本件では(i)も争点となりましたが、(ii)についても争点となり、判断が示されました。特に本件では、親会社であるフランスのL社の知得が、その子会社や孫会社(B社)の知得に関連付けられていますが、この点は、実務上も興味深いものがあります。

(2)先使用権の主張における「事業の準備」の意義

 さて本稿では、本件の事例を離れ、実務上問題となりやすい、「事業の準備」について考えてみたいと思います。つまり、研究開発~発明の完成~事業化実験~事業の準備~事業の実施という事業の流れの中で、どこからが「事業の準備」に該当するのでしょうか。この点最高裁は以下のように判示しています。

「いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味する」

 そして「意図が客観的に認識できる程度に表明」されている場合とは、ケース・バイ・ケースですが、例えば、製造設備の製造や金型の製作に着手している、製造のために原材料をすでに購入したりしているといったことが含まれます。

 他方、単に事業計画のアウトラインを公表しただけという段階であれば足りないということになります。また、当該発明にかかる製品について、試作中であり即時に実施の意図が認識されない状況でも同様です。

(3)先使用権の主張に役立つ立証方法

 会社の事業や製品開発などにおいては、製造方法に関する発明など、特許の出願よりもノウハウ秘匿にメリットがあるという判断から、また発明の重要性とコストから、特許の出願をしないというケースがあります。

 このような場合、後日万一第三者が特許を出願・登録してしまった場合に生じる紛争時の立証を考えておく必要があります。

 この場合、いざ紛争となってから証拠を集めようとしてももはや証拠は残っていない(あるいは収集が困難)ということがあるかもしれません。それで、研究開発~発明の完成~事業化実験~事業の準備~事業の実施という一連のプロセスの中で、行ったこととその結果事実を随時記録して、客観的資料として保存管理することが重要といえます。

 先使用権の立証のための証拠資料には、具体的に以下のものが含まれます。こうした日々の管理がいざというときにものをいうかもしれません。

【発明関係の立証】

 ◆研究ノート
 ◆議事録
 ◆実験報告書、技術成果報告書
 ◆発明提案書書
 ◆設計図、デザイン図、その他の図面
 ◆製品仕様書

【事業の実施・準備の立証】

 ◆事業計画書
 ◆見積書、発注書、契約書
 ◆請求書、納品書
 ◆原材料仕入記録簿、発注簿、受注簿、製品受払簿などの帳簿類
 ◆業務日誌、作業日誌、製造記録
 ◆運転マニュアル、作業標準書、検査マニュアル、保守点検基準書、製造工程図等
 ◆製品サンプル
 ◆カタログ、パンフレット
 ◆商品取扱説明書



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