2017-04-11 共有特許の実施と共有者間の合意

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1 今回の事例 共有特許の実施と共有者間の合意

東京地裁平成29年3月29日判決

 A社、B氏、C氏、D氏の4名が、「結ばない靴ひも」に関する特許を共有していました。

 そして、A社がその特許発明の実施品を製造・販売したことに対し、B氏は、当該販売が4名の共有者間の合意に反する特許の実施てあると主張し、損害賠償を請求しました。

 B氏の主張では、特許発明の実施について、(a) D氏が中国国内の工場で実施品を製造し、(b)これをC氏が梱包し、(c) これをB氏が仕入れ、(d) さらにA社がこれを日本に輸入して販売することとし、これを唯一の販売形態とする旨の合意をしていたと主張しました。

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のとおり判断し、B氏の請求を認めませんでした。

● 等特許の出願に際して作成された契約書には、特許発明の実施につき、4者間で協議の上「別途定める」との記載があるものの、これ以外に何らの記載はない。

● また、「別途定める」に該当する、B氏主張の販売形態を唯一の実施形態とする旨の合意がされたことを裏付ける契約書その他の書面は証拠上存在しない。

● A社は当該特許権の共有者であり、共有者であれば、契約で「別段の定め」(特許法73条2項)をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができるから、A社は原則として、特許発明を実施することができる。

3 解説

(1)特許権の共有の概要

 特許権の共有とは、1個の特許権を2名以上で共同して保有することをいいます。

 特許権が共有に至る場合には、本件のように、特許を共同で出願した場合のほか、単独で保有されていた特許権の一部の持分を譲渡するということもあります。

 特許権の共有は、共同開発の結果としては自然な流れではありますが、注意しないとせっかく取った特許が活用できなくなるおそれがあります。以下、その扱いにおいて留意すべき点をご説明します。

(2)共有特許の自己実施

 まず、特許法では、原則として、特許の共有者であれば自由に共有特許の発明を実施することができ、実施料などを支払う必要もありません。

 もっとも「別段の定め」がある場合(特許法73条2項)は別であり、今回の事例において、B氏は、当該特許発明の実施方法について、「別段の定め」があると主張したわけですが、裁判所は証拠での裏付けがないと判断しました。

 しかし、特許発明を利用して共有者間で共同のビジネスを行うと考えているのであれば、合意内容を早期に書面で定めておくことは重要と考えます。

 この点、特許を共同出願するようなときは、通常は共同出願人の間には信頼関係があるだけに、時間がないといった理由や、「書面にしなくてもみな理解している」といった理由で、どのように発明を実施するかについて曖昧なままにしてしまうことがあるかもしれません。

 しかしこの場合、いざ実施の場面になったときに共有者間の認識の齟齬が表れてトラブルになることもありますし、合意に違反する行為を行う共有者に対しても、これを法的に正していくことが困難になってしまうこともあるわけです。

(3)共有特許のライセンス・譲渡

 他方、共有者の一部が、共有特許を第三者にライセンスしたり、共有特許の持分を譲渡する場合、他の共有者の同意が必要とされている点も留意すべき点です。

 それで、自社が開発専業であり、製造能力がなく、開発成果のライセンスから収益を得ことを期待している場合、共同開発契約や共同出願契約などの書面の中で、特許発明のライセンスの可否やライセンス条件について、できるだけ具体的に定めておくことは重要になると思われます。そうでないと、いざライセンスしようというときに共有者の同意が得られず、登録を受けた特許の共有持分が「宝の持ち腐れ」になってしまうからです。
 

4 弊所ウェブサイト紹介~特許法 ポイント解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した特許法については、

https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/

にあるとおり、特許の出願からライセンス、紛争解決の方法まで、
特許法に関する解説が掲載されています。必要に応じてぜひご活用
ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイト
において解説に加えることを希望される項目がありましたら、メー
ルでご一報くだされば幸いです。

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