2011-08-02 絵画の鑑定証書と著作権権法上の引用

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1 今回の判例 絵画の鑑定証書と著作権権法上の引用

 知財高裁 平成22年10月13日判決

 美術品の鑑定を専門的に行うY社は、著名な画家A氏の絵画の鑑定を行い、鑑定証書を作成しました。鑑定証書の裏面には、パウチラミネート加工によって、鑑定した絵画を縮小カラーコピーしたものが付けられていました。

 これに対して、A氏の相続人であるX氏は、Y社がA氏の著作権(複製権)を侵害したとして、Y社に対する損害賠償請求訴訟を提起しました。

2 裁判所の判断

知財高裁は、以下のとおり判断し、X社の請求を認めませんでした。

  • 公表された著作物は、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されている(同法32条1項)。
  • 本件で鑑定証書に絵画のコピーを添付したことは、著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において、公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内の利用であるとして、32条1項の規定する引用として許される。

3 解説

(1)著作権法上の「引用」

 他者の著作物を複製する場合には原則として複製権を侵害することになりますが、著作権法に定める「引用」に該当する場合には、著作権者の許諾なく、著作物を利用できます。

 一般的に、「引用」として適法となるためには、以下の要件が必要であるとされています(なお裁判例などで若干内容に差異があります)。

  • 引用が公正な慣行に合致すること
  • 引用が、報道、批評、研究などの引用の目的上正当な範囲内であること
  • 引用を行う必要性があること
  • 引用部分とそれ以外の部分の主従関係が明確であること
  • 引用部分が明確になっていること
  • 出所の明示

 本件では、鑑定証書について、(a)その鑑定対象である絵画の特定と鑑定証書偽造防止の観点から、添付の必要性・有用性が認められる、(b)贋作の排除・著作物の価値向上・著作権者等の権利保護の観点から、著作物の鑑定のための当該著作物の複製利用は著作権法の規定する引用の目的に含まれる、(c)絵画とカラーコピーが別に流通することや、作家側が絵画の複製権から経済的利益を得る機会が失われることも考え難いことから、鑑定証書へのコピーの添付は公正な慣行に合致したものである、といった判断で、引用の要件に合致すると判断されました。

(2)ビジネス上の留意点

 著作権法上の引用の規定に基づき、他者の著作物を利用するケースは、比較的トラブルが生じやすいケースですので、十分注意が必要です。具体的には、以下のような点に留意する必要があるでしょう。

ア 引用する必要性の存在

自己の記述上、補足・批評、その他、他人の著作物を引用する必要性がなければなりません。

イ 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」

自己の著作部分が「主」であり、引用する著作物が「従」という関係が必要です。引用する部分は必要最小限にとどめることが望ましいといえます。また、質的に見ても、自己の著作部分に実質的な内容がなく、引用部分が実質的に内容の多くを担う場合は「引用」とはいえません。

ウ 引用部分の明瞭な区分

自分の著作部分と引用する著作物が、明瞭に区分されて、引用部分が自分の著作物と誤認されないような体裁上の区分をする必要があります。

エ 原形を保持して掲載する

ある著作物の著作者には、著作者人格権の一つとして「同一性保持権」があります。したがって、当該著作物を編集・変形せず、原形を保持することが必要です。

オ 原著者の意図に反した引用をしない

引用する著作物の文脈を無視して、原著者の意図を曲げて引用するといった引用は許されません。また、著作者の名誉や声望を害した利用も許されません。

カ 出所(出典)の明示

出所を明示することが、多くの場合必要です。

 そして、以上のほか、本件で問題となったように、引用が「公正な慣行」に合致することや 報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であることについては、争いになることが多く、多くの裁判事例があります。

 他者の著作物を通常の学術論文などに通常の目的・方法で引用する場合には、問題となることは少ないでしょうが、ビジネス上の目的で他者の著作物を、「引用」として許諾なしで利用しようとする場合、難しい法的判断が必要となる場合があります。この場合、弁護士などの専門家の助言を得て慎重に進めることが好ましいと思われます。



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