HOME >  交通事故を巡る法律解説 目次 >  後遺障害解説~末梢神経に関する障害

後遺障害解説~末梢神経に関する障害 

 
 このページでは、複雑な問題が絡むこともある末梢神経障害について解説しています。

末梢神経障害と認定されうる後遺障害等級

 末梢神経障害とは

 末梢神経とは、中枢神経である脳及びせき髄から出る神経の総称であり、中枢神経と皮膚・感覚器官・筋肉・腺などとを連絡しています。

 そのため、末梢神経に損傷を受けると、皮膚の感覚障害が生じたり、手足の運動に麻痺が生じたり、慢性的な疼痛が生じたりする場合があります。

 例えば感覚障害については、損傷を受けた神経の支配する皮膚の領域について障害が生じますが、神経が完全に断裂している場合は皮膚の感覚がなくなり、不完全な神経障害では、感覚の鈍麻、痛覚の鈍麻が生じる場合があります。

 なお、本解説の他の項目で取り上げている「頚椎捻挫」(いわゆる「むち打ち損傷」)も末梢神経障害のひとつですが、交通事故被害者の方のうち頚椎捻挫の傷害を受けられる方が多いため、「頚椎捻挫(「むち打ち」)」で解説しています。また、中枢神経系自体の損傷については、「脳の障害」および「せき髄の障害」をご参照ください。

 認定され得る後遺障害等級

 認定される可能性のある後遺障害等級は、基本的に以下のいずれかになります(平成24年時点での自賠責後遺障害別等級表に従っています。)。つまり、むち打ち損傷の場合と同様に、受傷した箇所等に痛みやしびれを残す場合の、その神経症状を評価することになります

(1)12級13号 「局部に頑固な神経症状を残すもの」

(2)14級9号  「局部に神経症状を残すもの」

(ただし、RSD(反射性交感神経ジストロフィ)については、末梢神経障害であってもこれとは別に認定されるため、後に解説します。)

 12級と14級の違い

 自賠責保険実務では、12級は「障害の存在が医学的に証明できるもの」であり、14級は「障害の存在が医学的に説明可能なもの」という考え方をしています。

 12級にいうところの「医学的に証明できる」とは、言い換えると、他覚所見が存在するということです。そして、他覚所見として、(ア)画像診断と、(イ)神経学的検査の両方について一定の結果が得られている場合には12級に認定される可能性が高いといえます。

 他方、この(ア)と(イ)のいずれかが存在しないとか、根拠に乏しい場合でも、治療経過などを総合的に考慮して、14級が認定されることもあります。つまり、14級については、他覚所見には乏しいものの、受傷状況や治療経過、症状の推移や臨床所見などから、現在の症状が発生してもおかしくはないということが医学的に説明できる場合であるといえます。

 なお、(ア)画像診断と、(イ)神経学的検査に関しての説明は、「頚椎捻挫」の項目をご参照ください。

末梢神経障害と機能障害(運動麻痺)

 末梢神経が障害されて生じる後遺障害として、機能障害が生じる場合もあります。この点、自賠責保険の基準では、機能障害については、原則として、障害が生じている身体各部の器官における機能障害として、評価・等級認定を行います。

 例えば、症状固定後に、肘、指の付け根、あるいは膝といった関節が曲がらなくなってしまった場合、あるいは、曲がるとしても怪我をしていない側と比較して相当にその可動域が狭まってしまったといった場合は、それぞれの関節の箇所にかかる認定基準にしたがって等級認定がなされます。

 右肘を例としてあげると、その可動域が、怪我をしなかった左肘の可動域の4分の3以下に制限されてしまった場合は12級、2分の1以下に制限されてしまった場合は10級が認定される可能性があります。

 なお、機能障害については、「上肢・手指の障害」、・「下肢・足指の障害」(現在執筆中)の項目で解説しています。

RSD(反射性交感神経ジストロフィ)に関する問題

 RSDとは

 RSDとは、自賠責保険の基準においては「特殊な性状の疼痛」に分類される、慢性的な疼痛をいいます。

 症状としては、交通事故による外傷が治癒して、本来、痛みも消失してもおかしくはないと思われるところ、激しい痛みが長く残存し、そうした痛みのために四肢の動きが制限を受け、筋肉を使用しないために骨萎縮が出現し、経過とともに進行します。さらに、皮膚の変色や、関節拘縮も発生します。

 南北戦争の頃、片足を失った兵士が、なくなった足の激痛や激しい灼熱痛を訴える症例が確認されましたが、当時はその原因が不明であったものの、現在ではこうした症例はRSDの一例であると考えられているようです。

 RSDの原因

 RSDの原因は、異常な交感神経反射であると考えられています。外傷が生じると、出血を抑えるため、交感神経の作用によって血管が収縮しますが、通常は、傷の修復に伴って収縮した血管も元に戻っていきます。

 しかし、RSDでは交感神経反射の異常により、血管が収縮したままとなり、末梢の血流が阻害されます。そのため、末梢の細胞へ栄養が行き渡らず、組織がやせ細ることによってさらに痛みが発生するといった悪循環を起こすと考えられています。

 RSDと後遺障害認定

 RSDにかかる後遺障害認定については、他覚的所見が重視されます。

 具体的には、[1]関節拘縮、[2]骨の萎縮、[3]皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)の3つの症状が、健側と比較して明らかに認められることが必要となっています。すなわち、これらの症状について、X線、骨シンチグラフィー、MRI、サーモグラフィー、筋電図等によって裏づけられる必要があります。

 その程度や労働能力への影響に応じて、第7級、9級、12級のいずれかの認定を行います。

 RSDの問題点

診断の困難性

 RSDの問題点は幾つもありますが、まず、医師から適正な診断を受けること自体が大変に困難なようです。上述したとおり単なる外傷による痛みではありませんから、整形外科的な判断だけでは足りず、その他の専門医(麻酔科やペインクリニック科等)の協力が必要となる場合もあると考えられます。

 RSDは医学的にも難しい問題であるため、裁判になった場合は、RSDを肯定する医師と否定する医師の意見書等が提出され、法廷が医学論争の場となる場合も少なくありません。

 そのため、RSDの事案については、最終的には裁判において解決しなければならない場合があるにしても、できる限りその前に、RSDに詳しい医師の診断を取り、自賠責保険における後遺障害認定手続や異議申立手続によって適正な等級の認定を受けることに注力すべきであると考えています。

素因減額

 RSDの訴訟実務では、素因減額(交通事故によって発症した症状のうち、一部は被害者自身の素因が寄与しているとされ、その分賠償から差し引かれること)が争点とされ、かつ、判決でも素因減額が認められることが多いといえます。2~3割の減額が多いと考えられています。

 もっとも、素因減額を安易にすべきではないとして素因減額を否定した裁判例もありますので、被害者側としてはすぐに諦める必要はないと考えられます。

ご注意事項

本ページの内容は、執筆時点で有効な法令・法解釈・基準に基づいており、執筆後の法改正その他の事情の変化に対応していないことがありますので、くれぐれもご注意ください。

ページトップへ戻る
Copyright(c) Craftsman LPC All Rights Reserved.