国際商事仲裁の解説

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仲裁手続の概要

仲裁手続とは何か

 国際商取引において紛争が生じた場合の解決は容易ではありません。もちろん国内での紛争解決も決して容易ではありませんが、異なる国どうしの紛争解決ははるかに複雑です。

 この点で、訴訟手続のほか、仲裁(ちゅうさい)という手続が国際紛争において選択されることが少なくありません。仲裁とは、当事者の合意(仲裁合意)に基づいて、第三者(仲裁人)の判断(仲裁判断)によって紛争解決を行う手続のことです。

 これだけを見ると裁判と仲裁のどこが違うのかと思うかもしれませんが、以下のとおり仲裁には裁判とは大きく異なる特徴があります。

 

仲裁手続のメリット

 まず国際商事紛争における仲裁手続のメリットについては、一般に以下のようなものがあると言われています。

非公開性

 ほとんどの国において「裁判の公開の原則」があり、裁判所の裁判手続は、原則として一般大衆に公開されています。しかし、企業にとっては、自社が関わる紛争が公開されることにはデメリットが大きいことが少なくりありません。

 他方、仲裁手続では、多くの場合非公開であり、審理の中身のみならず、手続の存在についても機密性が保たれます。

執行可能性

 国際紛争において、ある国の裁判所で出された判決は、当然に外国で執行できるわけではありません。それで、外国の会社に対し日本で訴訟を起こし、日本で勝訴判決を得たものの、その外国会社が日本に執行できる財産を持たず、外国にある財産を執行しなければ回収できないというようなケースで、このことは重大な問題となりえます。

 実際、日本の判決については、中国、タイ等では原則として執行ができないと解されています。

 他方仲裁については、世界の148の主要国がニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)に加盟しており、ニューヨーク条約加盟国どうしは、外国における商事仲裁についての仲裁判断が、他国にの裁判所によって承認・執行が可能とされています(ただし実務上は国ごとに別途検討は必要です)。

 例えばアジア諸国については、韓国、中国、香港、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、カンボジア、インドネシア、インド、バングラデッシュ、等が加盟国です。また、未加盟国であったミャンマーは加盟予定であると公表されています(ただし国内法の改正なども必要です)。

 他方、アジアでは、台湾、北朝鮮、モルディブ、パプアニューギニア等は未加盟です。ただし台湾は国内の仲裁法で外国仲裁判断の承認についての整備がされています。

仲裁地・仲裁人の選択が可能

 裁判の場合、国によっては、自国の当事者を有利に扱い、外国当事者であるという理由で不利に扱っているのではないかと思われるケースが否定できません。また、開発途上国等では、裁判官の汚職が珍しくないという国もあります。

 この点で、仲裁合意においては仲裁地や仲裁人を選択することができます。それで、両当事者にとっても中立な国での仲裁地と、中立な国での仲裁人を選任することによって、これらのリスクを未然に防ぐことができます。

上訴がない

 裁判の場合と異なり、仲裁判断に対しては上訴ができません。そのため、スピードも重要な商事紛争にとっては、裁判の場合に比較して短期間に紛争を終結させることができることはメリットとなります。ただし、国によっては訴訟のほうがむしろ短時間で終結する場合もあります。

仲裁手続のデメリット

コストが高くなる

 国によっても異なりますが、一般的に、裁判よりも仲裁の方がコストは高額となりえます。

 その理由は、国家機関によって運営されている訴訟とは異なり、当事者が仲裁人報酬を負担しなければならないためです。

 例えば、国際仲裁であれば、国際商事紛争に経験豊富な弁護士が仲裁人となることが多く、その報酬は1時間当たり1名約3~8万円のレンジであることが一般的です。また、その費用に加え、仲裁審問の設営費、通訳・速記者等の費用もかかります。さらには、代理人弁護士の報酬も別途かかる上、代理人弁護士や担当者の渡航費・滞在費も必要です。それで、紛争額が少額の案件では仲裁の利用は現実的ではないかもしれません。

国際契約における仲裁規定の意味

紛争解決手段の選択~仲裁か訴訟か

 まず、紛争解決手段の選択として、仲裁を選択できるかを検討する必要があります。この場合、種々の要素から慎重に検討する必要があります(もちろん相手方との交渉次第ですが)。

相手方の国での執行が可能か否か

 相手方が仲裁か判決に従わない場合に、当該仲裁判断又は判決が相手国の国内で強制執行できるか否かは重要な判断要素です。

 この点相手国において自国を含めた外国の裁判所の判決の執行が難しい場合は少なくありませんし、中国のように日本の判決が執行ができない国もあります。

 他方、仲裁については、相手国がニューヨーク条約加盟国であれば比較的ハードルは低いといえます(もっとも国によって細かい考慮が必要です)。

裁判所の信用性

 相手方の国によっては、裁判所でも汚職が横行しており、裁判所が全く信用できないということがありえます。

 この場合に、自国での裁判管轄の合意を主張することもできますが、第三国での仲裁合意を要請することも重要な選択肢となります。

仲裁規定の留意点~「仲裁地」

 紛争解決の規定として仲裁を選択することにしたとした場合に考えるべき要素の一つは仲裁地です。以下、この仲裁地選択にあたって検討すべき事項を見てみることとします。

「仲裁地」の意味

 仲裁地を考えるにあたっては、まずこの「仲裁地」の意味を理解する必要があります。ここで「仲裁地」とは、単に仲裁廷が行われる物理的な場所とは限らず、仲裁手続を全般的に法的に規律する概念であることに注意を要します。

 すなわち、「仲裁地」がどこになるかは、当該仲裁にどの国の仲裁法が適用されるか、仲裁合意の有効性の判断がどの国の法律に基づくのかという判断に影響があります。さらに、「仲裁地」の裁判所には仲裁判断を取り消す権限もあり得るため、「仲裁地」の選択は重要な意味を持つわけです。実際法的には、実際の仲裁の審理を仲裁地でしなければらなないとは限りません。

相手国で執行可能な仲裁地の選択

 「仲裁地」選択にあたって考えるべき点として、当該仲裁を執行する国の法制度によっては、特定の仲裁地における仲裁ではないと承認・執行を認めないというところもあります。

 例えばインドでは、外国仲裁判断を承認・執行する場合、当該外国がニューヨーク条約に加盟していることに加え、相互主義が満たされているとインド中央政府が官報によって通知した国のみについて承認・執行を認めています。

 それで、インド企業との契約における仲裁合意で仲裁地を選択する場合、インド中央政府の官報に列挙された国を選択する必要があります(なお、日本、シンガポール、香港は含まれています)。

 また、中国、ベトナムのように、他のニューヨーク条約締結国の領域内での仲裁判断についてのみ承認・執行できるという留保をつけてニューヨーク条約を批准した国においては、仲裁地についてはニューヨーク条約締約国から選択する必要があります。

仲裁判断取消のリスク

 国によっては、仲裁判断の取消という形で裁判所が仲裁判断に過剰に介入してくる場所があります。このような国を仲裁地とすることは避けることを検討する必要があります。

仲裁規定の留意点~「仲裁人」

仲裁人の人数

 まず、多くの場合、仲裁人の人数を規定します。ほとんどのケースでは仲裁人の数は1人か3人です。上に書いたとおり仲裁人報酬は非常に高額となりえますので、係争金額が少額となりうる場合、仲裁人を1人とすることが経済的合理性の観点からは妥当といえるケースが多いと考えられます。他方、紛争が複雑で係争金額が多額になりうる場合、仲裁人を3人とするすることが妥当といえるかもしれません。

仲裁人選定の手順

 また、仲裁合意の規定で仲裁人個人名を書くことは稀であり、多くの場合、仲裁人選任の方法・手順を規定します。

 この点でシンプルな規定の仕方は、仲裁合意において仲裁機関を指定し、仲裁人選定方法もその仲裁規則に従うというものであり、多くの場合それで足ります。他方、仲裁合意において仲裁人選任方法を記載するということも可能です。

仲裁規定の留意点~「仲裁言語」

 契約両当事者の母語が異なる場合には、仲裁合意において、仲裁手続の使用言語を決定する必要があります。

 選択する言語によっては、書類の翻訳や仲裁廷開催の際の通訳が必要となり、これにコストがかかるため、こうしたコストを負担する当事者がそれだけ不利な立場に置かれる可能性があります。

 もっとも、多くの仲裁合意では、仲裁言語は英語が選択されることが多いといえます。

各国の仲裁機関(主なもの)

アジア・オセアニア・中東

アラブ首長国連邦(UAE)
イエメン
イスラエル
イラン
インド
インドネシア
ウズベキスタン
オーストラリア
カザフスタン
韓国
カンボジア
  • National Arbitration Centre
北朝鮮
キルギスタン
シンガポール
タイ
  • Thai Arbitration Institute of the Alternative Dispute Resolution Office
  • The Office of the Arbitration Tribunal attached to The Board of Trade of Thailand
台湾
中国
パキスタン
バングラデシュ
フィリピン
ベトナム
香港
マレーシア
モンゴル
レバノン

南北アメリカ

アメリカ合衆国
アルゼンチン
ウルグアイ
エクアドル
カナダ
キューバ
  • The Court of Arbitration for Foreign Trade attached to The Chamber of Commerce of the Republic of Cuba
グアテマラ
コロンビア
チリ
ドミニカ共和国
パラグアイ
ブラジル
ペルー
ボリビア
ホンジュラス
メキシコ

ヨーロッパ・ロシア

アイスランド
アイルランド
英国
イタリア
ウクライナ
エストニア
オーストリア
オランダ
キプロス
クロアチア
スイス
スウェーデン
セルビア・モンテネグロ
スロベニア
チェコ共和国
デンマーク
ドイツ
ノルウェー
ハンガリー
フィンランド
フランス
ブルガリア
ベルギー
ポーランド
ポルトガル
マルタ
モルドバ
ラトビア
リトアニア
ルーマニア
ロシア

アフリカ

アルジェリア
エジプト
エチオピア
ガーナ
  • Commercial Arbitration Chambers, Ghana
カメルーン
コンゴ民主共和国
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