6.3 パブリシティ権の解説

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パブリシティ権とは何か

 

 CMなどの宣伝に著名人が起用されるのはなぜでしょうか。それは、有名人の肖像や名前を使って商品やサービスを宣伝すると、販売が促進されると考えられているからです。また、同様の理由で、商品やサービスに著名人の写真や名前が使用されることも珍しくありません。

 このように、著名人の氏名や肖像は、それ自体が顧客吸引力を備えますので、一つの経済的利益又は価値を有するようになります。この、自己の氏名・肖像から生じる経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利(つまり無断で第三者に使わせない権利)を、パブリシティ権といいます。

 したがって、第三者が、ある著名人の肖像や名前を使って商品やサービスを宣伝したり、肖像や名前を商品に使用したりすることは、その著名人の許諾(ライセンス)を受けない限りこのパブリシティ権を侵害することになり、原則として許されないわけです。

有名人などの氏名や肖像を許諾なしで使える場合、使えない場合

 

許諾の有無の判断基準の概要

 上に述べたとおり、第三者が、ある著名人の肖像や名前を自己の商品やサービスに使用することは、原則として当該対象者の許諾を要します。しかし、法的に見て、当該著名人の許諾を要する使用と、そうでない使用があり、この点については裁判例が少なからずあります。

そして、裁判例の多くは、当該著名人の氏名や肖像の使用が、当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的としているものか否かで判断しています。

ピンクレディー事件最高裁判決

 この点の裁判例のうち最も重要なものといえるのが、ピンクレディー事件最高裁判決(最高裁平成24年2月2日)です。

同事件は、「ピンク・レディ de ダイエット」というピンク・レディの振り付けを活用したダイエット法の特集記事を掲載した雑誌の中で、自らの写真が無断掲載され、パブリシティー権を侵害されたとして、ピンクレディーが出版社に対して損害賠償を求めたものです。

最高裁は、以下の理由から、ピンクレディー側の請求を認めませんでした。

(1)肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもある。それで、自己の肖像等のその使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もある。

(2)肖像等を無断で使用する行為がパブリシティ権を侵害し、違法とされる場合は、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に限られる。

(3)その例としては、以下のような場合がある。

[1]肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

[2]商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付している場合

[3]肖像等を商品等の広告として使用する場合

ペ・ヨンジュン事件

 また、パブリシティ権侵害が認められた例として、ペ・ヨンジュン事件(東京地裁平成22年10月21日判決)があります。これは、著名な韓国人俳優であるX氏が、雑誌Aの出版社Y社等に対し、X氏の多数の写真などが掲載された雑誌Aを出版・販売した行為が、X氏の「パブリシティ権」を侵害するものであると主張して、損害賠償を求めた事例です。

同判決は、以下のような事実を認定し、X氏の損害賠償請求を認めました。

(1)雑誌Aの構成は、X氏の来日の際の活動を紹介を中心とし、そのすべてをX氏の氏名、写真、関連記事、関連広告が占めている。

(2)雑誌Aのそのほとんどのページに、合計74枚のX氏の写真が掲載されている。

(3)表表紙と裏表紙には、X氏の写真が全面に使用され、表表紙にはX氏の氏名が大きく記載。

(4)多くのページの全面にX氏の写真が使用され、記事部分があるページもごくわずかか、数分の1である。

(5)X氏の氏名・肖像は強い顧客吸引力を有すること、雑誌Aが上質の光沢紙を使用したカラーグラビア印刷の雑誌であることなどを併せ考えると、雑誌Aのように表紙及び本文の大部分でX氏の顔や上半身等の写真をページの全面又はほぼ全面にわたって掲載するような態様でのX氏の写真の使用は、X氏の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものと認められ、X氏のパブリシティ権を侵害する。

中田英寿事件

 これは、無断使用がパブリシティ権の侵害ではないとされた事例です(東京地判平成12年2月29日)。

 この事件は中田選手の生立ちを著述した書籍を出版・販売した業者に対して、パブリシティ権を侵害することを理由に、当該書籍の販売の差止等及び損害賠償の請求をした事件です。

 この点、裁判所は、「他人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、右使用が他人の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるかどうかにより」パブリシティ権の侵害の有無を判断するとしました。

 中田英寿事件で問題となった書籍は、裁判所の認定では「その題号の主要部分として原告の氏名が用いられて表紙及び背表紙にこれが大書され、表紙中央部には原告の全身像のカラー写真が大きく表示されており、しかも、その冒頭部分及び本文中の随所に原告の写真が掲載されていて、原告の氏名及び肖像写真を利用して購入者の視覚に訴える体裁になって」おり、この「表紙、背表紙及び帯紙並びにグラビア頁に利用された原告の氏名及び肖像写真については、文章部分とは独立して利用されており、原告の氏名等が有する顧客吸引力に着目して利用されていると解することができる。」と一定の顧客吸引力の利用を認めました。

 しかし、裁判所は、同書籍の中心的部分が、200頁にわたる原告の生い立ちや言動について記述された文章であるとし、さらに次のように述べています。「しかし、右のような態様により原告の氏名、肖像が利用されているのは、本件書籍全体としてみれば、その一部分にすぎないものであって、原告の肖像写真を利用したブロマイドやカレンダーなど、そのほとんどの部分が氏名、肖像等で占められて他にこれといった特徴も有していない商品のように、当該氏名、肖像等の顧客吸引力に専ら依存している場合と同列に論ずることはできない。また、著名人について紹介、批評等をする目的で書籍を執筆、発行することは、表現・出版の自由に属するものとして、本人の許諾なしに自由にこれを行い得るものというべきところ、そのような場合には、当該書籍がその人物に関するものであることを識別させるため、書籍の題号や装丁にその氏名、肖像等を用いることは当然あり得ることであるから、右のような氏名、肖像の利用については、原則として、本人はこれを甘受すべきものである。」

実務上の指針

 最高裁が、具体的な例も示しながらパブリシティ権が侵害される基準を示したことは大きいといえます。

 もっとも、実際の商品開発上、上の最高裁の基準に照らしても、許諾を受けずに著名人の氏名・写真を商品やビジネスに使えるケースは、さほど多くはないと思われます。というのは、例えばカレンダーなどに有名人の写真を使うようなケースは、「商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付している」と評されるのが通常だからです。

 実際のところ、許諾を受けることが最も安全であることは間違いありません。許諾を受けずに使用できるケースは、当該有名人にかかる報道や論評などの刊行物や、当該有名人が歌っていた楽曲の楽譜を出版するといったケースで、必要な範囲で、当該有名人の氏名や肖像を使用するといったケースにとどまるのではないかと思われます。



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