2011-11-01 外国会社サイトの特許権侵害と国際裁判管轄

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1 今回の判例  外国会社サイトの特許権侵害と国際裁判管轄

H22.9.15 知財高裁判決

日本法人であるX社が、Sグループに属する大韓民国法人で韓国内に本店を有するY社に対し、日本国内において、Y社が、X社の有する日本特許権を侵害するY社製品の譲渡の申出を行ったとして、Y社製品の譲渡の申出の差止と、損害賠償の支払を求めました。

これに対し、Y社は、抗弁として、同事件につき、日本における国際裁判管轄を否定して争いました。つまり、この事件は、日本の裁判所には管轄権がないと主張したわけです。

 

2 裁判所の判断

裁判所は、以下のように判断しました。

  • 本件訴えの国際裁判管轄の有無に関しては民訴法5条9号(不法行為地(*))が斟酌される。この『不法行為地』とは、加害行為が行われた地(『加害行為地』)と結果が発生した地(『結果発生地』)の双方が含まれる。
  • それで、不法行為に該当するとしてX社が主張する、Y社による『譲渡の申出行為』について、申出の発信行為又はその受領という結果の発生が日本国内においてなされたか否かにより、日本の国際裁判管轄の有無が決せられる。
  • Y社が英語表記のウェブサイトを開設し、製品としてY製品の一つを掲載するとともに,『SalesInquiry』(販売問合せ)として『Japan』(日本)を掲げ、『SalesHeadquarter』(販売本部)として、日本の拠点(東京都港区)の住所、電話、Fax番号が掲載されている。
  • 日本語表記のウェブサイトにおいても、当該製品を紹介するウェブページが存在し、同ページの『購買に関するお問合せ』の項目を選択すると、当該製品の販売に係る問い合わせフォームを作成することが可能であること、Y社の経営顧問が、その肩書とY社の会社名及び東京都港区の住所を日本語で表記した名刺を作成使用していること、Y社製品の一つを搭載した製品が国内メーカーにより製造販売され、国内に流通している可能性が高いことなどを総合的に評価すれば、X社が不法行為(特許権侵害)と主張するY社製品の譲渡の申出行為について、Y社による申出の発信行為又はその受領という結果が、我が国において生じたものと認めるのが相当である。
  • 本件請求の準拠法は、X社特許権の登録国法である日本国特許法になり、我が国の裁判所が、本件請求を審理判断することは、裁判の適正・迅速を期する理念に沿う。
  • Y社は、東京都において販売の拠点を設けていることをウェブサイトにおいて開示し、英語表記のウェブサイトにおいてY社製品について製品紹介を行い、当該製品が日本にも流通していることを認識している。さらに、日本語表記のウェブサイトにおいてY社製品の購入問い合わせを可能としているのであるから、当該製品に関して我が国において侵害訴訟等が提起されることは予想の範囲内のことということもできる。

 (*)特許権侵害に基づく損害賠償請求も、不法行為に関する訴えの一種です。

 

3 解説

(1)国際裁判管轄とは何か

 本件のように、訴訟が別の国の当事者の間で起こされる場合があります。例えば、A国のX社から、B国のY社に対する訴訟が、A国の裁判所に提起されたとします。

 この場合に、この事件について裁判管轄を有するのが、A国の裁判所なのか、又はB国の裁判所なのかという問題が、国際裁判管轄です。そして、他国の裁判所に訴えを提起されたY社としては、他国の裁判より自国での裁判のほうがやりやすいため、また、他の理由で、国際裁判管轄を争うことが珍しくありません。

(2)国際裁判管轄の判断基準

 国際裁判管轄については、民訴法上の明文規定はありません(*)。それで、最高裁昭和56年10月16日判決(マレーシア航空事件)は、「よるべき条約も一般に承認された明確な国際法上の原則もいまだ確立していない現状のもとにおいては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがって決定するのが相当である」と判断していました。

(*)ただし、例外として、日本が締結している一部の国際条約では、国際裁判管轄に関する規定を含むものがあります(例:「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(モントリオール条約))。また、2011年に成立した民訴法の改正で、消費者契約及び労働関係に関する訴えの国際裁判管轄について規定が整備されました。

 現在の裁判実務は、上記最高裁判例その他の判例をもとに、国際裁判管轄については、基本的には日本の民事訴訟法の管轄規定に依拠しつつ、各事件における個別の事情を考慮して、「特段の事情」がある場合には我が国の裁判所の国際裁判管轄を否定するという枠組みにより、国際裁判管轄の有無が判断されています。

 日本の民事訴訟法では、国内裁判管轄をいくつか定めていますが、その中には、以下のようなものがあります(以下は一部の例示です)。

  • 被告の居所(民訴法2条)
  • それで、不法行為に該当するとしてX社が主張する、Y社による『譲渡の申出行為』について、申出の発信行為又はその受領という結果の発生が日本国内においてなされたか否かにより、日本の国際裁判管轄の有無が決せられる。
  • 法人その他の団体の事務所又は営業所(同4条)
  • 義務履行地(同5条)
  • 被告の財産所在地(同8条)
  • 不法行為地(同15条)

 そして、本件で問題となったのは、上記のうち、「不法行為地」だったわけです。

(3)国際裁判管轄とビジネス上の指針

 例えば、自社の製品が、日本においては他社の特許権の侵害の可能性が高いものの、同種の特許権が登録されていない国があり、その国で製造・販売したいと考えたとしましょう。

 このスキーム自体は、製造・販売・宣伝等がすべて同種の特許権が登録されていない国で行われている限り、何らかの特段の事情がなければ、日本の当該他社の特許権を侵害するとはいえない場合が多いと思われます。

 しかし、本件のように、製品紹介のウェブサイトを日本語で開設したり、日本において販売拠点があるかのような表示をしたり、日本からの問合せを受け付けたり、さらに(日本では)侵害となる当該製品が日本国内で流通しているといったことを認識していたり、といった事情によっては、日本ででの特許権侵害を疑われ、訴訟提起を受ける可能性があります。

 もちろん本件も、国際裁判管轄が日本にあるという判断がなされただけであり、最終的に特許権侵害の有無が判断されたわけではありません。上記の設例も、日本の裁判所で管轄が認められるということと、侵害について敗訴判決を受けることとは別問題ではあります。しかしながら、訴訟提起を受けることそのものに伴う人的、費用的、時間的コストを考えれば、訴訟提起を受けること自体を回避できることのメリットは少なくありませんから、上のような、特許権侵害を疑わせる事情はできる限り拭っておくことは重要ではないかと思われます。

 もっとも、どのような事情があれば日本で国際裁判管轄が認められ、どのような事情があれば認められないかを一律に判断することはできませんし、専門家であっても事前に正確に予測し切ることが難しいことは事実です。しかし、過去の判例などの事情をもとに専門家の助言を受け、少なくともリスクの高い行為については避けるなどの事前対処をすることで、訴訟提起を受けることのリスクは相当に下がるのではないかと思われます。



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