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2011-11-27 事業再編目的の子会社株買取と取締役の注意義務

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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1 今回の判例 事業再編目的の子会社株買取と取締役の注意義務

H22.7.15 最高裁第一小法廷判決

 不動産斡旋賃貸等のフランチャイズ事業を展開するA社が、A社を持株会社としとし、主要事業を完全子会社に担わせるという事業再編計画を策定しました。

 そして、A社は、関連会社の統合・再編を進め、子会社B社を別の子会社C社に合併することを計画しました。そして、A社は、その合併に先立ち、B社を自己の完全子会社とする必要があると考え、買取価格をB社設立時の払込金額である5万円とし、B社の株式の買取を進めました。なお、本件でA社は、監査法人等2社に、株式交換等の方法を念頭に置いて株式交換比率の算定を依頼しましたが、その際に算定されたB社株式の評価額は、約6500円~約1万9000円でした。

 これに対し、A社の株主であるX氏らが、この買取価格は不当に高額であり、A社の取締役であるY1~Y3氏には取締役としての任務懈怠があるとし、会社法423条1項により、A社に対する損害賠償責任があると主張しました。

 

2 裁判所の判断

 最高裁は、以下のように判断し、損害賠償請求を認めませんでした。

  • 事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられている。
  • この場合の株式取得の方法や価格についても、取締役において、株式の評価額のほか、取得の必要性、会社の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない。
  • 本件においても、買取価格の決定が著しく不合理であったとはいい難く、決定過程にも不合理な点は見当たらない。

 

3 解説

(1)取締役の善管注意義務とは

 取締役は、会社から委任を受けて会社の経営という任務を遂行します。そして、取締役は会社に対し、「善良なる管理者の注意」をもって職務を遂行する義務(善管注意義務)を負っています(会社法330条、355条、民法644条)。

 その義務の中には、会社法等の法令を遵守する義務はもちろんのこと、取締役としての地位にふさわしい能力と識見に基づく注意を払って職務を遂行し、会社に損害を与えないようにする義務が含まれます。

 この点、どんな場合に、善管注意義務に違反するといえるのか、それが具体的な法令に違反する行為であれば分かりやすいのですが、そうではなく、法令には違反しない取締役の決定や行為が善管注意義務に違反するか否かの判断は容易ではありません。

(2)善管注意義務違反の判断枠組

 取締役に善管注意義務の違反があったかどうかを裁判所が判断する際には、一般に、以下のような考え方が取られています。すなわち、

 (A)経営判断の過程と

 (B)経営判断の内容について、

  • 行為当時の状況に照らし、合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか
  • 当該状況と、取締役に求められる識見水準・能力水準に照らし、その判断に不合理・不適切点はなかったか

といった判断枠組です。

 したがって、経営実務においても、何か会社にとって重要な決定をなす場合には、以上のような判断枠組を意識して、善管注意義務違反に問われないための方策が必要です。

 以下、特に経営判断の過程について留意すべき点に若干触れたいと思います。

(3)ビジネス上の留意点~意思決定過程で踏むべき手続

 最高裁は、A社の決定の過程について、経営会議での検討と弁護士からの意見聴取をあげて、具体的な内容に踏み込むことなく、その決定過程に何ら不合理な点は見当たらないとしています。

 この最高裁の緩やかな判断は、経営者の判断を不当に萎縮させることがないという意味で意味のあるものではあります。

 しかし、経営実務の観点からは、だからといって甘い判断やラフなプロセスで構わないと考えるのは速断でしょう。実務としては、株主からの責任追及をできる限り避けるためにも、慎重に対応し、踏むべきプロセスはできるかぎり検討・実行するほうが望ましいと考えます。

 例えば、本件でもA社は、監査法人等2社に、株式交換等の方法を念頭に置いて株式交換比率の算定を依頼しています。その際にB社株式の評価額が算定されています。同様に、監査法人・公認会計士等の独立した専門家の価格評価を取得すること、買取価格であればこれを考慮に入れることも、通常は外せないプロセスです。

 また、本件では算定された評価に比べ相当に高額の買取価格が設定されたわけですが、この点、本判決の原判決である高等裁判所の判決は、以下のような点の判断に不合理な点がなかったのかを検討し、これらの点についての調査検討が十分に行われたことを伺わせる証拠がないとしました。

  • 1株5万円という買取価格が買取を円滑に進めるために必要か否か
  • より低い価格では買取が円滑に進まないといえるか否か
  • 買取価格の乖離の程度と買取によって期待できる効果との間の均衡

 最高裁は高等裁判所のような判断をしませんでしたので、上のような点の調査検討は必ずしも必須とまではいえないかもしれません。

 しかし、実務としては、紛争の結果勝訴できるか否かもさることながら、紛争の回避も同様に重要です。したがって、上に例示されるような、判断内容の合理性を担保する要素についても、独立した第三者の専門的知見を踏まえつつ、必要な決定機関(取締役会等)で十分な検討がされることが望ましいと考えられます。

 この点、訴訟実務上の観点からは同じくらい重要といえるのは、上のような十分な検討の過程を、会議体においては議事録等において記録にとどめ、しっかり証拠化することです。また、独立した第三者の専門的知見(弁護士による法的見地からの意見、企業会計の観点からの専門家の意見)についても、書面での意見を取得し、証拠化することです。

 このようにして判断の内容の合理性について十分に調査検討したというプロセスを記録に残し、その過程をいつでも十分に立証できるようにしておくことは、不当な責任追及を受ける可能性を低下させ、思い切った経営判断を行なう障害の一つを除去することにつながるものと思われます。



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