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2012-10-02 仕事上のミスを理由とする使用者の損害賠償請求

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

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1 今回の判例 仕事上のミスを理由とする使用者の損害賠償請求

京都地裁 平成23年10月31日判決

今回は、システム設計開発会社であるX社と、同社の社員Y氏との訴訟です。本件では、幾つかの争点がありますが、一点だけを取り上げます。

Y氏が、取引先A社を担当するX社内のチーム責任者兼担当窓口になった頃から、納品業務に不具合がある等A社からのクレームが入るようになりました。結果、A社からの受注は減り、売上が減少しました。

X社は、Y氏の業務内容に問題(X社の定めたルール違反、プログラム作業のノルマ未達成等)があったとして、Y氏に対し、代わりのスタッフの人件費や売上減少分等の損害賠償を請求しました。

本件では、労働者Y氏が労働契約上の義務違反(債務不履行)につき損害賠償責任を負うかどうか、言い換えれば、使用者の損害賠償請求が認められるかどうかが問題となりました。

 

2  裁判所の判断

裁判所は、以下のとおり判断し、X社の請求を認めませんでした。

  • 売上減少やノルマの未達成につき、Y氏のミスが原因であることは認められるが、故意または重過失があったとまでは認められない。
  • 労働者が仕事上ある程度のミスをしてしまうことは当然あり得ることで、このミスの結果として売上減少等が生じることのリスクは想定の範囲内として、使用者が負うべきである(危険責任)。
  • X社の請求する損害額(約2000万円)は、Y氏に支給された給料総額と比べるとあまりにも高額であり、労働者個人に負担させることは相当ではない。

 

3 解説

(1)労働者に対する損害賠償請求の制限

 労働契約においては、対等関係にある企業間の場合とは異なり、使用者の労働者に対する損害賠償請求(労働義務違反、不法行為の場合両方)につき、権利行使が制限されることがあります。

 例えば、労働基準法では違約金や賠償額の予定が禁止されており(16条)、賠償金を労働者の同意なしに賃金から天引きすることも禁止されています(24条、17条)。

 加えて、本件と同様に、多くの裁判例では、信義則を根拠として、使用者の労働者に対する賠償請求に関して制限を加えています。以下に裁判例での判断のポイントを整理します。

 ■ 賠償請求が認められない場合

 労務提供過程で生じる通常のミス(軽過失)による損害だった場合には、賠償請求自体が認められないことが多いといえます。

 ■ 賠償請求が制限される場合

 使用者(会社)に生じた損害が労働者の故意や重過失がある場合であっても、以下の事情を考慮してケースバイケースに賠償額が制限されることが多いといえます。請求額の半分または25%程度に減額されるケースが多く見られます。

   A 労働者のミスの程度・動機等

   B 労働者の状況(地位・職務内容・労働条件・勤務態度)

   C 使用者の管理体制(適切な指示や訓練がされていたか、保
   険加入等の有無)

 ■ 賠償請求が制限されない場合

 横領や背任などの悪質な不正行為、社会通念上相当な範囲を超える引き抜きといった場合には、多くのケースで賠償額の制限が考慮されていません。

(2)実務上の留意点

 近年、使用者が、仕事上のミスで損害を発生させた労働者に対し、懲戒処分や解雇に代えて金銭賠償を求めるケースが増えているようです。

 しかし、明確な違法行為がなされた場合は別として、労働者のミスによるものであっても、賠償請求が認められない場合や認定額が大幅に制限される場合が少なくなく、無闇に使用者側がコストをかけて損害賠償請求を起こしても、結果的にはコストや労力に見合わない成果で終わってしまう場合も十分に想定されるところです。

 判例の考え方に示されているとおり、会社としては、従業員を雇用する際には、他人を使用して利益を得ることの裏返しとして、業務の通常の過程で生じうる過失によって使用者が受ける損害についてのリスクは負担しなければならない、という点は十分留意すべき点ではないかと考えられます。

 そこで、そもそもミスが発生しにくい労働環境を作り出すこと、一人の人のミスが会社の重大な損害を生み出しにくい業務体制や方法の構築など、リスクを想定して対策を講じておくことは大切であるといえます。

 また、こうした常日頃からの会社としての努力があれば、万一、看過できない重過失などで会社に損害を与えた社員に損害賠償請求をする場合であっても、会社側の過失相殺を理由とした賠償額の大幅な減額という結果につながる可能性を減殺することができるかもしれません。

 

参考ページ:労働法務務解説 http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/


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