2012-12-18 特許権侵害と先使用権

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1 今回の判例 特許権侵害と先使用権

東京地裁平成24年9月20日判決

板状体のスカーフ面加工方法及び装置に関する特許権を有するX社が、Y社の製造販売するスカーフジョインターについて、X社の特許権にかかる特許発明の技術的範囲に属すると主張して、Y社に対し、そのスカーフジョインターの製造、販売等の差止、廃棄、損害賠償等を請求しました。

争点は多岐にわたりますが、本稿と関係する範囲で述べるとY社は「先使用による通常実施権」を主張しました。

すなわち、Y社は、平成9年7月ころ、Y社の従業員がX社発明と技術的思想を同一にする発明を完成し、さらに、Y社は、X社の発明の内容を知らないで,平成9年7月ころ当該発明にかかる製品を取引先に販売したり、同年10月29日から11月2日までの間、展示会に出展するなどした、と主張しました。

 

2  判決の内容

裁判所は以下のように判断しました。

  • Y社が製造したスカーフカッターに係る発明は、X社の発明と同一の発明であると認められるところ、その発明をしたY社の従業員を具体的に特定することはできないものの、Y社はその発明をした従業員からこれを知得して、本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしていた。
  • Y社が当時X社発明の内容を知っていたこと窺わせるような証拠は全くないから、このことに鑑みれば、Y社は、X社発明の内容を知らないでその発明をした従業員からこれを知得したものと認められる。
  • そうすると、Y社は、本件特許権について、先使用による通常実施権を有する。

 

3 解説

(1)先使用権とは

 日本では、ある発明について最初に特許を出願した者が特許を取得するという、いわゆる「先願主義」を採用しています。

それで、A社がある発明を行い、その後たまたまB社が同じ発明をした場合に、A社が特許出願をせず、B社が特許出願をし特許権を取得した場合、B社の特許権取得後にA社がその発明を実施することは、先願主義によればB社の特許権侵害に当たることになります。

しかし、一律に先願主義を徹底すると、この事例のように、B社の特許出願前から当該特許と同じ内容の発明を実施していたA社のような立場の当事者が当該発明を実施できなくなってしまいます。しかしこれでは事業者にとって不当なリスクを与えてしまうことになるため、特許法79条は、「先使用権」という制度を定めています。

 先使用権とは、ある者が、特許権者の発明の内容を知らないで、独自に特許権者と同じ内容の発明をした場合で、特許権者による当該出願の際に、すでにその発明を実施して事業を行っていたケース、又はその実施のための準備を行っていたようなケースにおいては、当該発明を実施することができるという権利です。そして、先使用権を持つ当事者に対し、特許権者は差止請求権等を行使することができません。

(2)技術の公開・秘匿と先使用権の活用

 特許制度は、特許出願を通じて世の中になかった発明の内容を公開させ、その代償として一定期間独占権を付与することにあります。つまり、発明内容の公開による産業の発達への寄与が特許制度の本質といえます。

 しかし、近年、国際的な技術開発競争が激しくなる中、結果的に技術を公開することになってしまう特許出願を選択せず、むしろ当該技術を秘匿しあえて出願しないという戦略を取るケースが増えてきています。製造ノウハウ、その他のノウハウのように、公開しなければ他社が発見・解析できず、又は容易には追随できないような技術については、事実上当該技術の独占を一定期間実現することを狙うことができるため、有効な戦略といえるでしょう。

 ここで問題となるのは、秘匿していた自社の技術と同様の技術を他社が開発し、特許取得してしまった場合です。しかしそのような場合、先使用権を主張することができれば、その事業を継続することが可能です。

 もっとも、ここで留意しなければならないのは、先使用権が認められるために、特許法79条の要件を満たすことに加え、その事実を立証できることが必要となるという点です。

 そのため、ある技術を秘匿化する戦略を取り、かつ万一の場合の第三者から特許権による差止請求権を受けるリスクを回避・軽減するためには、日々の業務の中で先使用権の立証のための準備を行っておき、いざという場合に備えることが必要となります。

 論述スペースの関係で、本稿では概括的な記述にとどまりますが、先使用権に関する個別の問題・論点や、先使用権の立証の方法・留意点等については、おって別の機会に申し上げたいと思います。

 

参考ページ:特許法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/


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