2013-06-11 特許発明の新規性喪失と公然実施

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1 今回の判例 特許発明の新規性喪失と公然実施

以下、事実関係の説明が長くなります。ご容赦ください。

大阪地裁平成25年2月7日判決

 A社は、発明の名称を「鍋」とする特許(平成18年12月出願)を有しており、同発明を実施する製品を第三者に製造させて販売していました。A社製品の特徴は、ナイトロテック処理といわれる高温特殊熱処理を鍋に施した点にありました。

 そして、A社は、家庭用金物の製造販売等を営むB社とC社に対し同社らが製造販売する製品の差止と損害賠償等を求め提訴しました。

本件での争点は多岐にわたりますが、本稿では、A社発明の新規性欠如の有無について取り上げます。

 裁判所の事実認定によれば、平成6年10月ころから、A社発明と技術的に同一の製品合計1102個が、モニター用として多数の取引先担当者等に進呈され、当該製品であるフライパンの持ち手に「ナイトロテック処理」と表記したシールが貼付されたほか、ナイトロテック処理を適用した製品であることが説明書等によって明示されていました。

B社とC社は、前記のようなフライパン等の販売や頒布等が、特許法29条1項2号の公然実施に当たると主張し、A社特許の無効性を主張しました。

 

2  判決の内容

  • A社は、一般人が「ナイトロテック処理」との表示を見たとしても、同処理の内容を具体的に認識することはできないから「公然実施」には当たらないと主張する。
  • しかし、「公然実施」について、当該発明の内容を現実に認識したことまでは必要ではなく、知り得る状況で実施されていれば足りると解すべきである。
  • 「知りうる状況」の判断の基準は一般人ではなく当業者と解すべきである。
  • そして、ナイトロテック処理の内容自体が公知であったこと、取引先の担当者等に頒布するに当たってナイトロテック処理によるものであることを明示していたこと等から、本件では当業者が知りうる状況で実施されていたといえるから、A社の主張には理由がない。

 

3 解説

(1)特許発明の要件~新規性と公然実施

 特許を受けることができる「発明」には、「新規性」、言い換えれば今までにない「新しいもの」が含まれている必要があります。なぜなら、すでに世の中に知られているような発明に特許によって独占権を与えることは社会にとって害となるからです。

 そして、ある発明が新規性を喪失したと判断される一つの理由が「公然実施」というものです。

 具体的には、特許法29条1項2号にあるとおり、「特許出願前に日本国内又は外国で公然実施された発明」である場合です。すなわち、発明が、出願前に、その内容が公然に知られる状況、又は公然に知られるおそれのある状況で実施をされたという場合です。

 ここで留意する必要があるのは、今回の判決のとおり「公然知られる状況」「知られ得る状況」にあれば足りる、ということです。つまり、他者に現実に知られたか否かは問わない、という点、十分な留意が必要です。

(2)実務上の留意点

 ある画期的な発明や製品開発がされた場合、できる限り早くビジネスにつなげたいというのは自然なことと思います。しかし、この点で前記のような「公然実施」について十分に留意しないと、せっかくの発明が無効となってしまいかねません。

例えば、開発部、知財部、営業部等の間での社内での意思疎通がうまくいっておらず、ある新製品に関する発明が未出願であり秘密保持の必要があるという点が徹底されていないために、営業部署の社員が展示会に出してしまう、また取引先にサンプルを提供するといったことを行ってしまうということがあるかもしれません。

それで、未出願の発明については、そもそも社内での情報管理を徹底し、出願前は社内での開示の範囲を一部の関係者のみ厳格に限定するか、あるいは、秘密保持の必要を社内で徹底するなどの対策が必要であると考えられます。

また、ある特許発明の製品の試作を第三者に委託した場合で、その第三者と秘密保持契約の締結を失念していたために、その結果公然実施(又は公知)と判断されるリスクを負うこともありえます。この点については、秘密の内容をきちんと特定した秘密保持契約を当該第三者と結ぶといった防止策を徹底すべきでしょう。

 

参考ページ:特許法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/


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