2011-07-23 テナントビルの賃貸借と看板の撤去

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1 今回の判例 テナントビルの賃貸借と看板の撤去

最高裁 平成25年4月9日判決

 Xは、Aから繁華街にあるテナントビルの地下1階部分を賃借して蕎麦屋を営んでおり、Aから承諾を得て、地下1階へ続く階段の1階入口付近に看板、ショーケース等を設置していました。

 Xは昭和39年頃からこの建物部分を賃借して蕎麦屋を営業していましたが、平成22年にこのテナントビルがAからB、BからCに売却されました。BC間で作成された売買契約書には、このテナントビルには賃借人がおり、看板等があることも記載されていました。

 ところが、Cは、Xには看板等の設置権原はないので、看板等を撤去せよと求めました。

 

2  判決の内容

 最高裁は、以下の事情を考慮して、CがXに看板等の撤去を求めることは権利の濫用にあたる、と判断しました。

  • Xにとって看板等は、地下1階の建物部分と一体のものとして利用されてきたし、看板等がないと繁華街の通行人に蕎麦屋が営業中であることを示す方法がなくなって、店を続けるのが難しくなる。
  • 契約書に看板等があると記載されていたことや、看板等の位置からすれば、Xが元々の所有者から承諾を得ていたであろうことはCも十分知り得たはずであるし、Cには看板等の設置箇所の利用について他に具体的な目的があるわけでも、看板等があることで具体的な支障が生じているわけでもない。

 

3 解説

(1)建物賃借権の対抗力が及ぶ範囲

 自分が賃借している建物のオーナーが途中で変わるということは稀なことではないでしょう。この場合、借地借家法31条により、賃借人が「建物の引渡し」を受けていれば、変更後のオーナーに対しても賃借権を主張することができ、賃貸借を継続することができます。このことを賃貸借の「対抗力」といいます。

 では、テナントビルの一区画を賃借している場合に、建物賃借権の対抗力は、そのテナント部分から離れた共有スペースにある看板やショーケースにも及ぶのでしょうか。

 この点、本判決は、当然に対抗力が及ぶ範囲としては、賃借しているテナント部分と物理的にひと続きで、賃借人だけが占有使用できることになっているスペースに限られ、離れたところの共有スペースに設置された看板等には及ばないとの前提に立ちつつ、権利濫用という法理を用いてX(賃借人)の言い分を認めました。

(2)実務上の留意点

 今回のケースのように古くから賃貸借が継続していたり、元々の所有者と個人的な付き合いがあって賃借したような場合など、お互い了解しているものの契約書には明記されていない取り決めなどができていることもあると思います。その中には、今回のような看板、ショーケースの設置のほか、来客用駐車・駐輪スペースの無料使用などもあるかもしれません。そして、これら付帯設備であっても、本件のように、賃借物件の利用にあたっては非常に重要な位置を占める場合もあります。

 しかし、昨今の不動産事情からすれば、いつ何時所有者が交替するか分かりません。従前口頭レベルで認められていた権利であっても、新所有者が否定してきた場合、契約書に書かれていないと非常に苦しい立場に置かれてしまいます。

 本判決では、結論としては個別の事情を考慮して権利濫用が認められましたが、借地借家法の解釈が賃借人に有利に広げられたとまではいえず、オーナー側の主張が常に権利濫用として退けられるとは限りません。

 それで、現状当事者間で了解を得ているものの、契約上重要な事項について実は契約書にまだ記載されていない事項がないかどうか、今一度契約書を見直してみることは無駄な作業ではないように思われます。そして、紛争に至る前、すなわち当事者間で平和的なやり取りができる間に、遺漏のない契約書を整えておくことは、将来のリスク回避のために重要なことではないかと考えます。

 

参考ページ:契約書作成・リーガルチェック https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/keiyaku/


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