2011-09-03 多額の借財と取締役会決議

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1 今回の裁判例 多額の借財と取締役会決議

東京地裁平成24年2月21日判決

Y社は、A社を筆頭とするAグループというグループ企業の一つであり、Aグループ間での資金融通の一環としてA社に転貸融資するつもりで、X銀行から2億円の融資を受けることにしました。

この融資の交渉は、Y社の代表取締役Bが担当していたので、X銀行の担当者Cがこの借入について取締役会決議の要否を確認したところ、Bは不要だと答えました。そこでX銀行は、その根拠についてそれ以上確認・調査することなく貸付を実行しました。

 しかし、A社が破産してしまったため、Y社がX銀行への返済ができない事態となり、X銀行がY社に対し、貸金返還請求訴訟を起こしました。

 これに対してはY社は、2億円もの借入は、会社法362条4項2号の「多額の借財」にあたり取締役会承認決議が必要であった等と主張して、本件貸付契約は無効であると反論しました。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、本件貸付を無効としました。ただし、X銀行の不当利得返還請求は認めました。

 1)資本金11億円、総資産35億円、経常利益600万円のY社にとって、2億円の借入は、会社の財務・経営への影響が極めて大きい上に、A社への転貸融資目的というY社の売上に直接貢献するものでもなかったことなどを総合すれば、「多額の借財」にあたる。

 2)Cは、BからY社では取締役会決議不要との回答を得ていたことから、決議がないことを知っていただけでなく、Y社の過去3年分の決算書等を検討し、貸付金の使途についてもBからある程度説明を受けていたことから、金額や使途の点からしても「多額の借財」にあたると認識が十分可能であったのに、調査を怠った点で過失がある。

 

3 解説

(1)「多額の借財」等についての取締役会決議

 会社法362条4項は、「多額の借財」や「重要な財産の処分及び譲受け」を行うには取締役会決議が必要となる旨定めています。それは、それらの取引が類型的に会社の業務・財産に重大な影響を及ぼす事項であることから、代表取締役の独断ではなく取締役全員の協議により慎重な判断を行わせるためです。

 この点、どの程度なら「多額の」「重要な」にあたるのかについては、一律の数字上の基準があるわけではありません。裁判所は、その額、会社の規模、事業の状況、会社の総資産に占める割合、取引の目的、会社における従来の取扱い等の事情を総合的に見て、個別具体的に判断しています。

 そこで少しでもイメージを持っていただくため、具体的な過去の事例を挙げると、以下のようなものがあります。

  • 会社の総資産の1.6%に相当する保有株式の譲渡について、額の大きさや営業のために通常行われる取引ではないことなどから、「重要な」財産の処分にあたるとした例
  • 関連会社の10億円の債務についての保証予約について、保証額は会社の総資産の0.51%、負債額の0.75%相当にとどまるものの、資本金に占める割合は7.75%と高く、社内に1件5億円以上の債務保証は取締役会の付議事項とする旨の取締役会規則があることなどから、「多額の」借財にあたるとした例
  • バーを経営し、出資金100万円、年間売上高2200万円の有限会社が600万円の借入れをすることは「多額の借財」にあたるとされた例
(2)実務上の留意点

上記のように一概に判断できないという面はあるとはいえ、もし本来は取締役会決議が必要であったのにそれを経ていなかったために後で取引が無効となったり他の損害が生じた場合、当該取引にあたった取締役自身の任務懈怠はもちろんのこと、当時の他の取締役や監査役も監視義務違反を理由に責任を追及される可能性があります。また、取引先にも迷惑をかけることになりかねません。

 特に、会社の関係者間で関係が良好なうちはあえて決議を行わないことが特に問題となることはないでしょう。しかし、取締役が100%株主である会社ならともかく、そうでない場合は、創業以来の設立者間の協力関係が何らかの理由で壊れ、株主間や取締役間で内部紛争が生じ、過去になされた取引について会社法上の不備が急に問題視される、ということはよくあることです。今回の事例でも、取締役会決議がないという主張がなされた背景には、取引後に筆頭株主やY社の役員構成が大きく入れ替わったという事情があったようです。

 特に新会社法の制度のもとでは、取締役会の開催や決議の制度が、中小企業の現実に合わせて工夫できるようになりました。それで、会社法に照らして取締役会決議の要否について予め慎重に検討し必要な決議を得ておく、こうした日常の手間暇が、将来の紛争という大きなコスト・リスクの回避のため有益な結果となるのではないかと考えます。

 

参考ページ:会社法解説 http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/


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