2014-12-16 一方的に委託者側有利の契約条項

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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1 今回の判例  一方的に委託者側有利の契約条項

知財高裁平成26年4月23日判決

 CD、DVDやデジタルコンテンツを製作販売する会社B社が、フリーのカメラマンA氏にDVD製作のための録音録画物の製作を委託しました。

 そして同製作委託契約によれば、A氏側の帰責事由のためB社が契約を解約した場合の効果について、以下のような規定が置かれていました。

(1)A氏は受領済みの委託料その他の金銭を返還しなければならない
(2)B社は、成果物や素材の著作権・所有権等を失わない

 そして、B社は、A氏の契約違反を理由に製作委託契約を解約したうえで、契約条項に基づき、支払済みの委託料の返還・成果物の著作権の確認等を求めました。

 なお本件においては相互に種々の請求がなされており、争点も多岐にわたりますが、本稿においてはB社からの委託料の返還請求に絞ってご紹介します。

2 裁判所の判断

裁判所は、以下の理由から、B社からの委託料返還請求を棄却しました。

  • B社による解約の場合に、A氏に既払金の返還を求めることができる一方、B社が成果物に関する権利を失わないというのは、B社に片面的に有利な規定である。
  • 受託者が順調に業務を遂行していない場合や著しい不行跡があった場合などの解約事由によってB社が解約する場合であれば、B社が支払済の金銭を回収するとともに著作権等の権利をめぐる紛争に巻き込まれる懸念を回避する必要性等から、本件のような解約条項を適用しても合理性に欠けることはない。
  • しかし本件では、A氏から納品された成果物を収録したDVDが発売済であって支払った対価はほぼ費消されたとみられること、未納入の映像数が納入済の映像数に比べ格段に少ないこと等から、既払金の返還を認める必要性は低く、A氏にことさらに大きな負担を強いるものであって、適用されるべきではない。

3 解説

(1) 契約自由の原則とその例外

 今回の事例では、当事者間で締結された契約規定が文字どおり適用されず、一部の適用が否定されました。

 この点、民法には「契約自由の原則」、つまり契約締結の有無や内容について当事者間で自由に決定することができるという原則がありますが、今回の事例が示すとおり、契約内容がそのとおり適用されず、一定の制限を受けることがある、というわけです。

 その理由は、「契約自由の原則」を無制限に許すと、社会的経済上無視できない不都合が生じるからです。実際、民法や他の法律はこの原則に対する例外を設けています。例えば、「公序良俗」といって、公の秩序や善良な風俗に著しく違反するような契約は無効となると定められています。

 公序良俗違反の例としては、「暴利行為」というものがあります。例えば、フランチャイズ契約などでは、加盟店側からの中途解約時に極めて高額な違約金が定められる例がありましたが、そうした違約金が、当該解約から本部に生じる通常の損害と比較して極端に多額の場合、その規定が無効とされたり、一定の金額に制限されるという判断がなされてきました。

 この点今回の事例では、直接は公序良俗等は問題となっていませんが、会社側に一方的に有利な契約条項が締結されたのは、発注者たる会社と個人のカメラマンという力関係の差もあったのではないかと思われます。そして、裁判所は、このような一方的な契約規定について、適用範囲を限定的に解釈し、バランスの取れた結論へと導いたわけです。

(2) 契約条項作成の際の留意点

 契約なり取引は、相互にギブアンドテイクの関係にあり、通常は有利な規定も不利な規定も併存することになります。確かに、契約書を作成する際には、自社に有利な条項を盛り込もうとすることは当然のことですが、通常対等な力関係の当事者どうしであれば一方的な契約では相手方は呑まず、交渉の結果自ずと落ち着くべきところに落ち着くことが多いといえます。

 他方、契約の相手方との力関係の差から、一方的な契約内容であっても相手方が呑んでしまうという場合には、そうした一方的な規定を提案し、押し切ろうとするかもしれません。

 しかし、契約規定があまりにアンバランスなものについては、いざ紛争になった場合に、裁判所が適用場面が限定したり、無効と判断することによって、自社に不利な結果になってしまうというリスクも考えておく必要があります。それで、自社の利益を守るために有利な規定を考えることに加え、契約を結ぶ相手の立場や利益も考えながらある程度はバランスを取った規定を作成するという視点も重要となります。

(3)独禁法上の「不公正な取引方法」の考慮

 この点で役立つ一つの道具は、公正取引委員会が公表している様々な取引類型についてガイドラインです。こうしたガイドラインは、「不公正な取引方法」を規制する独禁法の規定を具体化するものですが、この不公正な取引方法は、ある意味、不均衡な力関係の当事者間のアンバランスな取引を是正するという意味で、上に申し上げたような「バランス」の考慮と相通じるものがあるからです。

 例を挙げれば以下のようなものがあります。こうした指針を考慮することは有益であるかもしれません。

 ◆ 大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法

http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/tokuteinounyu.html
どのような場合に、独禁法上の不公正な取引にあたるか、不当な返品や不当な値引き等の具体的な定義を挙げています。

 ◆ 役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針

http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/itakutorihiki.html
サービス提供取引をめぐる種々の行為について取り上げられています。

 ◆ 下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準

http://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/unyou.html
製造、修理、プログラム開発等の取引について、支払遅延、買い叩き、返品等の親事業者に禁止される行為を定めています。



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