2014-04-15 株主総会決議を経ない役員報酬の支給

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1 今回の判例    株主総会決議を経ない役員報酬の支給

 

東京地裁 平成25年8月5日判決

 株主が設立者とその親戚だけであったA社では、昭和27年の創業以来、平成23年6月まで株主総会が開催されたことがなく、株主総会で役員報酬についての決議がなされたこともありませんでした。役員報酬については代表取締役が税理士と相談しながら各役員に支払われており、それについて特段異議が出ることはありませんでした。

 ところが、実質的な経営者がB氏になってしばらくした平成24年3月、A社(背後にはB氏ら)がかつての代表取締役であったC氏の役員報酬について、株主総会決議を経ない無効なものであると主張して、4年分の合計2400万円の返還を求める訴えを提起しました。

 そこで、株主総会決議を経ていない役員報酬の支払は有効かという点が問題となったのが本件です。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下の理由でC氏に対する役員報酬の支払いを有効と判断しました。

  • 会社法は取締役の報酬等の額を定款又は株主総会決議によって定めるものとしているが、株主総会決議を実際に経ていなくても、それと同視できる場合つまり全株主の同意があった場合は、特段の事情のない限り当該役員報酬の支払は有効になる。
  • A社については、役員報酬が支払われた当時、B氏らは株主総会の不開催に異議も述べない無関心な株主で、株主総会を開催することなく一定の役員報酬が支払われていたことを認識しつつ許容していたのだから、実質的にはA社の株主全員の同意があったのと同視できる。

 

3 解説

(1)役員報酬支給に必要な手続

 意外と知られていないのですが、会社法上、役員報酬の支給には、株主総会決議又は定款の定めが必要とされています(会社法361条1項)。

 その趣旨は、役員が自己の報酬を自分で決めることができるとなると、「お手盛り」で役員報酬が決まり、会社(株主)が損害を被る可能性があるためです。

(2)実務上の留意点

 この点、今回の裁判例は、過去に株主総会において役員報酬の支給が決議されたことがなかったケースで、事後的に株主総会決議があったものと同視できるとして、役員報酬の支払を追認しました。

 しかしながら、すべてのケースで同様に株主総会の不開催が救済されるとは限りません。この点役員自身が100%株主である場合なら別として、ごく親しい身内以外の他者が株主に入ってきた場合や、従来良好な関係にあった株主間で仲違いが生じた場合には、こうした摩擦が会社法上の手続不備を突く形で法的紛争として顕在化することも珍しくありません。

 そして、法的紛争が顕在化した場合、仮に最終的に訴訟で勝訴したとしても、訴訟対応の費用、コスト、労力、時間は無視できない負担となります。

 また、株主総会において役員報酬を決議することで、第三者である株主に自分の収入が明らかになってしまうのではないかという懸念もあることでしょう。しかしその点、株主総会決議では個々の役員の報酬額まで厳密に決議する必要はなく、取締役全員の報酬額の総額を定めれば足ります。さらに、金額としても厳密に現実の支給額と同一の金額である必要はなく、○○円「以内」という定め方ができます。したがって、個々の役員の実際の報酬額を明らかにせずに会社法の要請を満たすことは多くの場合可能というわけです。

これらメリット・デメリットを考えると、多少手間であったとしても、後々のリスクを防止できることを考えれば、株主総会決議を行うことのメリットはあるといえると考えます。

 

参考ページ:会社法解説  https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/


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