2017-05-23 不正競争防止法と品質等誤認惹起行為

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

学術的・難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。メルマガの購読(購読料無料)は、以下のフォームから行えます。

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前書き 論文掲載のお知らせ

 この度、弊所代表石下ら2名の弁護士で執筆しました「事業者名表示に代わる登録商標の表示」という論文が、日本知的財産協会(JIPA)が発行する「知財管理」誌2017年3月号に掲載されました。

 同論文は、事業者名表示に代えて登録商標等を表示することができる旨規定している代表的な法令を解説し、商標の機能から若干の考察を加えるという、少し違った観点から商標制度を俯瞰するものです。

 同論文は、以下のURLからご覧になれます。
 https://www.ishioroshi.com/biz/chizai_kanri201703/

1 今回の事例 不正競争防止法と品質等誤認惹起行為

 大阪地裁平成29年3月16日判決

 A組合は、その帆布製品に、「工楽松右衛門」「帆工楽松右衛門」といった表示を付して販売していました。

 これに対しB協会は、A組合のそのような表示は、商品の品質、内容及び製造方法を表示するものであるところ、A組合の商品がそのような品質等を有さないにもかかわらず、それを有するものと誤認させるような表示であると主張して、不正競争防止法2条1項13号(現行法14号)に定める不正競争行為である「品質誤認表示」に該当すると主張しました。

 なお、裁判所が認定しているとおり、「工楽松右衛門」とは、江戸時代後期に活躍した廻船業者で、当時用いられていた重ねた木綿布をつなぎ合わせて作られていた帆の改良に挑み、創意工夫の末、播州木綿の細糸を撚り合わせた太糸を用いた、軽くて丈夫な厚手広幅の一枚布を織り上げる技法を考案し、この技法で作られた帆布を全国に普及させた人物であるとのことです。

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、B社の請求を認めませんでした。

● ある表示が商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」といえるためには、その前提として、需要者の間において、当該表示が商品の品質や内容を示す表示であると一般に認識されることが必要である。
 
● B協会は、「松右衛門帆」ないし「松右衛門」が、工楽松右衛門が創製した帆布の品質ないし内容を示す普通名詞として世間一般に広く通用していると主張する。

● 工楽松右衛門が、江戸時代に、それまでの帆より丈夫な太く撚った糸を使用して織った帆布を創製し、それが「松右衛門帆」ないし「松右衛門」と呼ばれたことは多数の文献に記載されている。

● しかし、被告商品の需要者は全国の一般消費者であると認められるところ、「松右衛門帆」等が全国の一般消費者の間に周知となったとは認め難く、「松右衛門帆」が、工楽松右衛門が創製した特定の品質ないし内容の帆布を意味するとの認識を有するとは認められない。

● 上記のような需要者の認識を踏まえれば、「工楽松右衛門」等の被告各表示に接した需要者が、商品の品質や内容を示す表示であると認識するとは認められないから、商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」に当たるとはいえない。

3 解説

(1)品質等誤認惹起行為とは

 不正競争防止法2条1項14号は、商品・サービスの品質・内容等について誤認を生じさせるような表示を行う行為(品質等誤認惹起行為)を「不正競争」の一類型として定めています。

 商品やサービスの公正な競争がなされるためには、それぞれの事業者が、商品などの表示を正確に行うことが必要です。逆にいえば、商品の内容等に誤認を惹き起こす行為は、適正な表示をして取引を行う事業者から不当に顧客を奪い、公正な競争秩序を阻害することになることから、不正競争行為の一つとして定められています。

 近年はコンプライアンスがますます重視されるようになり、一昔前なら多少大目に見られていたことについても厳しい目が向けられるようになっています。訴訟に至るようなリスクのほか、メディアによって報道されて信用を失うといったリスクは現在では軽視できないでしょう。

 では具体的に、どんな行為が品質等誤認惹起行為になるのでしょうか。判例で取り上げられたものを中心に、次項で例を挙げてみたいと思います。

(2)品質等誤認惹起行為の例

  ● 清酒の等級の表示
 級別の審査及び認定を受けなかったため酒税法上清酒2級とされた清酒に清酒特級の表示証を貼付した行為については、たとえその清酒の品質が実質的に清酒特級に劣らない優良なものであったとしても誤認表示に当たる(最高裁昭和53年3月22日判決)。

  ●「本みりんタイプ調味料」事件
 被告が製造販売する液体調味料は本みりんではない商品でしたが、その容器に「本みりんタイプ調味料」という表示を付していました。

 裁判所は、消費者には「本みりん」の部分が強く印象に残り、「タイプ」「調味料」の部分はほとんど目に入らず、消費者にエキス分の高い本みりんであるかのような誤認を生じさせることになると判断しました(京都地裁平成2年4月25日判決)。

  ● 京の柿茶事件
 京都で製造されたものでない商品に「京の柿茶」という表示を付した行為が、商品・役務内容の誤認行為であるとされました(東京地裁平成6年11月30日判決)。

  ● キシリトールガムの効果
 キシリトール入りガムについての「約5倍の再石灰化効果を実現……」などという比較広告は、客観的事実に沿わず、品質に誤認を与える(知財高裁平成18年10月18日判決)。

  ● PSEマークの表示
 電子ブレーカーにつき、電気用品安全法所定の検査を受けていないにもかかわらず、同検査を受けた電気用品に付すことを許されてるPSEマークの表示を付して販売したことは、品質等誤認惹起行為に該当する(知財高裁平成24年9月13日判決)。

  ● 特許権消滅後の特許表示
 ある特許製品が、特許権の消滅によって実際には特許発明の実施品ではなくなったにもかかわらず、国際的な特許で保護されているとか、特許を取得しているといった表示を付した行為について、「品質」を誤認させるような表示をした不正競争行為に該当すると判断しました(大阪地裁平成24年11月8日判決)。

4 弊所ウェブサイト紹介~不正競争防止法解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した不正競争防止法については

  https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/fukyouhou/index/

において、不正競争防止法の各事項について解説しています。

ぜひ一度ご覧ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。



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