2017-12-26 退職社員の秘密保持義務違反と秘密管理性

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今回の事例 退職社員の秘密保持義務違反と秘密管理性

東京地裁平成29年10月25日判決

 食品会社X社の営業担当であったY氏は、平成24年にX社に入社したのち平成26年にX社を退職し、X社と継続的取引を行っていた食品会社A社に就職しました。

 その後、平成27年に、Y氏はX社の取引先であるB社の担当者と会い、Y氏がB社を訪れるなどして営業活動を行いました。そして、商談の中でA社がB社に示した取扱商品リストには、X社がB社に供給していたのと同じ商品も含まれていました。

 そこで、X社は、Y氏がX社在職中に知り得た機密情報を使用してB社に営業活動を行ったとして、Y氏やA社等に対し、秘密保持義務違反に基づく損害賠償等を求めました。

 なお本件は他に種々の争点がありますが、秘密保持義務に絞って取り上げます。

裁判所の判断

 裁判所は、以下の理由により営業秘密の秘密管理性を否定し、秘密保持義務違反を認めませんでした。

● X社の規格書、原価計算表等は、X社の各従業員がアクセス可能なサーバに保管されており、従業員全てが閲覧、複製できる状態にあった。また、得意先・粗利管理表については他の従業員がアクセスできなかったというX社の主張を裏付ける客観的証拠がない。

● 定例会議等の際に紙媒体で配布される際にも、「社外持出し禁」などの表示が付されていたという証拠はない。

●  そのため、得意先・粗利管理表、原価計算表等の情報が、X社の従業員が秘密と明確に認識し得る形で管理されていたとはいえない。

● そうすると、X社が従業員から秘密保持の誓約書を提出させていたとしても、秘密として管理されていたとはいえない以上、Y氏が秘密保持義務を負う機密情報には当たらない。

 

3 解説

(1)法的な保護を受ける営業秘密

 多くの企業にとって、顧客情報や商品の利益率・販売履歴、様々なノウハウといった営業秘密は、有形資産に勝るとも劣らない重要性を持つ企業の資産と見られており、これをいかに法的に保護するかは重要な課題です。しかしこの点考える必要があるのは、裁判所は、企業が秘密情報と主張するものをすべて保護の対象とするわけではないという現実です。

 この点、多くの裁判例は、今回のような合意に基づく秘密保持義務の場合にも、不正競争防止法上の営業秘密とほぼ共通の考え方によって判断しています。

 具体的には、ある秘密情報が法律上保護されるためには、以下の3つの要件が必要とされています。

 a) 秘密として管理されていること(秘密管理性)
 b) 事業活動に有用な情報であること(有用性)
 c) 公然と知られていないこと(非公知性)

 そして裁判上、原告側が敗訴する場合、a)の秘密管理性がない、という理由が多くを占めます。そこでこの、企業が最も注意すべき「秘密管理性」の要件についてご説明します。

(2)「秘密管理性」の判断要素

 秘密管理性があるか否かの判断にあたっては、一般的に、以下のような管理状況が考慮されます。

 (a)物理的管理
    施錠された保管庫での管理
    保存場所への入退室制限
    媒体の持出制限
    情報の返還や廃棄の管理

 (b)秘密表示・記録
    秘密表示(マル秘、社外秘といった表示)
    台帳による情報の閲覧記録

 (c)技術的管理
    情報の性質に応じたアクセス権限の限定
    情報へのアクセスの際のパスワード等の入力要求
    情報を保存するコンピュターの外部ネットワークからの遮断
    情報へのアクセス権限付与者の限定

 (d)人的管理
    秘密保持契約の締結
    教育や研修の実施
    業務委託先の秘密情報の管理

(3)ビジネス上の留意点

 筆者のもとにも、多くの企業経営者が、「退職した従業員が自社の秘密情報を使っている」といった相談は多く寄せられますし、多くの方は当然ながら怒り心頭の状態で、「こんなことは許されていいのか」とおっしゃいます。

 他方で、残念ながら、企業側が日常において、営業秘密としての重要性を分かっていながら「秘密管理性」の整備を怠っているゆえに、効果的な責任追及の見通しが立たない、というケースが少なくありません。

 確かに上のような管理は手間やコストがかかりますが、いざ営業秘密が不正使用され会社にダメージが生じるリスクや現実の被害が生じたときに、打てる手や結果に差が出てきますし、こうした日常的な秘密管理自体、従業員の不心得に対するそもそもの抑止力ともなりえます。つまり、こうした普段の「一手間」がモノをいうことになり、いざ事故が生じて社長が怒りをぶつけても、企業側の「脇が甘かった」のであれば、厳しい戦いとならざるをえないわけです。

 もっとも、裁判例でも、秘密管理性の判断にあたっては、会社の規模や組織に応じて多少柔軟に考える場合もあります。それで、弁護士と相談しつつ、自社の規模・組織体制・管理体制・使える技術・情報の性質と保護の必要性・かけられるコストを考慮した、実行しやすい現実的な方法を探ってみてもよいかもしれません。

弊所ウェブサイト紹介~営業秘密 ポイント解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した裁判例の事例については
   http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/fukyouhou/index/fuseikyousou_4-9gou/

において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイト
において解説に加えることを希望される項目がありましたら、メー
ルでご一報くだされば幸いです。



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