2018-09-04 会社分割とチェンジオブコントロール条項

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1 今回の判例 会社分割とチェンジオブコントロール条項

最高裁 平成29年12月19日判決

 以下、事案が複雑であるため若干簡略化しています。

 A社とB社は、B社の設計に基づいて老人ホーム用の建物を建築し、B社がこれを賃借する契約を締結しました。同契約には、B社が契約当事者を実質的に変更した場合、A社が契約を解除でき、違約金を請求できる規定がありました。

 そしてB社は同建物で老人ホームの運営を開始しましたが、業績不振が続きました。その後B社は、別会社C社を設立し、老人ホーム事業に関する権利義務(A社との賃貸借契約も含まれる)をC社に承継する吸収分割を行いました。ただし、C社に承継された資産はわずかであり、C社は支払能力の乏しい会社でした。

 そしてC社は、A社に対して賃料を支払いませんでした。A社は、B社が契約当事者を実質的に変更したという理由で、前記賃貸借契約を解除し、未払賃料と、解除に伴う違約金を、B社に対して請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、以下のように判断しました。

・ 賃貸借契約においては、 A社とB社との間で、建物が他の用途に転用することが困難であること、契約期間が20年継続することを前提にA社が建築資金を支出する旨が合意されていた。

・ A社は、長期にわたってB社に建物を賃貸し、その賃料によって建物の建築費用を回収することを予定していた。賃借人当事者の変更などの禁止や違約金条項は、上の合意を踏まえて、賃借人の変更による不利益を回避することを意図していた。

・ B社は、A社の同意のないまま、老人ホーム事業に関する権利義務等をC社に承継させた。C社は、違約金の額を大幅に下回る額の資産しかB社から承継していない。

・ 仮に吸収分割の後、C社のみが違約金債務を負うとすると、吸収分割によってB社は、業績不振の老人ホーム事業をC社に承継させて同債務を免れるという利益を享受し、A社は、支払能力を欠くC社にしか違約金請求ができないという著しい不利益を受ける。

・ 以上によれば、B社がA社に対し、吸収分割がされたことを理由に違約金の債務を負わないと主張することは、信義則に反して許されない。

解説

(1)会社分割のメリットと濫用のリスク

 会社分割は、会社が事業に関して有する権利義務の一部を分割して他の会社に承継させるもので、容易に事業の一部を子会社化したり、事業の一部をグループ外に切り離すことができる
という意味では、便利な制度です。

 そして、会社分割に際し、ある債務を分割前の会社に残すか、分割後の会社に移すかについても、自己が判断することができるという点も、自由な事業再編を行う点でメリットがあります。

 もっとも、会社分割の制度を利用して、優良事業部門だけを切り出して会社の全資産と必要な債務(買掛金等)のみを移転させ、不振部門を法的に整理するとか、不振部門に残った債権者を回収不能に陥らせるといった方法で一部の債権者を害する行為は、倫理上だけでなく法律上も問題となる可能性が低くありません。

 それで、会社分割を、負債の整理の目的で使用する場合も、債権者を公平に扱い、フェアな手続を行うことが、自社の再建に対する債権者の理解につながり、法的紛争のリスクを避けることにつながると考えます。

(2)チェンジオブコントロール条項

 契約の中に、いわゆるチェンジオブコントロール条項(支配権移転の場合の契約解除権)が付される場合があります。

 例えば今回のような賃貸借契約でいえば、賃借人による賃借権の譲渡禁止の規定はほぼ例外なくどの契約にも見られるものの、それだけでは、合併、会社分割、主要な株主の変更などによって、望ましくない別主体が実質的に賃借人となってしまうことを防ぎきれないことがあります。

 それで、賃貸借契約だけでなく、代理店契約や独占的ライセンス契約など、当事者間の信頼関係を基礎とした、長期の存続を予定した継続的取引契約などでは、この“Change of Control”条項は、積極的に検討してもよいと思います。

弊所ウェブサイト紹介~会社法(会社再編) ポイント解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した会社の事業再編・M&Aについては

www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/mana_houhou/

において、事業再編の方法、株式譲渡や事業譲渡の方法や留意点を解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。



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