2019-01-08 「いきなりステーキ」と特許法の発明該当性

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今回の事例 「いきなりステーキ」と特許法の発明該当性

 知財高裁平成30年10月17日判決

 X社は、以下のような「特許請求の範囲」を持つ特許を出願し、登録を受けました。

 A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様
  からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉
  のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くス
  テップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを
  含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムで
  あって、
 B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
 C 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
 D 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のもの
  と区別する印しとを備え、
 E 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル
  番号を記載したシールを出力することと、
 F 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載
  されたシールであることを特徴とする、
 G ステーキの提供システム。

 これに対して、第三者が特許庁に申し立てた異議申立において、特許庁は、この発明が特許法上の「発明」に該当しないとして、この特許を取り消しました。

 X社は、この取消決定の取消を求めて知財高裁に提訴しました。

裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断しました。

・ 本件特許発明は、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(装置)からなる構成を採用し、他のお客様の肉との混同が生じることを防止することにより、「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という課題を解決するものである。

・ 本件特許発明における札、計量機及びシール(印し)という物品又は機器は、他のお客様の肉との混同を防止して発明の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する。

・ したがって、本件特許発明は、特許法2条1項所定の「発明」に該当する。

解説

(1)特許法上の「発明」~特許登録のための要件

 ある「発明」が、特許として登録される要件は種々ありますが、その一つは、『特許法上の「発明」であること』です。

 つまり、特許法の「発明」になるには、単に何らかの「良いアイディア」であるというだけではなく、特許法2条第1項に定める「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する必要があります。

 そのため、経済法則といった自然法則以外の法則のみを利用したものは特許になりません。
また、「計算方法」「ゲームのルール」といった人為的な取り決めや、スポーツのテクニックといった、専ら人間の行為のみが関係するアイディアも特許法上の発明とは認められません。

 さらに、もっぱら人間の精神活動を利用しているようなもの(例えば、ビジネスを行う方法それ自体)も発明とはいえないと考えられています。

 この点、今回の事案については、特許庁は、知財高裁とは異なり、計量器等の物を道具として用いているにすぎず、発明の本質は経済活動それ自体に向けられたものであって「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないと判断しました。つまり、本件は特許法上の「発明」といえるか、ギリギリの事案だったといえるかと思います。

(2)ビジネス上の留意点~ビジネス方法と特許発明

 ビジネスにおいて、画期的な新しいビジネスや、ビジネスの方法やプロセスを大きく高速化したり効率化したりする手法などを発案したという場合、第三者に真似されたくない、という意識を持つことは当然といえます。

 この点で、特許による保護を受けようと考えるのは理解できます。留意する必要があるのは、特許として保護されるためには、自然法則を利用した何らかの技術的思想によってそのビジネスの方法が特定・表現される必要がある、ということです。

 それで、新しいビジネスの方法や仕組みを考えた場合、IT技術(コンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク等を組み合わせた手段)として、または何らかの装置として実現可能か否かを考えてみると、特許発明に該当させることができるかもしれません。

 もっとも、一般に、ビジネスの方法やサービスの方法が特許となるとしても、その権利範囲は広くはないことは留意する必要があります。

 例えば今回のケースでは、発明の内容は「ステーキの提供システム」ですので、ステーキ以外の料理については権利範囲外となる可能性が高いといえます。あるいは、「他のお客様の肉との混同を防止」しする印として、シール以外のものを使用する場合も、権利範囲外となる可能性が高いといえます。

 他方、ビジネスの方法やプロセスの保護の方法としては、特許以外のものもあります。すべてのケースで使えるとは限りませんが、自社のビジネスのプロセスの重要な一部を秘匿しておけるという場合であれば、あえて特許出願をしない、という選択肢もあります。それは、特許出願をすれば、その発明は1年半後に公開されるからです。それで、少なくとも重要な一部を秘密ノウハウとして保持できるのであれば、特許出願しないという選択肢もあるわけです。

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