2019-06-25 意匠権の侵害と先使用権

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今回のトピック~意匠権の侵害と先使用権

 大阪地裁平成31年3月28日判決

 Aは、B社の製品に対して意匠権侵害を主張し、製造販売の差止、損害賠償の請求などをしました。

 これに対し、B社は種々の反論をしていますが、本稿では、先使用権の主張を取り上げます。

裁判所の判断

 裁判所は主として以下のように判断し、B社の先使用権の主張を認め、A社の請求を認めませんでした。

・ A社の意匠の出願日の時点で、B社が、A社の製品とは関係なくB社製品のデザインを決定し、その製造委託の発注までをC社に行うとともに、D社から製品の販売を受注していた。

・ よって、B社は、B社のデザインの実施である事業の準備をしていたことになる。

・したがって、B社は、意匠法29条の先使用による通常実施権を有するところ、本件でのB各製品は、当該準備にかかる、B社意匠とその事業の目的の範囲内にあるから、B社製品の販売は、A社の意匠権を侵害しない。

解説

(1)意匠登録制度と先使用権

 ご承知のとおり、意匠登録制度は、商品の形状、模様や色彩に関するデザインを保護する制度であり、意匠登録により、新規で特徴的なデザインを独占的に使用することができます。

 そして、意匠権は、先に出願したほうに権利が与えられるという先出願主義を取っています。

 この点、自社がオリジナルでデザインを起こし、製品の販売の準備をしていたところ、同じころに他社が類似のデザインを意匠として出願していた、という事実が生じる場合があるかもしれません。

 こうした場合でも、先出願主義を貫いて、せっかく準備したデザインを使えなくなるというのは不合理と考えられるため、意匠法29条は、「先使用による通常実施権」(先使用権)という規定を定めています。

(2)先使用権の要件

 もちろん、すべての場合に先使用権が認められるわけではなく、先使用権が成立する要件があります。

 ここではすべての要件を論じることはしませんが、実務上問題となりやすい点として、「出願の時点で、現に実施又は実施の準備をしている」ことを取り上げたいと思います。

 そして、ここでいう「実施の準備」とは、出願の時点で、登録意匠と同一または類似の意匠が完成し、又は少なくとも完成に近い状態にあったことが必要とされます。
 
 ただしこれは、単に、当該デザインの図面ができている程度では足りず、当該デザインを使用した製品の製造ためにラインを増設したとか、重要な設備を購入したとか、従事者の雇用した、といった客観的事実の有無と内容が重要となります。

 それで、いざ紛争となってから証拠を集めようとしてももはや証拠は残っていない(あるいは収集が困難)ということがあるかもしれません。それで、開発~デザイン〜試作~事業の準備~事業の実施というプロセスの中で、行ったこと、成果物を随時記録して、客観的資料として保存管理することが重要といえます。

 先使用権の立証のための証拠資料には、具体的に以下のものが含まれます(これらは単なる例示です)。こうした日々の管理がいざというときにものをいうかもしれません。

 ・議事録
 ・設計図、デザイン図、その他の図面
 ・製品仕様書
 ・事業計画書
 ・見積書、発注書、契約書
 ・請求書、納品書
 ・原材料仕入記録簿、発注簿、受注簿などの帳簿類
 ・業務日誌、作業日誌、製造記録
 ・作業標準書、検査マニュアル、保守点検基準書、
 ・製造工程図等
 ・製品サンプル
 ・カタログ、パンフレット
 ・商品取扱説明書



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