2009-11-12 正露丸と不正競争防止法、ブランド戦略

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事案の概要

平成18年7月27日 大阪地裁判決

「ラッパのマーク」で知られる胃腸薬「正露丸」を製造,販売するA社が,名称と包装箱が酷似した薬を売るのは,不正競争防止法2条1項2号によって禁止される著名表示冒用行為又は同1号によって禁止される混同惹起行為にあたるとして,B社に対し,販売差止と損害賠償などを求めました。

A社とB社のパッケージは,A社が「ラッパのマーク」でありB社が「ひょうたんのマーク」であること以外は,色彩,「正露丸」の文字等,非常に似ているものでした。

判決の概要

【結論】

 請求棄却(A社の請求を認めず)

【理由】

「正露丸」あるいは「SEIROGAN」の名称で本件医薬品の製造販売を行っている業者は,現在,原被告の他にも少なくとも10社以上存在し,その包装箱は,昭和30年ころから,一部の例外を除き,A社のパッケージと概ね共通する形状,色彩,「正露丸」の文字の色彩,配置等の特徴を備えている。

 そのため,A社のパッケージは,「ラッパの図柄」及びA社の社名を除き,それ自体は特定の者の商品であることを識別させるに足りないものであるから,B社のパッケージが,このような自他商品識別機能を有しない表示態様の範囲内でA社のパッケージに接近した表示態様を用いたとしても,そのことが不正競争防止法2条1項1号,2号の不正競争に当たるとはいえない。

「正露丸」の語は,少なくとも「正露丸」の製造販売に携わる取引者の間では,クレオソートを主剤とする胃腸用丸薬(以下「本件医薬品」)の一般的な名称として認識されており,「正露丸」の語が原告製品を指称するものとして,取引者を含む需要者全体に認識されるに至ったものということはできない。

「正露丸」の語は,いずれも本件医薬品の普通名称である。B社の表示(標章)は,B社製品の包装箱正面に普通の毛筆体で漢字「正露丸」を縦書きしたものであり,被告標章は,いずれも本件医薬品の普通名称を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないから,本件商標権の効力は,被告標章には及ばない。

「正露丸」は,本件医薬品を指称する普通名称であって,商品の出所表示機能を有するものとはいえないから,不正競争防止法2条1項1号,2号所定の「商品等表示」には該当せず,また,B社が「正露丸」を普通の方法で使用等する行為は,同法19条1項1号所定の除外事由に当たるものというべきである。

解説

【混同惹起行為の規制と適用除外】

不正競争防止法2条1項1号は,「他人の商品等表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し,他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」を不正競争行為として禁止しています。

つまり,広く知られている(周知)氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装に似たものを使い,あたかも自分の商品がそのよく知られた商品と混同させるような行為は許されません。

しかし,形式的にこの混同惹起行為に当てはまっても,不正競争防止法19条1項1号により,差止請求等が認められないことがあります。不正競争防止法19条1項1号は,普通名称又は慣用されている商品等表示を,普通に用いられる方法で使用する行為は,差止請求の対象とはならない,と述べています。

その理由は,不正競争防止法2条1項1号がある「商品等表示」を保護する趣旨が,その「商品等表示」の出所表示機能(需要者にとってどこの事業者の商品であるかが分かるという機能)を保護するところにある以上,普通名称や慣用されている表示は,そもそも自他識 別力がなく出所表示機能を有せず,保護する必要がない上,これを保護するとするなら普通名称の使用を特定人に独占させることになり不都合だからです。

本件「正露丸」についても,裁判所は,取引者の間では,クレオソートを主剤とする胃腸用丸薬の一般的な名称として認識されている,と判断し,これをA社が独占して使用することはできない,と判断しました。

【ブランド戦略と不正競争防止法,商標法】

判決文によっても,A社は,テレビ,新聞といったメディアにおいて「ラッパのマーク」を前面に出して積極的な宣伝を行う(ここ10年間の売上285億円,宣伝広告費60億円)などの戦略の結果,圧倒的なトップシェアを持ち,これを維持してきましたが,A社自身も,「正露丸」の名称やオレンジ色の箱だけでは出所表示機能がないと判断してきたからかもしれません。

もっとも,莫大な宣伝広告費をかけて自社製品を宣伝してきたA社にとっては,他社が同じような外観のパッケージを使うことを自社のブランド名へのタダ乗り(フリーライド)のように感じることも理解できなくはありません。

本件のA社の場合はともかく,一般論として,新しいブランド戦略を始めるにあたっては,不正競争防止法,商標法の規定を念頭に置いてブランドを選定しないと,いざ第三者が類似のブランドなり類似のパッケージを使っても,差止められないということになりかねませんから,十分な注意が必要でしょう。



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