2009-11-30 営業秘密の保護の要件(秘密管理性)

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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事案の概要

平成18年07月25日 東京地裁判決

訪問介護サービス事業を営むA社が、A社を退職したB、CがD社を設立して訪問介護サービス事業を営んでいることについて、BとCがA社の営業秘密である利用者名簿を不正に持ち出して使用しているとして、不正競争防止法に基づき、B、C、D社が、A社利用者名簿記載の者に対する営業活動を行うことの差止と損害賠償を求めた事案です。

B、Cは、A社に在籍中からA社の事業と同一地域での競業する事業の立ち上げを計画し、A社に登録しているヘルパーなどに、自社二登録するよう働きかけを行うなどをしていました。

本件で、問題となったのは、
1 介護情報の不正競争防止法上の「営業秘密性」
2 元従業員による営業活動の不法行為性

なお、同判決では、引き抜き行為にからむ、労働契約上の秘密保持義務、競業避止義務という別の興味深い論点もありますが、これは別の機会に取り上げる予定です。

判決の概要

【結論】

請求棄却(A社の請求を認めず)

【理由】

不正競争防止法上の「営業秘密」は「秘密として管理されている」ことを要するところ(不正競争防止法2条6項)、事業者の事業経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとは解されず、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること、及び、当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するとし、以下の事情から、秘密管理性がないと判断しました。

1)利用者名簿の電子データ及び紙媒体のいずれにも、当該情報、媒体自体及び収納場所に「部外秘」等の秘密であることを示す表示が何ら付されていない。
2)事務室の扉の施錠は防犯上当然行われる事柄にすぎない。
3)電子データへのアクセスは、専用のパソコンを使用しているが、パソコンを起動する際の簡易なパスワードが設定されているにとどまり、そのパスワードも広く社員に知られている。
4)紙媒体は、施錠することなくキャビネットに保管されていて、登録ヘルパーも、担当する利用者のファイルは、責任者の管理のもと、閲覧することができ、一部の書類は、事業所内から持ち出すことも認められていた。

解説

【営業秘密の3要件】

不正競争防止法上保護される営業秘密となるためには、以下の3つの要件が必要とされています。

1 秘密として管理されていること(秘密管理性)
2 事業活動に有用な情報であること(有用性)
3 公然と知られていないこと(非公知性)

多くの判例上問題となるのは、1の秘密管理性の要件であり、本件のように厳しい判断が出やすい部分です。

【秘密管理性の要件】

営業秘密の3要件のうち、中核的要件ともいえる秘密管理性について、判例は、以下の2要件を挙げています。

1 「秘密」の表示性(客観的認識可能性)

(例) 「マル秘」「機密情報」「取り扱い注意」などの表示を行う

2 アクセスの制限性

(例) 施錠した保管庫に入れてある情報
パスワードによるアクセス権の管理をしてあり、閲覧者の制限がされている

本件では、
1 施錠は事務所の扉だけであるが、これは防犯目的だけであった
2 情報に「部外秘」などの表示が無かった
3 PC上のパスワードは、簡易な上、スタッフは誰でも知っていた
4 紙媒体は登録ヘルパーなら誰でも閲覧可能

といった点から「秘密管理性」が欠けると判断されたものです。

また、この判決は、「従業員及び登録ヘルパーは、雇用契約上の秘密保持義務を負担し、A社は秘密保持に留意するよう指導教育を行ってきたのであるから、秘密管理性は認められる」というA社の主張に対し、「そのような雇用契約上の秘密保持義務や指導教育は、利用者のプライバシー保護を念頭においたもので、これによって不正競争防止法上の営業秘密性が直ちに導かれるものではない」と判断しました。

つまり、従業員に対する契約上の制限や教育指導だけでは、「秘密管理性」を満たさないわけです(もちろんこれらの契約や教育の重要性はいうまでもありませんが。)。

以上のとおり、判例上「秘密管理性」が認められるためには、法律上の要件を意識した、それなりの厳格な管理が必要であることを認識する必要があります。

【企業の営業秘密セキュリティ対策】

日本経済新聞社「知財Awareness 」
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/20060728.html
によれば、経産省が行った企業に対する調査について以下のような興味深い結果が示されています。

(以下引用)
「営業秘密の3要件(秘密管理性、有用性、非公知性)に関して、全回答企業の79%が「知っている」と答えたが、重要情報について「実務で適切な管理が実行されているか」との問いには、「管理が行われているものとそうでないものがある」との回答は全体の65%に及び、19%の企業は「要件を満たす管理がほとんど行われていない」と答えた。一方、「ほとんどすべての重要情報が管理されている」との回答は14%に留まった。
(引用終了)

以上のとおり、多くの企業では秘密管理性に関しては十分な対策がされているとはいえない状況にあります。

しかし、本件のようなケースで、A社は、残念ながら、自社と競業関係に立つ事業を、自社と同一の地域で始めることを計画し、自社在職中から、その準備に着手し、自社の登録ヘルパーに個別に連絡して自社に登録するように勧誘したBとCの行為を差し止めることができませんでした。

裁判所も、BとCの行為には「問題性のある行為」と述べ、A社の立場に一定の同情を示しましたが、法的にはA社の判断が認められるに到らなかったのです。この事例は、この事例は、面倒であっても、何かに備え、日常からの秘密管理の対策を行うことの重要 性を教えるものだといえます。



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