2011-02-15 OEM契約の終了と製品の無権原販売

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1 今回の判例 OEM契約の終了と製品の無権原販売

東京地裁平成22年4月23日判決

 X社は、平成14年はじめころから、インターネットモールにネットショップ「元気健康本舗ABCD」(仮名)において、「ABCD」(仮名)という標章(X社標章)を使用して商品Aの販売を開始しました。

 商品Aは、Y社が製造し、B社が袋詰めしてC社に卸し、これをX社が仕入れて販売していました。その後、平成19年11月までに、X社は本件商品のOEM供給元をY社から別の製造業者に変更しました。

 Y社は、Y社の元に残った商品A在庫品を、Z氏に委託してネットオークションで販売しました。

 X社は、Y社とZ氏の在庫品の販売につき、不正競争防止法違反を理由に損害賠償を求めました。

2 裁判所の判断

知財高裁は、以下のとおり判断し、X社の請求を一部認めました。

  • Y社による販売はインターネット上の日本語のオークションサイトで行われたもので、日本全国の需要者を販売対象としていたから、Y社による販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するというためには、X社標章が全国的に周知であったことを必要とする。
  • X社の売上高とネット通販全体の市場規模との比較、X社のサイトへのアクセス回数、Y社の売上との比較、雑誌記事への掲載等を検討し、X社標章についてはX社の商品等表示として周知であったことを認めるに足りない。
  • X社標章に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのはX社であり、Y社は、製品A(袋詰めされる前の半製品)を製造し卸売りしていたにすぎない。Y社とZ氏による製品Aの販売は、OEM供給先であるX社の信用が化体されたX社標章が付された樹液シート在庫品の残りをY社らが原告に無断で販売したというもので、OEM商品の横流しともいうべき行為であり、公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為と評価できるから、民法上の一般不法行為を構成する。

3 解説

(1)商品等表示と周知性立証

 X社は「ABCD」の標章(X社標章)については、商標権を有していなかったものと思われますが、Y社に対し、不正競争防止法2条1項1号による周知表示混同惹起行為に基づく責任を追及しました。

 周知表示混同惹起行為とは、以前取り上げたとおり、「他人の商品等表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」をいいます。

 つまり、商標として登録されていないような標章等(商品等表示)であっても、一定の需要者の間で周知となれば、第三者は、そのような商品等表示と混同を生じさせるような表示を使用することは許されません。この商品等表示には、氏名、商号、商標、標章、商品の容器、包装、またこれらに限らず、何らかの方法で商品または営業を表示するものであればよいとされています。

 しかしながら、ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号によって保護されるためには、この商品等表示が「周知」であることを立証する必要があり、この周知性の立証はかなり厄介です。現実に、本件でも、X社は、X社標章の周知性の立証ができませんでした。

 ですから、ある標章について保護を受けるためには、可能な限り、商標登録をすることが最善ではありますし、ある商品に付する標章の選択においては、商標登録可能性を十分に検討の上選択することが望ましいと考えられます。

(2)民法上の不法行為と取引上の公正の保持

 裁判所は、X社の請求のうち不正競争防止法に基づく請求は認めませんでしたが、Y社の行為が「OEM商品の横流し」であって、「公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為」として、民法709条に基づく不法行為としてY社の責任を認めました。確かに、OEMメーカーが供給先である他社のブランドを付した商品をそのまま販売することは、確かに著しく不公正な行為といわれても仕方がないことでしょう。

 このように、裁判所は、ある当事者の行為が、商標法、著作権法や不正競争防止法などの特定の法律に抵触しない場合であっても、社会通念上・取引通念上看過できない行為については、民法上の不法行為の規定を活用して行為者の責任を認めることがあります。

 Y社としては、X社のX社標章が商標登録されていないといったことを奇貨として製品Aの販売に及んだのかもしれませんが、相手方に厳密な意味でいかなる権利があるかといったことは別として、事業者としての取引秩序に大きく反するような行為は慎むべきでしょう。



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