2011-03-01 株式譲渡契約と競業避止特約

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1 今回の判例 株式譲渡契約と競業避止特約

 東京地裁平成22年1月25日判決

A社の創業者であるY氏と、Y氏の資産管理会社であったB社は、労働者派遣事業を営むA社の株式を、X社に合計27億円で譲渡しました。

X社と、Y氏・B社の間の株式譲渡契約においては、Y氏は、3年間、V社と同様の労働者派遣事業につき、自ら営まず、かつ、いかなる立場でも、同様の事業を行う主体の経営等の行為を行なってはならないという競業避止義務を負い、この義務に違反したときは、違約金5億円を支払うべき旨の定めがありました。

Y氏は、同株式譲渡と同時期に、自己が社長を務めていたC社において人材派遣業を始め、Y氏は社長を退任したものの、社長退任後もC社に5億円近い資金提供をしていました。

X社は、Y氏がこの義務に違反したとして、5億円の違約金の請求をしました。

 Y氏は、自己の行為は競業避止義務に違反していない、また、この競業避止規定は公序良俗違反によって無効であり、違約金5億円を支払う義務はないと主張しました。

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断しました。

  • Y氏の行為は、労働者派遣事業の経営に直接関与するものではないとしても、労働者派遣事業の経営を経済的に支援し、A社の業績の低下を招くおそれがある行為であるから、株式譲渡契約において禁止されているA社の競業事業に関連する行為に該当する。したがって、Y氏の行為は、競業避止義務に違反する。
  • 競業避止義務は、職業選択の自由及び営業の自由を制約するものであるから、その制約の程度が、競業避止条項が設けられた目的等に照らし必要かつ相当な範囲を超える場合には、公序良俗に反し無効となるが、本件の競業避止条項が公序良俗に反し無効であると認めることはできない。

3 解説

(1)競業避止義務と公序良俗違反

 「競業避止義務」とは、一定の者(義務を負う者)が、自己または第三者のために、その地位を利用して、権利者の営業と競業したり、競争的な性質の取引をしてはならないとされる義務のことをいいます。

 裁判所が一般論として述べているとおり、競業避止義務を課す合意は、職業選択の自由及び営業の自由を制約するものとして、義務の及ぶ範囲が一定範囲を超える場合には、「公序良俗違反」となって無効となります。

 例えば、制限の場所的範囲については、地理的範囲を無制限とする特約は有効とされる可能性は低いと考えられています。また、義務違反に対する違約金を高額にするような合意も、公序良俗違反とされる可能性が低くはないと考えられています。

 この点、本件では、競業避止義務の場所的範囲が限定されておらず、違約金も一律5億円と高額でした。しかし、裁判所は、A社の活動範囲が限定されていないことから、この地理的不限定が相当性を欠くとはいえないとしました。また、5億円という違約金の金額についても、A社の損害額の立証の困難性と損害発生防止の観点から必要性を肯定し、かつ、Y氏が、X社との関係で特に弱い立場で契約させられたわけではないという契約締結の事情からも、著しく高額であるとまで認めることができない、と判断しました。

(2)契約自由の原則と予測可能性

 Y氏がどのような意図から競業避止義務に違反する行為に及んだのかは分かりませんが、仮にこの競業避止義務の合意は無効とされるだろうと考えて違反行為に及んだとしたら、思い違いをしていたということになるでしょう。

 一般に競業避止義務の制限の法理は、雇用者と従業員という力関係・立場に明らかに差がある当事者との間で主に議論され、別の業種への転職が一般に困難な経済的弱者である労働者の保護が重視されてきたという側面があります。

 したがって、本件では、対等な力関係の当事者間の合意であり、義務者が経済的弱者とはいえないようなケースであって、契約自由の原則という法の原則がより重視されるようになるものと思われます。いずれにせよ、ある契約中に含まれる競業避止義務についていったん合意した当事者は、その合意をきちんと履行すべきでしょう。もし競業避止義務を負う意思がないのであれば、後日その合意が後日裁判で無効と判断されることに期待するのではなく、競業避止義務に合意をするべきではないと思われます。



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