2011-03-15 採用活動と内々定取消

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1 今回の判例 採用活動と内々定取消

  福岡地裁 平成22年6月2日判決

本件は、平成20年4月の新卒採用を取り巻く事例の一つで、株式会社X社から採用の内々定を受けていたYが、X社から内々定の取消を受けたことは違法であるとして、債務不履行または不法行為に基づいて、X社に損害賠償を請求した事件です。

就職活動をしていた大学生のYは、X社の会社説明会に参加し、適性検査や面接試験を経て、X社の最終面接にも合格しました。そして、X社は、Yに「内々定通知」及び「入社承諾書」を送付したので、Yは「入社承諾書」に記名押印し、返送しました。

しかしその後X社は、サブプライムローン問題や原油高騰といった世界情勢に起因する経営の悪化を理由に、新卒者の内定を取りやめました。X社からの詳しい説明はありませんでした。

このX社の行為に対し、Yが損害賠償を請求したのが本件の事例です。

2 裁判所の判断

福岡地裁は、以下の事情を総合的に判断し、X社とYの間の労働契約の成立を否定しました。

  • 具体的労働条件の提示や、入社に向けた手続等は行われておらず、「入社承諾書」の内容についても、入社を誓約したり、X社側の解約権付留保を認めるものではないこと。
  • 平成19年までの就職活動では、複数の企業から内々定だけでなく内定を得る新卒者も存在し、内々定を受けながら就職活動を継続している新卒者も少なくなかったこと。

しかし、以下の理由から、内々定取消が、X社に就職できるというYの期待権を侵害するとし不法行為の成立を認めました。

  • X社が、Yに、「経済状態の悪化等があってもX社は大丈夫」等と説明していたこと。
  • X社が、採用内定通知交付の日程調整した数日後に内々定通知を取り消したこと。
  • 内々定取消後のX社の説明及び対応が十分であるとはいえないこと。
  • X社が、採用内定通知交付の日程調整した数日後に内々定通知を取り消したこと。

3 解説

(1)内定と内々定

 行政解釈上、「採用内定」とは、「解約権を留保した労働契約」であり、これにより、原則として労働契約は成立するとされています。「解約権を留保した労働契約」とは、採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取り消し事由が生じたときには解約できる旨の合意が含まれている労働契約のことをいいます。 一般的には、次のような場合、内定取消が正当化されています。

  • 単位不足で卒業できないとき
  • 健康を著しく害したとき
  • 反社会的な行為(窃盗・傷害・暴行・放火・器物破損等)があったとき

 ですから、会社が、採用内定を通知後に、採用の確定的意思を表示(たとえば、入社誓約書、入社日・提出書類などの詳細通知、入社前研修など)をした後の内定の取消は、「労働契約の解約」となり、原則として「解雇」に該当し、合理的と認められる正当な理由がなければ、無効となります。

 他方、内々定は、内定を出す前に企業が内定を出すことを約束して、内定を出す時期が来たら正式な内定をするというものです。内々定を出した時点では、企業側も内々定者側もその後に必ず労働契約を締結する意思をもっているわけではないという理由から、その時点では労働契約が成立したとはいえないと考えられています。

 では、内々定の取消しは、契約が成立していない以上いつでも自由に行えるのでしょうか。この問題について判断を示したのが今回の判決です。

(2)経営者側の留意点

本判決は、特に、企業の採用担当者にとって、意味深いものとなりそうです。

 リーマンショックに端を発した世界経済不安により、景気が低迷し先行きが不透明になり、雇用情勢が悪化していることから、新規採用を控える企業が増えています。採用内定取消が大きく問題となった時期もありましたが、本判決は、いわば内定の内定ともいえる内々定についても、違法となる可能性を示唆したという点で、特異なものといえます。

 確かに、就職を控えた学生にとっても、内々定の取消はショックの大きい出来事といえるでしょう。特に、直前になってからの内々定取消は、新しい就職先を確保することを困難にし、精神的にもダメージとなります。とはいえ、企業側にとっても、採用希望者、応募者、そして実際の就職者の数を見越して内定を出すのは簡単なことではありません。

本判決の考え方からみれば、内定と内々定の境目は必ずしも明確とはいえず、内々定を出す際にも、内々定を取り消しても常に違法とはいえないといった前提は取れないということになります。

 本判決で裁判所が判断材料として挙げたのは、当時の就職活動市場、内々定者が採用を期待する行動、内々定通知後の説明状況等でしたが、そのような判断材料を踏まえると、内々定という形で採用を検討する際には、以下の点に留意すべきであると考えられます。

  • 内々定者の人数を現実的な範囲内に収める。
  • 内々定者に対し内定を確約すると取られかねない発言は避ける。
  • 止むを得ず内々定を取り消す際は、出来るだけ早く、かつ事情を誠実に説明する。

新卒者の採用に当たっては、内々定の段階においても、今後も慎重な対応が求められることと思われます。



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