2011-10-07 勤務態度不良と普通解雇

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1 今回の判例 勤務態度不良と普通解雇用

最高裁平成22年5月25日判決

 建設機械の賃貸業であるA社の統轄事業部長であったB氏(兼務取締役)は、酒に酔った状態で出勤したり、勤務時間中に居眠りをしたり、社外での打ち合わせ等と称し嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒したり、取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがありました。

 このため、B氏の勤務態度や飲酒癖については、従業員や取引先からA社に苦情が寄せられていました。しかし、A社の社長は、B氏に対し、飲酒を控えるよう注意し、居眠りをしていたときには社長室で寝るよう言ったことはありますが、それ以上にはっきりと勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはありませんでした。

 そして、B氏は、取引先の担当者との打合わせをする予定があるのに出勤せず、A社の常務から電話で出勤するよう指示されたのに対し、日曜日だと思っていたと弁解し、結局、B氏は欠勤しました。このことから、A社は、この取引先の紹介元(かつ大口取引先)の代表者からも、B氏を解雇するよう求められました。

 さらにB氏は、同日の夜、A社社長と電話で話をした際、酒に酔った状態で、「(自分を)辞めさせたらどうですか」と述べたため、A社も、もはやB氏をかばいきれないと考え、かつ、B氏が自主的に退職願を提出しなかったことから、A社はB氏を普通解雇しました。

 なお、A社の就業規則35条1項2号には、普通解雇事由として「技能、能率又は勤務状態が著しく不良で、就業に適さないとき」と定められており、解雇理由は、かかる解雇事由に該当するということでした。

 これに対して、B氏は、A社に対して、その解雇を争いました。

2 裁判所の判断

 最高裁は、以下のように判断しました。

  • 本件の事実に照らせば、解雇の時点において、幹部従業員であるB氏にみられた勤務態度の問題点は、A社の正常な職場機能、秩序を乱す程度のものであり、B氏が自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから、B氏には、就業規則に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。
  • A社がB氏に対し、欠勤を契機として解雇をしたことはやむを得なかった。
  • A社が懲戒処分などの解雇以外の方法をとることなく解雇がされたとしても、それが著しく相当性を欠く不法行為とはいえない。

3 解説

 今回の最高裁判決は、B氏の態度のひどさ(正常な職場機能、秩序を乱す程度)、B氏の態度を改める見込みのなさから、解雇を無効としたものです。言い換えれば、問題行動が看過できないもので、改善の余地のない社員については、注意・指導や解雇回避努力をしないでも、解雇できるとの判断であったわけです。本件の事実関係からみれば、その判断自体は妥当なものであるという評価が多いようです。

 しかし、ここで留意すべきは、同じ事件について、原判決の高裁判決は、B氏の解雇は無効であると判断したことです。すなわち、高裁は、A社が、B氏の勤務態度や飲酒癖について明確な注意・指導をせず、かえってB氏を昇進させ、そのため、B氏が問題点を自覚しなかったこと、欠勤の後も降格や懲戒処分などにより勤務態度を改める機会を与えていなかったことを理由としました。

 一般的に、勤務態度不良を理由に社員を解雇する場合、解雇の有効性(正確には解雇権の濫用の有無)については、行為の重大性、回数、結果、影響(企業秩序や業務遂行への影響)、改善の余地の有無、他の労働者の取扱いとの均衡、企業の種類・規模、職務内容、解雇回避のための他の手段の可能性、会社側の態度等を総合考慮して、ケース・バイ・ケースに判断されます。

 そして、これらの考慮要素の中に、一般には、会社が改善のための注意・指導をどの程度行ったか(行う必要がなかったか)、が含まれるわけですが、高裁はこの要素を重視して解雇無効、最高裁はこの要素を考慮したものの解雇は無効ではないと判断されました。

 したがって、「問題ある社員は、注意・指導せずに解雇が可能」という一般論を最高裁が認めたわけではなく、あくまでも今回の事例(事実関係)があったからこその判断という点です。それで、問題行動が今回の事例ほどひどくはなければ、B氏に改善の余地があれば、若しくは他の要素によっては、同じ最高裁の裁判官の判断もまた違ってきたかもしれません。

 社内に問題のある社員がいて、将来解雇も考えざるを得ないといったケースは珍しくないと思われます。解雇に関するケースは、当然ながら個々の事案によって事実関係は全く異なり、様々です。それで、企業としては「この社員は問題だし最高裁の判決があるからすぐに解雇すべし」と短絡的に判断せず、解雇に伴うリスクの低減という観点からも、改善のための注意・指導についてはできる限り行う必要性に変わりはないのではないかと思われます。

 このような改善を促す努力が功を奏し、問題行動が改善する可能性もあります。そうではなくやむなく解雇せざるをえない場合でも、このような注意指導の努力があれば、企業側の解雇回避の努力として評価されうるほか、当該社員について「改善の見込みがないこと」の補強事実ともなりうる、という意味で、解雇が無効と判断されるリスクを低下させることにつながるわけです。

 さらには、実際の訴訟において、解雇した当該問題社員の問題行動の立証に苦心する、という場面も現実的には多く見られます。この場合に、日常行った注意指導と本人の態度を詳細に記録しておくことや、注意を与えた書面、といった書類が、解雇した当該問題社員の問題行動の立証に寄与する場合もあることでしょう。



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