2016-02-02 特許製品の出願前の販売と公然実施

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1 今回の判例  特許製品の出願前の販売と公然実施

知財高裁 平成28年1月14日判決

 A社は、発明の名称を「棒状ライト」とする特許権(特許5324681号)を保有していました。A社は、当該発明を実施する製品(本件製品)を、特許の出願日前に販売していました。

 そして、当該発明の構成の一部は、本件製品を分解しなければ知ることができないものでした。

 しかし特許庁は、本件製品の内容が「公然実施」されたものであって当該特許発明には新規性がないと判断し、当該特許権を無効と判断しました。これに対し、A社が当該審決の無効を求め、提訴しました。

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断し、当該特許を無効であると判断しました。

● 本件製品は、ディスカウントショップで商品として販売されていたため、不特定多数の者に販売されていた。

● 外観からは観察できない本件製品の構成については、本件製品を分解することにより知ることができる。

● 本件製品の購入者が、本件製品の構成について秘密保持すべき義務は認められず、本件製品の所有権に基づき、本件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然である。

● よって、本件製品の内容は、すべて公然実施されたものであるから、当該発明は、特許出願日前に公然実施された発明であり、特許法29条1項2号の規定により特許を受けることができない。

3 解説

(1)特許発明の要件~新規性と公然実施

 特許を受けることができる「発明」には、「新規性」、言い換えれば今までにない「新しいもの」が含まれている必要があります。なぜなら、すでに世の中に知られているような発明に特許によって独占権を与えることは社会にとって害となり、産業の発展に寄与するという特許法の目的に反するからです。

 そして、ある発明が新規性を喪失したと判断される一つの理由が「公然実施」というものです。具体的には、特許法29条1項2号にあるとおり、「特許出願前に日本国内又は外国で公然実施された発明」である場合です。

(2)実務上の留意点

 ここで留意する必要があるのは、この「公然」とは、「知られ得る状況」にあれば足り、他者に現実に知られたか否かは問わないということです。今回のケースでは、購入者の一部が実際にその製品を分解したか否かは分かりませんが、実際に分解した人がいるか否かは問題とはなりません。

 また本件では、A社は、本件製品のパッケージ裏面の「意図的に分解・改造したりしないでください。 破損、故障の原因となります。」との記載をもって、「公然実施」と判断されるべきではないと主張しましたが、その主張は認められませんでした。

 他方、発明の内容が、ある設備の中で行われていて、工場を見学させた際もその設備の中は見せず、見ることを禁止していたという場合は、通常は公然知られる状況とはいえないと考えられています。しかしこのことと、本件のような、製品を一般に販売することとを混同することには慎重であるべきです。

 工場の例であれば、実施された環境が特許権者の管理下・コントロールにある、という点がポイントであり、本件のように製品を販売してしまって特許権者の管理下を離れた、という場合には公然実施となってしまう危険は非常に高くなるわけです。

 ある画期的な発明や製品開発がされた場合、資金回収・運転資金の確保の観点からも、できる限り早くビジネスにつなげたいというのは自然なことと思います。しかし、出願前にあわてて「公然実施」につながりかねない行為を行うと、せっかくの発明が無効となってしまいかねませんから、十分注意が必要と思われます。



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