販売代理店契約のサンプルと解説
販売代理店契約の種類
本ページでは、販売代理店契約のアウトラインについて、具体的なサンプルを紹介しつつ条文ごとに解説します。
販売代理店契約には2種類ある
販売代理店契約には、実は2種類あります。
一つは、英文では”Distributorship Agreement”(「販売店契約」)と呼ばれるものです(売買取引方式)。この場合、メーカーと代理店の取引は、売買取引となります。つまり代理店は、メーカーの商品を自分で仕入れ、商品について自己の名で顧客と売買契約を結んで販売する、という形が原則です。
他方、英文で”Agency Agreement”(「代理店契約」)と呼ばれる方式の場合もあります(コミッション方式)。この場合、商品の売買契約はメーカーと顧客の間で直接成立し、代理店は、当該商品の売上に応じた手数料(コミッション)を受ける、という形が通常です。
2種類ある販売代理店契約のうち、どちらの方式を選ぶべきか、については、「どちらがよい」という答えはありません。むしろ、自社のビジネスの方法や目的に合った方を選択する必要があります。
売買取引方式の主たる特徴
まず、売買取引方式の代理店取引においては、前述のとおり、代理店は、メーカーの商品を自分で仕入れ、商品について自己の名で顧客と売買契約を結んで販売します。
この場合、代理店の利益は、仕入価格と販売価格の差額となります。販売代理店は商品を自ら購入するため自ら在庫リスクを負うことが少なくありませんが、一般には転売価格を自ら決定できますので、コミッション方式での販売手数料に比して高い転売利益を期待することができます。
他方、売買取引方式の場合、販売代理店は売主・供給者となるため、顧客に対して売主としての責任を負うことになり、当該責任が履行できないときは損害賠償責任を負うことになります。
メーカーサイドとしては、独占禁止法上の制約から、代理店による販売価格についてメーカーがコントロールすることは、通常はできません。
コミッション方式の主たる特徴
コミッション方式の代理店取引においては、前述のとおり、商品の売買契約はメーカーと顧客の間で直接成立します。この場合、代理店が自ら在庫リスクを負うことは通常はありません。
この方式の場合、メーカーは顧客と直接契約を結んで取引することになるため、エンドユーザー向けの価格をコントロールすることが許されるのが原則です。
また、代理店が受け取る手数料(コミッション)は一定の金額又は割合となるため代理店は利益幅をコントロールすることは通常はできませんが、顧客との契約の当事者とはならないため、売主・供給者としての責任を負うことはなく、この点でのリスクは低いといえます。
販売店契約(売買取引方式)の規定のポイント
以下、本ページでは、販売代理店契約の主要なポイントについてご説明します。なお、この部分については主要条項の一部の説明ですので、今後必要に応じ加筆する予定です。
なお、以下のサンプルはもっぱら主要条項の趣旨・関連論点の解説を目的としています。それで、契約条項としての完全性や条項間の整合性、また用語の統一性については考慮・検証していません。それで、本ページのサンプルを「雛形(ひな形)」として使用することはご遠慮ください。
販売権の授与
規定例
本契約期間中、甲は、乙に対し、本地域内で、本製品について販促をし、頒布し、販売し、かつ他の処分を行う独占的な権利を授与する。これら販売等は、乙自身によって、又は甲が事前に承認した下位の販売代理店によって行うことができる。 |
条項のポイント1~販売権の授与
販売店契約として最も基本的な規定です。この場合、販売権の期間、販売地域、販売権の内容を明示します。
この点、販売地域についていえば、ネット販売が広く普及したコンシューマ向け商品では販売地域を限定することは少ないかもしれません。他方、BtoB商品では販売地域を指定するケースは依然として少なくないように思います。
条項のポイント2~独占権・非独占権の明示
授与される販売権が独占的か非独占的なものかを定めます。特に、この点で何の定めがない場合、全体的文脈から別の解釈が導き出される場合を除き、非独占的なものと通常は考えられますので、独占権を得ることを考えている代理店側としては、この独占権を明確にすることは重要です。
条項のポイント3~二次代理店の設置の可否
代理店側が二次代理店を設置できるか否かを定めます。本サンプルでは、メーカーの事前承認によって二次代理店による販売を許すという規定にしています。
メーカーの販売禁止義務
規定例
第*条(甲の販売禁止義務) |
条項のポイント1~メーカーの販売禁止
販売代理店が独占的販売権を持つ場合に、メーカー・サプライヤが、その地域で製品を販売することができるのかは必ずしも明確ではありません。そのため、この点を契約上明示することが重要です。
サンプルでは、対象地域でのメーカーによる販売を禁止する規定となっていますが、例えば、メーカーの既存客については例外とする、メーカーが海外の会社で、その海外の取引先について納入先が対象地域内の場合例外を設けるといった様々な規定の仕方があります。
また、代理店側からすると、いわゆる抜け穴を防ぐために、「甲又はその関連会社」という形で関連会社による行為を規制に含めたり、「第三者を通じた間接的な方法かを問わず」という語を追記して間接的な違反を防止するようなドラフティングをスこともあります。
条項のポイント2~他の代理店の設置の可否
販売権が独占的販売権であれば、メーカーが当該地域内に他の販売店を設置するのは許されないはずです。しかしながら、特に重要な規定については疑義や紛争の防止のために、念のため規定するということは珍しくありません。
条項のポイント3~引合いに関する処理
販売代理店の独占権との関係で、また実務上生じうる事態に対する疑義を避けるために、メーカーが該当する引合いを受けた場合の処理を定めることも少なくありません。
価格
規定例
第*条(価格) 1 本製品の価格は、個別契約で別の定めをしない限り、注文がなされた日の時点で有効な価格表によって決定する。 2 甲は、当該価格表につき、1か月前に乙に通知することにより改定することができる。ただし、乙が当該通知を受ける前に顧客に対して改定前の価格に基づき見積を提出している案件については、引き続き改定前の価格を適用する。 |
条項のポイント1~価格条項
取扱製品の価格について定めることがあります。サンプルでは、注文時の価格表によって定める、としています。しかし、価格については様々な定め方のバリエーションがあります。例を挙げれば以下があります。
- 販売店契約書に価格表を添付する方法
- 都度の見積によって定めるという規定
条項のポイント2~価格変更の条項
価格の改定(変更)についても触れる場合があります。3ヶ月前の事前の通知によってメーカーが改定できるとしています。そのほか、さらにメーカー寄りの規定として予告なしに改定できるという規定もあるでしょうし、他方代理店寄りの規定として、相互の合意が必要、という定め方もあります。
さらに、価格改定の通知の前に代理店が顧客に対して見積を提出したものの、顧客からの発注をもらう段階で価格改定の効力が発生したというケース等について必要な手当をすることも検討に値します(上のサンプルの2項ただし書)。
再販
規定例
第*条(再販) 本販売店は、本地域において、本製品を販売することができる。販売方法については、店舗での対面販売を行う小売店に対する卸売のみとし、それ以外の方法による販売をする者に対する販売、及びネット販売を行うことはできない。 |
条項のポイント~再販条項
販売店が製品を再販するにあたり、メーカー側にとっては、販売方法や販売先を制限したりする必要があると考える場合があるかもしれません。そして、一定の合理的な理由があればこうした制限も独禁法上許されるとされています。
例えば公取委の相談事例では、医療機器であって、体の状態を実際に測定して設定を修正し、使用後もさらに微調整を要するところ、消費者ではそうした調整は難しいという製品について、通信販売を禁止することに合理的な理由があるとされました。
在庫維持義務
規定例
第*条(本製品の在庫) 甲は、本地域内での需要を満たし、すべての注文に応じて迅速な供給ができるようにするため、十分な量の本製品の在庫を維持するものとする。 |
条項のポイント~在庫維持義務
販売店が製品を再販するにあたり、メーカーにおいて品切れを起こしていれば、販売に支障が出る上、販売店の信用が低下したり顧客が離れてしまうかもしれません。また独占販売権の授与と引換に、契約上販売店が一定数量の仕入をする義務を負うことも少なくありませんが、メーカーによる品切れの結果販売店側がそうした最低購入数量の義務を満たせないということも不合理です。
それで、販売代理店サイドとしては、メーカー側に対して、在庫維持義務を課す規定を定めるように求めることは少なくありません。
商標・ブランド
規定例
第*条(ブランドの使用) 1 乙は、本地域内で、本製品の宣伝、マーケティング又は再販に必要な範囲で、本製品のブランド名、製品名、シンボル、及びロゴを使用する非独占的権利を有する。乙は、ウェブサイト、SNS、ブログを含む任意の販促資料にこれらを使用することができる。 2 乙は、事前に甲に提出したサンプルに基づき甲が承認した販促資料においてのみ、前項のブランド等を使用することができる。 |
条項のポイント1~ブランドの使用
販売店が対象となる製品の販促を行うに当たり、当該商品のブランドなどを広めることは重要であり、多くの場合、ブランドの使用の権利について触れます。
ブランドの使用権を独占的とするか非独占的にするかについては2つの考え方があると思います。独占販売権の裏返しとしてブランドの使用権も独占的であると定める考え方もあれば、メーカー自身がブランドの宣伝をするために非独占とするという考え方もあると思います。
条項のポイント2~メーカー側のコントロール
他方、メーカー側としては、自社のブランド価値の維持のためにも、販売店のブランド使用についてきちんとコントロールする必要があります。そのため、実務上は、上の規定例の2項のような事前承認を得るという取決めを設けることが少なくありません。
もっとも、販売代理店側としては、タイムリーで臨機応変な販促活動のために、メーカーによる承認か滞ることは避けたいと考えるはずです。それで「甲は、合理的な理由なく、当該承認を保留せず、又は遅らせないものとする」といった追記を求めることを検討できます。
商品の変更
規定例
第*条(対象製品の変更) 甲は、本製品の一部又は全部につき、随時、かつ自己の裁量で、モデルチェンジ、変更、改良又は追加をする権利を有する。この場合、甲は、3ヶ月前までに乙に書面で通知する。 |
条項のポイント1~メーカーの商品の変更の権利
メーカーが、自社製品についてどのようなラインナップを持つのかは、自社の専権であると、といえばそのとおりです。しかしながら、販売店契約は、販売代理店に対して特定の商品についての販売権を授与する契約ですから、メーカーがこうした商品構成を無断で変更することが販売権を侵害するといった主張がされてもおかしくありません。
それで、実務上は、上の規定例のような規定を定めることで、実務上の支障を避けることは望ましいといえます。
条項のポイント2~事前の通知義務
メーカー側が商品の変更を行う場合も、販売代理店側としては、突然に変更されてもいろいろと困る面があります。それで、事前通知義務を定めるように交渉することができます。
販促資料等
規定例
第*条(資料等の使用) 甲は、乙に対し、カタログ及びマニュアル(電子データを含む)、写真、ビデオ、対象製品の仕様、テストデータ、並びに他の資料(以下「資料等」という)であって、乙による販促に役立つと考えられらものを、無償で提供する。乙は、甲の事前の承認を条件に、資料等を、対象地域において、日本語に翻訳し、または、宣伝・販促のために、改変し、又は修正することができる。 |
条項のポイント~販促資料の提供
販売代理店が販促を行うに当たり必要な販促資料の提供と使用について定めます。確かにこのような規定がなくても、メーカーが販促資料を販売代理店に提供すれば、通常は、少なくともそのままの状態であれば使用してよいという意思を示したものといえます。
しかしながら、メーカーと販売代理店側の関係が良好でなくなった場合にメーカーが突然著作権侵害といった主張をしてくると事態はややこしくなります。特に販売代理店が外国語の資料を翻訳したり、改変するといった必要性がある場合はそうです。それで、販促資料の使用の権利、その権利がどの行為まで及ぶのかといった規定がある方が望ましいといえます。
保証
規定例
第*条(保証) 甲は、以下の点を保証する。 (1) 本製品において、設計、品質、性能の面であらゆる瑕疵がないこと (2) 本製品に商品性があること、また、本製品の購入目的に適していること (3) 本製品が、本地域における関連法規・規制に基づく品質、安全及び環境にかかる基準を満たしていること。 |
条項のポイント1~瑕疵に関する保証
販売代理店がメーカーに対し、商品に関して瑕疵がないことの保証を求めることは当然と思います。もっとも、民法や商法でも契約不適合責任(瑕疵担保責任)の規定はありますが、メーカー側・販売代理店側それぞれが自社の利益や取引上の必要に沿った規定を設けようとするのは当然でのことです。
また、瑕疵がないことについても、所定の仕様書への適合性に限定するといった方向の修正もありえます。
条項のポイント2~商品性に関する保証
今回のサンプルは、品質について瑕疵がないことに加えて、いわゆる商品性や商品の購入目的への適合性の保証を定めたものであり、販売代理店サイドに有利な、メーカー側にとっては少々厳しい内容となっています。
それでメーカーとしては、対象製品の商品性といった事項についての保証を排除したい場合、これを削除したり、さらに当該保証の排除を明示的に定めるといった方向の交渉がありえます。
最低購入数量
規定例
第*条(最低購入数量) 当初契約期間中は、最低保証購入数量については定めない。ただし当初期間の更新又は更新後の再更新においては、これらに先立ち、甲と乙は、最低保証購入数量の設定と内容について協議するものとする。 |
条項のポイント1~最低購入数量
販売代理店に独占的販売権を付与する場合、最低購入数量の定めを置くことが少なくありません。そうしないと、販売代理店が独占権を得ていてメーカーが当該地域においては販売ができないにもかかわらず、販売代理店が販促や営業の努力をせず、当該地域の販売が不振であっても、メーカーとしては何もできないことになってしまうからです。
他方、販売代理店としては、例えば対象製品が、販売実績もなく市場開拓をしていくようなものである場合、最低購入数量の定めは大きなリスク要因ともなりえます。
それで、上のようなサンプルのように、最初の契約期間中は最低購入数量の定めをあえて置かない、というような規定を定めることもあります。
もっとも、上のサンプルのような規定がなくても最低購入数量の明示的規定がない限りは、通常は最低購入数量の義務はありません。規定例の狙いは、契約更新時に最低購入数量についての協議をする義務を課すことにあります。
条項のポイント2~最低購入数量未達の場合の効果
最低購入数量を定める場合には、この最低量未達のときに、どのような法律効果を発生させるかを定めておくことも重要となります。
緩やかな例としては、特段の効果を定めず、メーカー側が、最低購入数量の達成度合いを、契約の更新の有無の判断材料に使用する、という方法もあります。
また、具体的な効果を定める例としては、年度等の一定期間単位の最低購入数量を定め、これが未達の場合には契約解除事由の一つとするとか、最低購入数量と現実購入数量の差分に応じた違約金の支払義務を定めることもあります。
あるいは、最低購入数量未達の場合に、メーカー側が、当該販売代理店の独占権を非独占権に変更する権利を持つ、といった規定もありえます。
競合製品の取扱の可否
規定例
第*条(競合製品の取扱) 乙は、本契約期間中、甲の事前の書面による承諾を得ない限り、本製品と直接競合する製品につき、販売、販売促進、宣伝若しくは他の営業業務を行わない。 |
条項のポイント1~競合製品の取扱の可否
販売代理店に対して、競合製品商品の取扱を認めるのか否かを規定します。特に競合製品の取扱の制限を希望する場合は規定することが必要です。
メーカーサイドとしては、特に販売代理店に独占権を付与するときには競合製品の取扱の制限を望むことが多いと思いますが、最低購入額を満たせばよく競合製品の取扱制限まで求めないという考え方もあります。
他方、販売代理店としては、すでに他のメーカーの商品を扱っていて継続する必要がある場合、取扱商品のラインナップの増加を望む場合等、競合製品の取扱制限を望まない場合もあると思います。
条項のポイント2~競合製品の取扱の制限の範囲や内容
競合製品取扱の制限の期間(通常は契約期間中ですが、終了後1年以内の期間を加える場合もある)、地理的範囲、競合製品の定義の具体化や明確化、競合製品取扱の規定に違反した場合のペナルティといった項目を具体的に規定することを検討できます。
また、メーカーサイドとしては、販売代理店が関連会社等を使用して制限規定に対する潜脱をするのを防ぐよう、関連会社や第三者を使った競合製品の取扱を制限内容に含めることも検討できます。
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