事業用建物賃貸借契約のサンプルと解説
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本ページでは、主として事業所としての使用目的を念頭に、建物賃貸借契について、サンプルから各規定の意味や留意点などを解説します。
建物賃貸借契約の概説
建物賃貸借契約の種類
建物賃貸借契約は、大きく分けると「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」の2種類に分かれます。
まず、普通賃貸借契約は、借主が望めば原則として契約が更新される契約です。この点、貸主が更新拒絶を通知した場合も、貸主に正当の事由があると認められなければ、契約が更新されます。そしてこの正当事由が認められるためのハードルは相当に高いものがあります。
他方、法律上の要件を満たした定期建物賃貸借契約においては、貸主側から適時に終了通知を出すと、契約で定めた期間満了をもって、更新がなく賃貸借契約が終了します。借主においては更新を要求する権利がありません。
以上のように、ある賃貸借契約が普通建物賃貸借契約であるか定期建物賃貸借契約であるかによって、契約満了時の法律関係が全く異なりますから、まずはこの点で注意が必要です。
建物賃貸借契約において考慮すべき法律
建物賃貸借契約に関係する主な法令は、民法、借地借家法などがあります。特に留意すべきは借地借家法です。それは、借地借家法のある規定は、「強行規定」といって、これらの規定に違反して借主に不利な規定は無効となってしまうからです。
建物賃貸借契約のサンプルと解説
以下、オフィス等の事業所として使用する目的での建物賃貸借契約(普通賃貸借契約)のサンプルから、主要なポイントについてご説明します。以下は、主要条項の一部を取り上げますが、今後必要に応じ加筆する予定です。
なお、サンプル条文は、もっぱら条項の趣旨、目的、狙いを解説することを目的としています。それで、条項間の整合性については検証しておらず、必要な事項すべてを網羅しているとは限りません。また、各規定の有効性・執行可能性についての保証もありません。それで、本ページのサンプルを「雛形(ひな形)」としてそのまま使用することはご遠慮ください。
契約の目的
規定例
第*条 (本契約の目的) |
条項のポイント1~契約目的の明示
契約の最初に、契約を締結する目的を明らかにするための条項を置くことは実務上多く見られます。賃貸借契約であれば、当事者間で建物の賃貸借の合意を明示し、対象となる物件を特定します。
条項のポイント2~用途の明示
賃貸借契約においては対象物件の用途を明示することは重要です。貸主としては、意図しない用途で建物が使用されると、建物に想定外の損傷や劣化が生じることになる不利益を受けることになるところ、契約において用途を明示することによって、違反行為があったときは契約を解除することができるようになります。
契約期間
規定例
第*条(契約期間) |
条項のポイント1~契約期間の明示
契約期間を明示することは実務上ほぼすべてのケースで行われています。事務所の賃貸借契約においては2年~3年とされることが多いですが、これに限るものではありません。
条項のポイント2~更新に関する規定
普通賃貸借契約においては、更新に関する規定がない場合でも、「法定更新」という規定が借地借家法に定められています。しかし、法定更新がされた場合、賃貸借契約は期間の定めのないものになってしまうため、実務上は扱いにくいことから、上のサンプルのとおり、契約において自動更新を定めることが多いといえます。
条項のポイント3~中途解約に関する規定
期間の定めのある建物賃貸借契約は、中途解約に関する特約があればその定めに従う一方で、 特約がない場合には、貸主・借主いずれも中途解約することができません。
もっとも、実務上は、テナントが契約しやすくするために、普通賃貸借契約については借主側からの中途解約を認める規定がされることが少なくありません。中途解約の予告期間については、事業用の賃貸借契約の場合、3ヶ月~6ヶ月程度が比較的多いと考えられれます。
保証金
規定例
第*条(保証金) |
条項のポイント1~保証金の定め
民法上、保証金(敷金)の預託義務は当然に発生するものではないため、契約において、保証金(敷金)の預託義務を定める必要があります。
保証金の定め方としては、サンプルのとおり定額の金額で定める方法のほか、賃料の●ヶ月分といった定め方もあります。どちらにしても、オフィスの賃貸借契約では、保証金の金額は3ヶ月~12ヶ月分であることが多いと思われます。
条項のポイント2~保証金の返還の定め
保証金の返還のタイミングについて定めます。重要なのは、明渡と原状回復完了後であること、明渡と原状回復完了からの返金時期を明示すること、借主の貸主への債務を差し引くことができること、といった事項を明示することです。
保証金の定め方としては、サンプルのとおり定額の金額で定める方法のほか、賃料の●ヶ月分といった定め方もあります。どちらにしても、オフィスの賃貸借契約では、保証金の金額は3ヶ月~12ヶ月分であることが多いと思われます。
賃料
規定例
第*条(賃料) |
条項のポイント1~賃料の定め
賃料の定めをおくことは当然といえば当然です。
まず、事業用の建物賃貸借契約の賃料については消費税が課税されます。それで、賃料が税込なのか税別なのかを明示する必要があります。また、共益費込なのか別なのかも明示します。
条項のポイント2~賃料の支払時期
賃料の支払時期について定めます。賃料支払時期について契約に定めないと、民法614条[カーソルを載せて条文表示]によって、当月分を月末に支払うことになります。
この点建物賃貸借契約については当月分を前月末日までに支払うという前払い規定が広く普及していますが、それは、そのように定めないと前払いの義務が発生しないからです。
賃料の改定
規定例
第*条(賃料の改定) |
条項のポイント~賃料改定の定め
契約締結時には相当であった賃料も、時代の変化とともに適正でなくなることがあります。そのため、賃料が不相当となる場合の損害を避けるため、将来の事情変更によって賃料の改定が可能とする規定は頻繁に見られます。
もっとも、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がない場合には、賃貸借契約に賃料改定の規定がなくても、借地借家法32条に基づき賃料改定の協議を申し入れたり裁判をすることはできます。しかし、賃貸借契約にそのような規定を含めておくほうが、改定協議に入るハードルを下げる効果はあると考えられます。
費用負担
規定例
第*条(費用負担) |
条項のポイント~賃貸物件の維持管理の費用負担の定め
賃貸物件の維持管理に関する費用負担として、どの部分が賃貸人の負担で、どの部分が賃借人の負担とするかを定める必要があります。
上のサンプルでは、実務上多い考え方に基づいて定めています。特に蛍光灯などの消耗品については、賃借人負担と考えるのが通常だと思われがちですが、契約書に記載がないと民法606条1項[カーソルを載せて条文表示]に基づいて賃貸人が負担すると解釈されかねませんので、明記することが重要といえます。
物件の滅失
規定例
第*条(本物件の滅失) |
条項のポイント1~賃貸物件の滅失等による契約終了の定め
賃貸物件が天災などで滅失したり著しく毀損した場合の契約の帰趨について定めます。
なお、民法では、賃借物の全部が滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合には、賃借権は終了するとしており(民法616条の2[カーソルを載せて条文表示])、一部滅失の時は、契約の目的が達せられるか否かが明らかではないため、当然に終了するのではなく、賃借人からの解除によって終了すると定めています(民法611条2項[カーソルを載せて条文表示])。
条項のポイント2~賃貸物件の一部滅失の場合の賃料減額
民法611条1項[カーソルを載せて条文表示]は、滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合、賃料について賃借人からの請求なくして当然に減額されると定めています。
もっとも、民法の規定がそのまま適用されると、賃貸人にとっては、一部滅失後期間が経ってから賃借人から減額の主張がされるという問題が生じるかもしれません。それで上のサンプルでは、賃借人に速やかな通知義務を課すことを減額の条件としています。
契約解除
規定例
第*条(契約解除) |
条項のポイント~契約解除事由の定め
どのような場合に賃貸借契約を解除できるか、解除事由を定めます。
もっとも、具体的なケースでは、契約にある解除事由があるからといってすぐに解除ができないケースもあることは留意する必要があります。それは、賃貸借契約が当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるため、賃貸借契約違反があった場合でも、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに至っていない事情がある場合には、契約を解除することは認められないというのが裁判例の考え方だからです。
例えば賃料の滞納については、他の事情にもよるものの、1~2か月分の不払いでは賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに至っていない事情があると判断される可能性が相当にあります。
明渡
規定例
第*条(明渡) |
条項のポイント1~原状回復義務と明渡の定め
賃貸借契約が終了した場合の明渡と原状回復義務を定める必要があり、原状回復義務についてはその範囲を定める必要があります。
この点民法621条[カーソルを載せて条文表示]は、通常損耗や経年変化、及び賃借人の責に帰することができない事由によって生じた損傷については原状回復義務から除外しています。
もっとも、オフィスビル等の事業用の賃貸借契約においては、上のような民法の規定を適用せず、原状回復に関する特約が定められるケースが実務上は多いといえ、上のサンプルでもこうした実務を反映しています。
また、オフィスビル等では、賃借人に対し、賃貸人の指定した業者に原状回復工事を委託することを義務付ける特約も少なくありません。
条項のポイント2~金銭補償請求権の排除
民法608条では、賃借人に「必要費償還請求権」(建物の原状を維持保存し又は賃借人が約定の目的に従った使用収益をするために必要な費用の償還を請求できる権利)や、「有益費償還請求権」(賃借人が建物価値を客観的に高めるための費用を支出した場合賃貸借契約終了時にその費用を請求できる権利)が定められています。
しかし、賃貸借契約の終了後に賃貸人が明渡しを求めたところ、賃借人からそのような権利を主張されると紛争のもととなるため、実務上はこうした権利を含めて賃貸人が金銭補償を求めることができない旨の規定を置くことが多いといえます。
このページは作成途中です。加筆次第随時公開します。
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