2005-12-03 仲裁合意と訴訟,紛争解決

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事案の概要

東京地裁 平成17年10月21日判決

A社が,B社に対し,特許権の実施契約に基づき実施許諾をし,B社はA社に対し,売上に応じたロイアルティ(ライセンス料)を支払うことになっていました。

A社は,B社が売上高を過少申告しているとして,A社に対し未払いのロイアルティの支払を求め訴訟を起こしました。

これに対し,B社は,特許権の実施契約第15条により,本件契約に関して万一紛争が発生した場合は友好的に解決するものとし,合理的な期間内に解決することができない場合には,国際商業会議所(ICC)の規則に基づいて仲裁に付する旨の仲裁合意が成立しているとし,仲裁法14条に基づき,原告の本件訴えは却下されるべきである,と主張しました。

なお,この特許権の実施契約書には,以下のような条項がありました。

(ア)「本契約」から又は「本契約」に関して又は「本契約」に関連して「本契約」両当事者間に生じることがあるいかなる紛争,論争又は意見の相違も,両当事者間の交渉により友好的に解決する。但し,かかる各事項を合理的な期間内に解決することができない場合,当該事項は,国際商業会議所の規則に基づいて仲裁に付するものとする。仲裁は,3人の仲裁人で構成するものとし,各当事者が1人を任命し,議長となる第三仲裁人を両当事者が任命した2人の仲裁人が共同で任命する。各当事者は,相手方当事者に書面にて通知し,自己の任命する仲裁人の氏名を提供することにより仲裁手続を開始することができる。この場合,当該通知の受領後2ヶ月以内に,相手方当事者は,もう1人の仲裁人を任命しなければならない。

(イ) 「本契約」は日本国法に準拠して解釈され,仲裁地は日本国東京とする。

判決の概要

東京地裁は,以下のように判断し,訴えを却下しました。

【理由】
本件合意(特許権の実施契約書15条の条項)は,仲裁法2条1項所定の仲裁合意と認めることができ,仲裁法13条1項により,効力を有する。
本件訴えは,本件仲裁合意の対象となる紛争について提起されたことが明らかであり,本件訴えは,同条項により,却下を免れない。

解説

【仲裁とは何か】

 仲裁とは,当事者が,私人である第三者をして争いを判断させ,その判断に服することを合意し(これを「仲裁合意」といいます。),その合意に基づき紛争を解決する制度です。

 そして,この仲裁人の判断(「仲裁判断」といいます)には,裁判所による確定判決と同一の効力が認められています(仲裁法45条)。従って,仲裁判断に基づき,裁判所の強制執行手続を取ることができます。

 また,仲裁合意をした当事者の一方が,仲裁合意があるにもかかわらず裁判所に提訴した場合、他方当事者が仲裁合意の存在を主張すれば、訴えは却下(いわば「門前払い」)されます。すなわち、A社の裁判所に対する申立ては門前払いとされます。

 このように,仲裁制度は,裁判と並ぶ重要な強制的紛争解決手段といえます。仲裁には以下のような特徴があります。

(1) 当事者が仲裁人,仲裁機関を選ぶことができる

 仲裁では,当事者間の合意によって,仲裁人,仲裁機関を誰(どこ)にするか,自由に選ぶことができます。それで,紛争の内容に応じた専門家による判断が期待できます。他方,裁判では裁判官を選ぶことはできません。

(2) 迅速性

 仲裁は裁判と違って上訴がなく,1回の判断ですべて確定します。当事者が合意すれば,仲裁判断をすべき期間を定めることができるます。

(3) 非公開

 仲裁での手続は非公開であり,当事者の合意がない限り,仲裁判断も公表されないため,営業上の秘密を守ることができます。これに対し,裁判は原則として公開されます。

(4) 国際性

 裁判の場合,日本の判決を外国で執行することは,それぞれの国の法制度に依存しており,困難な場合もあります。他方,仲裁の場合、いわゆるニューヨーク条約が存在し,非常に多くの国が締約国となっているため,外国での執行が容易です。

【仲裁条項に対する認識は重要】

以上のとおり,仲裁合意は,いったん合意すると,裁判所による紛争解決の道を放棄する選択をしたことを意味します。

先に述べたように,仲裁について,当事者間の合意で決められることは,他方で,よく検討しないと,自社の側に不利な仲裁合意がなされる可能性も意味します。もっとも,仲裁は多くのメリットがある制度ですし,特にビジネス・商事事案に適した制度です。

それで,契約書に仲裁条項がある場合,仲裁の意味を認識するとともに,将来起こることが想定される紛争を見越して,不利な仲裁合意とならないよう,十分な交渉が必要でしょう。



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