2013-10-15権利行使と信義誠実の原則

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1 今回の判例     権利行使と信義誠実の原則

大阪地裁 平成25年1月31日判決

 賃貸人X社は、建物の一室を賃借人A氏に賃貸していました。賃貸借契約は、2年ごとに自動更新となっており、A氏の実兄B氏が連帯保証人となりました。

 A氏は平成15年から賃料を滞納するようになり、平成16年には荷物を置いたまま行方不明となりましたが、X社は7年以上その状態を放置したまま、契約を更新し続けていました。その後、B氏が死亡し妻と子供(B相続人)が相続しました。

 そうしていたところ、X社は平成24年になって、B相続人に対して訴訟を提起し、保証債務の履行としてAの約7年半分の未払賃料等を支払うよう求めました。

 

2 裁判所の判断

裁判所は、以下の理由で請求を認めませんでした。

  • X社は、A氏が居住していた同じ建物に本店と代表者住所があり、A氏の状況を容易に把握できたのに対し、B氏は離れた場所に住んでいてA氏の状況を十分把握できない立場にいた。
  • X社は、A氏が行方不明となっても連帯保証人B氏を頼みとすることができるが、B氏にとっては、X社がA氏の状況を放置して賃貸借契約が更新されるに任せれば保証人としての負担が膨れ上がってしまう。
  • X社は、平成16年9月にA氏が行方不明となり賃料の支払いが全く期待できなくなったことが明らかになったのに、7年近く放置していた。
  • このような事情のもとでは、少なくともA氏が行方不明になった後2回目の更新があった平成19年5月以降に生じた債務について、X社からB氏に保証人としての責任を追及することは信義誠実の原則に反する。

 

3 解説

(1)民法の信義誠実の原則(信義則)

 民法1条2項は「権利の行使・・は、信義に従い誠実に行わなければならない」と定めており、これを信義誠実の原則といいます。つまり、法律の規定や契約の規定によればある権利が存在する場合でも、権利行使の時期・方法・経緯・動機・目的・その他の状況から、権利行使が信義誠実の原則に反しているという場合、裁判所がその権利の行使を認めないことがあるのです。

 今回の事例でも、賃貸人と保証人の状況把握の容易性の差、賃貸人の長年の事態の放置、保証人が受ける負担の想定外性等に鑑み、裁判所が保証人への賃料請求を認めなかったわけです。

(2)実務上の留意点

 契約上権利の行使が可能であっても、それを契約の額面上実際に行使するか否かは、社会通念上信義に反するような事情がないか、慎重な検討が必要な場合があり、その一つが請求のタイミングとそれに至る経緯です。

 特にこの点は、実際に建物を使用しているわけではないのに債務のみを負わされる建物賃貸借契約の連帯保証人に請求する場合や、同様に資金借入から利益を得ていないのに債務のみを負うことが多い貸金債務などの保証人に請求する場合に生じやすい問題といえます。

 企業の債権の管理において、連帯保証人への請求をしなければならない状況が生じることがあります。この場合、様々な事情があるとしても、請求をいたずらに見合わせて長期間放置し、タイミングを遅らせると、後で請求そのものが認められなくなったり責任が大きく制限される危険があります。この点、賃貸借契約でであれば1か月数万円から十数万円の賃料が、請求を受けた時点では数百万となっているならば連帯保証人にとっては想定外の負担でしょう。賃貸人としてはそのような想定外の負担を突然負わせないよう、賃料滞納が生じた早い段階から、随時賃料滞納の状況を通知し請求するといった方策が重要となります。

 また、権利を行使する前に、相手方の負担が無用に増大しないよう権利者側で必要な措置を取ることも重要となる場合があります。例えば賃貸借契約なら、長期間賃料を滞納している賃借人に対し適切なタイミングで契約を解除して明渡を求めるなどの措置を取り、事態を放置しないようにすることも重要となると思われます。

 保証人への請求といった業務は気が重くできればやりたくないものですが、実際は遅らせれば遅らせるほど難しい問題が生じることが少なくありません。それで、請求を見合わせるべき正当な事情がない限り、適切なタイミングで権利行使を行うよう心がけることが重要と考えられます。



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