2014-01-21 マイカー通勤時の事故と会社の責任

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1 今回の判例    マイカー通勤時の事故と会社の責任

 

東京地裁 平成25年3月14日判決

A社に勤めるB氏は、A社からマイカーで帰宅する途中で、横断歩道を横断中の歩行者C氏に衝突して死亡させるという交通事故を起こしてしまいました。

 そして、A社は、正規の手続でマイカー通勤を許可していたわけではなく、積極的にB氏のマイカーを業務に利用していたわけでもありませんでした。しかし、C氏の遺族らは、A社はB氏がマイカーで通勤していることを認識していたし、会社敷地内の場所を従業員駐車場として提供させていたことなどからすれば、自賠法3条本文の「運行供用者」として責任を負うべきだとして、損害賠償を請求する裁判を起こしました。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下の理由でA社は賠償責任を負わないと判断しました。

  • A社の就業規則には通勤手段として「(1)徒歩、自転車(2)公共交通機関(3)自家用自動車、自動二輪」があり、自家用自動車を選択する場合、「通勤手当申請書」を提出して許可された場合には月1万円の手当が支給される旨マイカー通勤細則に定められていたが、B氏は「通勤手当申請書」を提出したことも、マイカー通勤を許可されたことも、通勤手当の支給を受けたこともなかった。
  • B氏の出退社時刻・所要時間からすれば電車による通勤が可能であったが、B氏が電車よりもマイカー通勤の方が便利であると考えて選択していた。
  • B氏は、ごくまれにマイカーを業務中の移動等に使用し、交通費の支払を受けたことがあったが、B氏自身の判断で使用したものであり、A社から指示されたものではなかった。
  • 以上からすれば、A社は、B氏のマイカー運行について認識していたことはうかがわれるが、運行利益及び運行支配を有していたということはできないから、自賠法3条本文の「運行供用者」にはあたらない。

 

3 解説

(1)従業員が通勤時に事故を起こした場合の雇用者の責任

 会社として特段マイカー通勤を勧めているわけではないが、社員が電車のラッシュを嫌ってマイカー通勤しているというケースがあるかもしれません。

 そして、従業員がマイカー通勤中に交通事故を起こした場合、会社に責任が生じ得る根拠の一つとして、いわゆる自賠法3条本文に定められた「運行供用者責任」が生じる余地があります。

 この「運行供用者責任」とは、ある自動車に関し人身事故が生じた場合に、会社が、当該自動車について「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)と判断された場合、賠償責任が認められるというものです。

(2)実務上の留意点

 では、具体的にどのような場合に運行供用者責任が肯定又は否定されるのでしょうか。この点過去の裁判例を見ていくと、以下のような事情を考慮して判断されています。

  • マイカーが普段から業務に利用されていたか
  • 会社がマイカーの業務利用を容認・黙認していたか
  • マイカー通勤が地理的・時間的に必要不可欠な状況だったか
  • 会社がマイカーの使用につき便宜(ガソリン代・保管場所等)を供与していたか

 そこで、これらの点を踏まえ、マイカー通勤に関する実務上の留意点を考えてみましょう

 マイカー通勤時の事故については、企業が責任を負わないのが本来ですが、企業が積極的にマイカー通勤を推奨している場合、又はマイカー通勤を黙認し、かつ暗にマイカーでの通勤を推奨していると解釈されるような場合、企業が「運行供用者」であると判断され、責任が発生する可能性が高くなります。

 それで、マイカーの業務使用は当然に禁止するほか、マイカー通勤も原則禁止・許可制にするとともに、公共交通機関での通勤が可能な従業員からのマイカー通勤の許可願いについては、原則として許可しない旨の運用が望ましいと考えられます。また、許可がない限りマイカー通勤は禁止である旨を定期的に告知するなどの運用も望ましいと考えられます。

 また、マイカー通勤を許可しなくとも、マイカー通勤者に対してガソリン代相当額を支払っている場合、暗にマイカー通勤を推奨していると推認される材料となりえますので、いずれにせよ、ガソリン代相当額ではなく、公共の交通機関を利用した場合で計算した交通費を支給することが考えられます。

 さらに、地理的事情その他の事情からマイカー通勤を許可する場合、現実的な対策として、少なくとも対人事故の賠償額は無制限とするなどの適切な許可基準を設けておき、さらに、自賠責保険、任意保険、免許証の有効期限、車検期間などの管理の要否も検討する必要があると考えられます。

 

参考ページ:労働法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/


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