2016-01-05 監査役の業務監査責任と役員責任査定制度

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1 今回の判例  監査役の業務監査責任と役員責任査定制度

今回は事案も複雑であり、若干長文となります。ご容赦ください。

大阪高裁平成27年5月21日判決

 不動産販売等を目的とするA社(上場企業)は、いわゆるサブプライムローン問題の影響で業績が急激に悪化しました。

 そのような中で、A社の代表取締役B氏は様々な任務懈怠行為を繰り返しました。例えば、平成22年8月から12月までの間、合計11億円を超える約束手形を振り出しましたが、途中で濫用的な振出を防止するための手形取扱規程が制定された後も、B氏は独断で手形を振り出しました。また、B氏は、取締役会決議で借入金返済に充てることが決定された募集株式発行の払込金の一部を第三者に交付したりもしました。

 そしてA社が破産に至ったため、破産管財人C氏が、A社の社外監査役であった公認会計士D氏に対する役員責任査定を裁判所に申し立てました。

 裁判所は、D氏の責任については、A社とD氏の責任限定契約に基づき648万円と査定しましたが、D氏は自身には任務懈怠はないとして当該決定の取消を求めて提訴し、逆に管財人C氏は、D氏には重過失があるので責任限定契約の適用はないとして提訴しました。

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断しました。

● D氏は公認会計士であり、監査役の職務分担上経営管理本部掌握業務を担当していた上、取締役会への出席を通じ代表取締役B氏の任務懈怠行為を熟知していた。

● よって、D氏は、監査役の職務として、取締役会に対し、A社の資金の不当な流出を防ぐための内部統制システムの構築を助言勧告すべき義務があったがこれを怠った。

● またD氏は、取締役の執行を監査すべき監査役の職務として、取締役会に対し、代表取締役B氏の解職を助言勧告すべき義務があったがこれを怠った。

● ただし、D氏を含めたA社の監査役会は、B氏の任務懈怠行為について、取締役会で度々疑義を表明した。また、取締役会の決議を経ずに多額の約束手形が振り出された際には、「監査役として看過できず、しかるべき対応をせざるを得ない」旨申し入れるなどしていた。

● したがって、D氏には重過失まであるとはいえない。

3 解説

(1)監査役における内部統制システム構築勧告の義務

 監査役の職務は、「監査」という言葉に示されるように、取締役の職務執行を事後的に評価する(事後監査)ことが含まれるものの、それだけでなく、取締役の違法・不当な業務執行を事前に防止するための措置(事前監査)を講じることも含まれています。

 そのため、会社法383条は、監査役に取締役会への出席義務を課しています。監査役は、取締役会において、違法・不当な決議がなされそうな場合だけでなく、取締役会として、本来なされるべき決議が適切に行われていないという場合、積極的に意見を述べる必要があるということになります。

 例えば本件では、代表取締役B氏が取締役会の承認手続等を無視した手形振出等の任務慨怠を繰り返し、さらに手形取扱規程の制定後も独断で手形を振り出していたことが取締役会において判明した時点で、B氏がさらに不正に会社財産を流出させるリスクが予見可能であったと判断され、裁判所は、監査役において、手形取扱規程に準じた出金管理規程を設けるなどの内部統制システムの構築・見直しを助言・勧告する義務がある、と判断した次第です。

 平成26年会社法改正でも、内部統制システムについて決議すべき事項(会社法362条4項6号)として、監査役による監査の実効性を確保する仕組として以下のものが追加されました(会社法施行規則100条3項3~6号)。

A 監査役の職務を補助すべき使用人に対する監査役の指示の実効性の確保に関する事項(3号)
B 監査役設置会社の子会社の取締役・使用人等が監査役に報告をするための体制(4号ロ)
C 監査役への報告をした者が当該報告を理由として不利な取扱を受けないことを確保するための体制(5号)
D 監査役の職務の執行について生じる費用の前払い等の処理に係る方針に関する事項(6号)

 以上のとおり、会社法においては、監査役の監査環境の充実とともに、その権限・義務が強化されています。また近年の多くの事例のように、実際に不祥事が発生した場合、会社の設置する外部調査委員会や株主代表訴訟によって、「監査役として適切に職責を果たしていたのかどうか」が厳しく問われるケースも少なくありません。監査役の職責の重要性と重さを改めて認識する必要があるように思われます。

(2)役員責任査定の制度

 本件では、「役員責任査定制度」という実務上珍しい制度が登場しています。これは、法人が破産した場合、破産管財人の申立または職権により、裁判所が、破産法人の役員が負う損害賠償請求額の査定を行うことができる、という制度です(破産法178条1項)。また、民事再生手続においても同様の制度があります(民事再生法143条1項)。

 これは、長い時間のかかる訴訟とは異なり、役員に対する責任追及を簡易迅速に行う制度ですが、現実にはあまり活用されていません。特に中小企業の破産のように、法人が破産する場合役員に支払能力がないことが多いからかもしれません。しかし、ケースによっては活用できる場面があると思われます。「こんな制度もある」程度に、頭に入れておいて損はないでしょう。



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