2016-09-06 価格カルテルと業務提携における留意点

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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前書き

 本稿を執筆しております弁護士の石下(いしおろし)です。いつもご愛読ありがとうございます。

 前回、法的紛争における交渉では、「勝った」「負けた」という視点とは全く別の観点から考える必要があるということを申し上げました。それはどんな「観点」なのでしょうか。

 法的紛争における交渉において考えなければならないのは、当方の有利不利もさることながら、当方と相手方が考える事実と裏付証拠の有無、双方の法的ポジション、双方のビジネス上の立場、双方の利害損得、自社と相手方において死守したい事項と譲歩できそう(と推測される)な事項、双方のポリシー、社内担当者・決定権者の立場、紛争解決の意欲、その他の要素をできる限り分析することです。その上で、自社と相手方のそれぞれの利害や立場を組み合せ、相手方を、また自社の社内を納得させられる最適解を見いだせるか、が交渉における重要な作業となります。

 もし御社が弁護士に何らかの交渉を依頼していて、弁護士が「相手の立場を考えること」について言及する場合、「弱腰」だとか「相手の肩を持っている」などと考えてしまうことがあるかもしれませんが、それは多くの場合誤りです。むしろそれは冷静沈着に交渉を進め、妥当な解決を目指すタイプであることが多いと思います。他方、相手方の状況を一切考慮しようとせず、自社の立場を擁護することばかりを終始述べる弁護士は、一見「頼もしそう」に見えるかもしれません。しかし、その手法は、たまたま上手くいくこともあるものの、交渉を物別れで壊すだけの結果に終わることの多い、成功率が低くリスクの高い方法であることが少なくありません。

 長くなりましたが、参考になれば幸いです。

 なお、本稿の末尾には、弊所取扱案件として英文契約実務(海外商取引編)についてご紹介しています。ご関心があればこちらもご覧ください。

 では、本文にまいります。

1 今回の事例 価格カルテルと若干の実務上の留意

 知財高裁平成28年6月23日判決

 特定エアセパレートガスの製造販売に従事しているA社は、製造費用のうち大きな比率を占める電気料金、重油価格及び軽油価格の高騰を契機として、他の同業大手3社とともに、特定エアセパレートガスの値上げに関する情報交換を行いました。

 公取委によれば、各社の上級役員の間での値上げ意思の相互確認、営業部長級の者による値上げ率・値上げ額の協議を経て、平均10%の値上げを行う旨の合意に至りました。

 その後も、4社は、顧客との値上げ交渉の状況について相互に確認し合い、その内容に沿って顧客に値上げを申し入れていました。

 公取委は、A社を含む4社に対して、排除措置命令及び課徴金納付命令を行ったところ、A者は、これに対し審判請求を行い、さらに、当該審判の結果(審決)を不服として、審決取消訴訟を提起しました。

 なお本件では、4社が扱う特定エアセパレートガスの種類が、液化酸素、液化窒素、液化アルゴンとそれぞれ異なる代替性のないものであり、用途も需要者も異なるものだったため、「一定の取引分野における競争の実質的制限」があったか否かが争点の一つとなりました。

2 東京高裁の判断

 東京高裁は以下のように判断しました。

● 本件では、各種類のガス製品の間に需要の代替性は認められないが、4社は、特定エアセパレートガスの製造販売を営む者として立場を共通していることに加え、特定エアセパレートガス全体についても、それぞれのガス種のいずれについても、90パーセント弱の高いシェアがあった。

● このような4社が、ガス製造費用のうち大きな比率を占めている電気料金、重油価格及び軽油価格の高騰を背景に、ガス製品の販売価格を引き上げる旨の合意を行ったことに鑑みれば、特定エアセパレートガスの全体を一個の取引分野として画定することについて、特に不都合は見当たらず、社会的実態に即した形で、取引の実質的制限の判断が可能になる。

● 4社による特定エアセパレートガスの総販売金額は、特定エアセパレートガスの総販売金額の約9割を占めているから、4社の販売価格が引き上げられれば、需要者への販売価格にも影響を与えることは明らかであり、一定の取引分野において競争の実質的制限が認められる。

3 解説

(1)価格カルテルと独禁法

 価格カルテルとは、 独占禁止法2条6項に定める「不当な取引制限」の一つです。同項では、「事業者が、・・何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して、対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ・・る等、相互にその事業活動を拘束し又は遂行することによって、市場における競争を実質的に制限する」と定めています。

 価格競争は自由競争の中でも最も重要な要素の一つであり、カルテルが横行すると、市場メカニズムが阻害され、非効率な事業者が温存されて経済が停滞するなどの弊害があることから、日本も含め世界各国で規制されています。

 以下、価格カルテルと認定されてしまうリスクの軽減・回避の観点から実務上の留意点に若干触れたいと思います。

(2)業務提携・アライアンスとカルテル

 競合事業者間で何らかの業務提携がなされるという場合が見られます。例えば、急速な技術の進展により増大する研究開発コストを単独企業が負担するにはリスクが高く、業務提携によって共同研究開発を行うという場合などです。

 この点、競合事業者間での業務提携は、「不当な取引制限」との抵触が問題となることがあり、注意が必要です。

 例えば、製品の製造販売のプロセス全体を共同化するならば、価格等に与える影響が大きく、価格競争などが制限されて不当な取引制限につながりうるといえます。また、製造のみの共同化であっても、価格に占める製造コストの割合が高ければ同様のリスクが高まります。

 他方、共同化の範囲を限定し、価格等に有意な影響を与えない場合には独禁法との抵触のリスクは低いといえます。例えば、一部の商品について共同配送システムを構築し、物流を共同化するというケース、一部の限定的な資材について共同購入するという場合があります。

 また、特定の高度・先端的な狭いテーマについて共同研究開発を行うという場合もそういえることが多いと思います。さらに、標準規格の策定を共同で行うというケースは、市場にある多くの事業者が参加するものの、提携の範囲は限定的であるうえ、標準化には競争促進効果もあることから、価格に大きな影響を与えるリスクは通常は低いと考えられます。

 (3) 競争事業者間における情報交換

 競合事業者間で業務提携を行う場合、注意が必要なのは、価格カルテル等の疑いを持たれないよう、提携に必要な情報以外の情報は共有せず、提携に必要な範囲に限って情報を交換・共有する仕組みを整えておくことです。
 
 また、事業者間の会合における出席者の肩書や権限についても考慮することが重要となります。共同研究開発や規格標準化の会合であれば、出席者を技術者や技術担当の管理職に限定できる場合は少なくないと思われます。また、どうしても価格の話になりがちな営業担当者どうしが出席する必要がある会合の場合、業務提携上の必要性や理由が説明できるのかを確認しておくということも重要となると思われます。

4 弊所取扱案件紹介~英文契約実務(商取引編)

 近年では多くの企業が海外取引に積極的に取り組んでいます。海外取引・国際取引では英文契約はまさに自社を守る必須のツールといえます。

 また国内ビジネスであっても、海外企業の代理店になるとか、海外企業と取引する場合には英文契約の締結が必要となる場合が少なくありません。

 そして弊所では、英文契約業務に積極的に取り扱い、多くの企業の国際化を支援しています。

 これまで弊所が作成・レビューとして取り扱ってきた英文契約は多種多様ですが、今回は特に商取引関係のものをピックアップすると、以下のようなものがあります。

 弊所では海外取引・国際契約をご検討の方のご相談を歓迎します。詳細は以下のURLをご覧ください。

取扱案件詳細~英文契約書実務

  ・販売店契約書
    (Distributorship Agreement、Reseller Agreement)

  ・代理店契約書(Representing Agreement)

  ・売買契約書(Purchase and Sales Agreement)

  ・フランチャイズ契約書(Franchise Agreement)

  ・業務提携契約書
      (Alliance Agreement、Affiliation Agreement)

  ・購買契約書(Purchasing Agreement)

  ・取引条件に関する合意書
       (Agreement of Trading Terms)

  ・業務委託契約書・役務提供契約書(Services Agreement)

  ・エージェンシー契約書(Agency Agreement)



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