2025-05-20 社内での秘密保護に関する留意点

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今回の事例 社内での秘密保護に関する留意点

大阪地裁令和6年12月19日判決

 太陽光パネル等を販売するA社が、A社を退職し競業他社に入社した元従業員B氏に対して、B氏が署名した秘密保持誓約書に反して、A社が使用していた「現場調査依頼書」及び「シミュレーションシート」と同様の資料を営業活動に使用したとして、損害賠償請求をしました。

 裁判所は、以下の理由により秘密保持義務違反を認めませんでした。

・ A社の「現場調査依頼書」等の管理状況を明らかにする証拠はなく、書類が棚板の上にむき出しの状態で置かれていて施錠管理等はされていない上、営業担当者のみならず、原告の従業員であれば誰でもアクセス可能であった。

・ 「現場調査依頼書」等は、顧客(契約締結に至った者に限らない)の手元に残ることが予定されたものであり、これらの書面の内容について秘密にすることを顧客に求めているとは認められない。

・ 以上から、B氏がA社に在籍していた当時、A社において、「現場調査依頼書」等について、当該情報に接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していたと認めることはできない。

 

解説

1)営業秘密が法的な保護を受けるためには

 多くの企業は、営業上のノウハウ、商品の製造方法・原価・利益率・販売履歴、顧客情報、といった様々な営業秘密を保有しており、企業の重要な資産として、これを法的に保護することは重要な課題です。

 しかし、ある情報が(元)従業員によって不正に持ち出されたり使用されたりした際に、単にこれが自社で秘密であると主張するだけで保護されるわけではなく、一定の条件が必要です。具体的には、多くの裁判例は、ある秘密情報が法律上保護されるためには、以下の3つの要件が必要としています。

 a) 秘密として管理されていること(秘密管理性)
 b) 事業活動に有用な情報であること(有用性)
 c) 公然と知られていないこと(非公知性)

 そして裁判上、争点となりやすく、かつ原告側が敗訴しやすい要件は、a)の秘密管理性がないという要件です。本件においても、この要件がないとされています。

2)「秘密管理性」の判断要素

 秘密管理性の有無の判断にあたっては、一般的に、以下のような管理状況が考慮されます。

 (a)物理的管理
    保管庫への施錠、保存場所への入退室制限
    媒体の持出制限
    情報の返還や廃棄の管理

 (b)秘密表示・記録
    秘密表示(マル秘、社外秘等)
    台帳による情報の閲覧・持出記録

 (c)技術的管理
    情報の種類に応じたアクセス権限の付与先の限定
    情報の暗号化やパスワード等による保護
    保存端末の外部ネットワークからの遮断

 (d)人的管理
    就業規則での明示、情報管理規程等の整備
    秘密保持誓約書の徴求
    教育や研修の実施
    業務委託先の秘密情報の管理

 そして、裁判例では、こうした管理状況から総合的に見て、当該情報が秘密として管理されていると従業員が認識できるか否かによって判断されています。

3)ビジネス上の留意点

 以上から、自社の営業秘密が保護されるか否かは、いざ事故が起きた後ではなく、事故が起きる前の平常業務における管理状況が大きく物を言うといえます。

 確かに上のような管理は手間やコストがかかりますが、こうした日常的な管理自体、事故時の保護に資することに加え、従業員の不心得に対するそもそもの抑止力となって事故を防ぐことにもつながります。

 また、裁判例でも、秘密管理性の判断にあたっては、会社の規模や組織に応じて多少柔軟に考えるようになってきているといわれています。それで、弁護士と相談しつつ、情報媒体の種類や保管方法・自社の組織や人的体制・保護の必要性とかけられるコスト・活用できるテクノロジー等を考慮した、現実的で実施しやすい方法を探ってみるとよいかと思います。

弊所ウェブサイト紹介~不正競争防止法解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば、本稿のテーマに関連した不正競争防止法については

 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/fukyouhou/index/

において、不正競争防止法の各事項について解説しています。

ぜひ一度ご覧ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。



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