2025-08-19 企業間売買と契約不適合責任(2)
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
今回の事例 企業間売買と契約不適合責任(2)
東京高裁令和4年12月8日判決
判決のご紹介の内容は、前稿と同じです。
衣服の製造加工を営むA社は、他者に納入する従業員用ユニフォームに縫い付けるバーコードネームをB社に発注しましたが、B社は誤ったバーコードを印刷したバーコードネームを納入したため、A社がB社に対して契約不適合責任(瑕疵担保責任)を理由に損害賠償を請求しました。
この点、買主が売主に契約不適合責任を請求できる期間には制限があるものの(商法526条2項)、売主が当該不適合を知っていた場合は、前記制限は適用されません(同条3項)。
本件では、売上であるB社が当該不適合を知っていたとはいえないものの、不適合を知らなかったことに「重過失」があり、この場合にも、商法526条3項が適用されて契約不適合責任を追求できるのかが問題となりました。
裁判所は、B社が不適合を知らなかったことにつき「重過失」がある場合は、商法526条3項が適用されると判断し、A社の損害賠償請求を認めました。
解説
1 企業間売買と商法等の規定
前稿で申し上げたとおり、企業間の売買取引において適用される商法と民法の規定の一部をご説明します(前稿と重複がある部分があります)。ただし以下の内容は、当該事項について契約書に記載がない場合に適用されるものであり、契約書に記載があれば通常はその記載が優先します。
1)契約の申込、撤回、承諾の成立
<承諾の期間の定めがない申込>
承諾の期間の定めがない申込に対して、申込を受けた者が相当の期間内に承諾の承諾の通知を発しなかった場合には、申込は失効します(商法508条1項)。
この「相当の期間」がどの程度かについては一律に決めることはできません。取引の目的物、従来の取引の態様・慣行などによって判断すると考えられています。
<平常取引をする企業間の特則>
他方、企業が、平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込を受けた場合には特則があります。この場合、企業は、遅滞なく、契約の申込に対する諾否の通知を発する必要があります(商法509条1項)。
そして、当該諾否の通知を遅滞なく発しなかったときは承諾があったものとみなされます(商法509条2項)。
2)速やかな検査義務
商法では、買主に対して、売買の目的物を受領したときは、その目的物を遅滞なく検査する義務を課しています(商法526条1項)。
この「遅滞なく」がどの程度の時間なのかは、目的物の性質、数量などを考慮して判断されますが、裁判例を考慮すると受領後1週間前後が多いようです。それで、目的物を受領した場合にすぐに必要ないからといってすぐに検査せず、自社からの出荷の際に検査して不備が発見されても遅い、ということになってしまいます。
3)契約不適合責任
売買の対象となった物(目的物)に不備があった場合に「契約不適合責任」の追及ができる期間については以下のとおりです。
<直ちに発見できる種類・品質・数量>
売主に対して直ちに契約不適合である旨の通知をする必要があります(商法526条2項前段)。
<直ちに発見できない種類・品質>
目的物受領から6か月以内に不適合を発見し、売主に対して直ちに契約不適合である旨の通知をする必要がある(商法526条2項後段)。
ただし、契約不適合を売主が知っていた場合には、前記の期間を過ぎた後も、買主は売主に契約不適合責任を追及できる(商法526条3項)。
2 契約による変更
もっとも、商法の規定の多くは、「任意規定」といい、前述のとおり、当事者間で締結する契約書において自由に変更・補足することが可能です。
そこで次稿以降では、買主側・売主側それぞれの立場で、自社の利益の保護のため、どのような修正が可能か、一部の例をご説明したいと思います。
弊所ウェブサイト紹介 契約書作成・点検(レビュー)
弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した契約書関連については
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/keiyaku/
において、「契約書」の作成において考慮すべき以下の点を含め、潜むリスクや弁護士に契約書作成・点検を依頼する意味について解説しています。
・契約書は中立ではない
・同じような内容でも書き方で効果が異なる
・書いていることより書いていないことが重要なことがある
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