2012-01-06 管理監督者に対する深夜割増賃金の支払義務

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1 事案の概要

H21.12.18 最高裁判決

 美容院の店長として勤めていたX氏が、退社にあたり、雇用主であるY社に対し、深夜 時間帯に行った勤務について割増賃金の支払いを求めました。

 高裁(東京高裁平成20年11月11日判決)は、X氏の請求について、労働基準法( 以下「労基法」)41条2号にいう「管理監督者」には、同法37条3項が定める深夜割増賃金に関する規定は適用されず、X氏はその管理監督者に該当するとして、X氏の請求 を退けました。

 これに対し、X氏は最高裁に上告しました。 

2 裁判所の判断

 最高裁は、高裁の判断を否定し、管理監督者に該当する労働者であっても深夜割増賃金 に関する労働基準法の規定の例外とはならず、深夜割増賃金を請求することができる、と判断しました。

 もっとも、本件では、X氏は、通常の給与のほかに別途店長手当として月額3万円を支 給されており、その賃金はY社に勤務する他の店長と比べて1.5倍程度あったという事情がありました。

 そこで、最高裁は、X氏に対し支払われていたこれら賃金が、一定額の深夜割増賃金を 含める趣旨のものではないのか、また具体的な割増賃金の額が幾らになるのかを改めて審理する必要があるとして、本件を高裁で審理し直すよう命じました(破棄差戻し)。

3 解説

(1)「管理職」の労働時間管理

 多くの会社は、「管理職」には時間外割増・休日割増賃金の支払は不要と考え、時間に よる勤怠管理を行っておらず、時間外割増・休日割増賃金を支払っていないという運用をしていると思われます。

 それは、「監督若しくは管理の地位にあるもの(いわゆる「管理監督者」)」について 、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用の除外を認める労働基準法41条を根拠としていると思われます。

 確かに、労働基準法上、「管理監督者」に対しては、労基法上の時間外割増・休日割増 賃金の支払が不要と解されています。

 しかし、労働基準法上の「管理監督者」というためには、単に役職上「管理職」とされているというだけでは足りません。経営と一体的な立場にある者であって、経営方針の決定に参画しまたは労務管理上の指揮権限を有しているか、出退勤について厳格な規制を受 けず自己の勤務時間について自由裁量を有する地位にあるか否か、職務の重要性に見合う 十分な役付手当等が支給されているか否か、賞与について一般労働者に比べて優遇措置が 講じられているか否か等によって判断されることになります。

 それで、前記のような判断基準に照らすと、「管理職」の従業員のうち、法律上の「管 理監督者」とはいえるか、疑問なしとされない従業員は少なくないと思われます。この点 、「管理職」の従業員に対する労働時間管理の実施の要否については、会社として再検討 すべき場合もあると思われます。

(2)「管理監督者」の労働時間管理は不要か

 さらに、今回の最高裁判決は、当該管理職の従業員が仮に「管理監督者」に該当すると しても、深夜割増賃金を支払う必要があることを明確にしました(なお、厚労省の通達で は、管理監督者に対しても深夜割増賃金は支払うべきであるとされていましたので(昭和 63年3月14日基発150号、平成11年3月31日基発168号)、今回の最高裁判 決は、これまでの行政解釈に司法のお墨付きを与えるものともいえます。)。

 したがって、雇用主(会社)としては、当該従業員が「管理職」であるか「管理監督者 」であるかにかかわらず、その従業員の労働時間管理を完全に免れることはできない、と いう点は銘記しておく必要があります。

 もし労働時間管理を怠っていると、当該従業員から割増賃金の請求を受けたときに、会 社としてはその請求内容を検証するすべを持たず、困った事態になるかもしれません。

(3)時間外割増賃金の定額払い

 今回の最高裁が審理を差し戻した理由に示唆されているとおり、X氏が、通常の給与の ほかに支給を受けていた月額3万円の店長手当と、Y社に勤務する他の店長よりも1.5 倍程度あった給与額が、「一定額の深夜割増賃金を含める趣旨」であった可能性がありま す。

 実際、会社によっては、一定の時間外割増賃金や深夜割増賃金の支払いが定常的に発生 する見込のある労働者について、これら割増賃金に相当する金額を毎月定額で支払うとい った方法を取っているところも見られます。これによって労働時間管理にかかるコストを かけずに、かつ賃金の不払いによるリスクを避けることができるかもしれません。

 ただし、時間外割増賃金の定額払いの実施についてはいろいろ難しい問題がありますの で、詳細は別の機会に譲りたいと思います。



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