2012-07-14 個人事業主と労組法上の「労働者」

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1 今回の判例  個人事業主と労組法上の「労働者」

東京高裁 平成21年9月16日判決

 A氏(個人)は、B社と業務委託契約を締結して、カスタマーエンジニアとして住宅設備機器の修理を行っていました。A氏は、労働組合に加入し、B社に対して労働条件の変更などを目的に団体交渉を申し入れましたが、B社が、A氏は雇用契約を締結した労働者ではないとして申入れを拒絶しました。

 そこで、A氏はB社の団交拒絶は不当労働行為にあたるとして、大阪府労働委員会(府労委)に救済を申し立てたところ、府労委は、A氏は労働組合法(労組法)上の労働者にあたるとして、B社に対し団体交渉に応じるように命じました。B社は中央労働委員会(中労委)に再審査を申し立てましたが、中労委も府労委の判断を維持する命令を出しました。

そこで、B社は、東京地裁に対して中労委の命令の取消を求めて訴えを提起しましたが、ここでも棄却されたため、控訴しました。

2 裁判所の判断

 東京高裁は、B社の請求を認めて、中労委の命令を取り消しました。この前提にあったのが、A氏は労組法上の労働者ではないという判断です。この際、以下のような事情が考慮されました。

  • A氏は、業務委託契約に基づくB社からの個別の申込を、任意に拒否することができた。
  • A氏は、B社から、時間的・場所的な拘束や、具体的な指揮監督を受けることはなかった。
  • A氏の報酬は、行った業務に応じた出来高払いであった。
  • A氏は、B社から、制服の着用や名刺の携行、マニュアルに基づく業務の遂行、業務終了後の報告、研修や会議の出席が求められたが、これらはあくまでも業務委託の内容による制限にすぎず、使用従属関係を示すものではなかった。

3 解説

【個人事業主か労働者か】 

 近年、就業形態の多様化に伴い、企業と請負契約や業務委託契約を結んで仕事を行う個人事業主が増加しています。企業側としてもコスト削減などのメリットがありますので、このような方法を採用している会社は少なくないと思われます。

 しかし、同時に、「偽装雇用」の存在が指摘されています。つまり、名目上は個人事業主なのですが、実態としては、雇われ労働者として働いている場合があるようです。

 もし、企業と請負・業務委託契約を結ぶ個人が、実際には「労働者」であれば、企業は、割増賃金や社会保険料を支払う義務、解雇・雇止めの制限、団体交渉に応じる義務など、多くのリスクを抱えることになりますので、このような個人が、個人事業主なのか労働者なのかというのは、企業にとって重大な問題です。そして、この点をめぐって、企業と個人の間のトラブルが発生しており、企業は時間的にも経済的にも想定外のコストを負担することになりかねません。

【判例の考え方】

 従来の判例は、「労働者」といえるかどうかは、契約の名称にかかわらず実態に即して判断されるとし、請負や業務委託といった名称の契約に基づいて働く者であっても、その実態から労働者であると判断されれば、労働法の保護を受けることができるとしています。

 今回の判例も、B社と業務委託契約を結んでいたA氏が、労組法上の労働者として救済を受けられるかが争われました。裁判所は、労組法上の「労働者」にあたるかを判断するに際し考慮すべき要素として、具体的に次の点を挙げ、詳細な事実を検討しています。

  • 労務提供者に業務の依頼に対する諾否の自由があったか
  • 労務提供者が時間的・場所的拘束を受けていたか
  • 労務提供者が業務遂行について具体的な指揮藍督を受けていたか
  • 報酬が業務の対価として支払われていたか
  •  
    【今後に備えて】

     
     今回の判例では、上の要素を踏まえて、A氏は労組法上の労働者ではないとされ、企業側が勝訴しましたが、府労委、中労委、東京地裁とは判断が分かれました。このことからも、どちらに転んでもおかしくない「グレーゾーン」に属する事例であったと思われます。

     このように、企業と請負・業務委託契約を結んで仕事を行う個人事業主の保護については、未だ明確なルールがないのが実情ですので、今後、かかる契約形態を活用を考える企業としては、紛争防止や想定外のコスト発生回避のための方策を取ることは望ましいと思われます。

     例えば、求人段階において、雇用といえるような業務を請負や業務委託で募集しないことや、募集するのは請負・業務委託であることを明示することができるかもしれません。また、契約段階においても、雇用との働き方の違いや、報酬の決め方・契約期間・違約金などの条件を、十分に説明することが大切であると思われます。さらに、会社の規模によっては、ガイドラインや苦情処理手続の策定も検討できるでしょう。

     活用中の企業としても、上の要素に照らし、このような個人事業主について、個人の裁量で仕事を進めることを認めているか、契約外の業務を行わせることがないか、毎日決まった時間に出社させていないか、働く場所は会社が指定していないか、報酬を決める際に労働時間を重視していないかなど吟味して、雇用と認定されないよう、見直すべきところは見直すことができるでしょう。

     また、実態は雇用なのか請負なのかといった契約の性質の判断や、契約書の作成などの局面においては、弁護士のアドバイスを受けるなどの活用を考えることも有益ではないかと思います。

     いずれにしても、企業側としては、事後に紛争や思わぬコストを抱えるよりも、なるべく事前に問題の芽を摘んでおくことが賢明な判断といえるでしょう。

    (※ ご注意 本稿は、2010年5月19日発行時点での原稿をそのまま掲載してます。本件については最高裁判決が2011年4月12日に出され、企業側が敗訴しています。)



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