2008-01-21法律解説図書と著作物性

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事案の概要

平成18年3月15日 知財高裁判決

A氏は,弁護士であり,債権回収,署名・捺印,手形・小切手に関する法律問題について,法律の専門家でない一般人向けに解説した文献を執筆しました。

A氏は,B社発行の出版物について,A氏の著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するとし,B社の発行,販売及び頒布等の差止と損害賠償の支払等を求めました。

判決の概要

【結論】

裁判所は,A氏の文献について著作物性を認めませんでしたが,B社がA氏の文献に依拠して出版物を発行し利益を得たことについて民法上の不法行為が成立するとしました。

【著作権について】

A氏の文献とB社の出版物との共通部分は,法令の内容や判例から導かれる当然の事項を普通に用いられる言葉で表現したものにすぎず,創作的な表現であるとはいえない。その表現自体がありふれたものであることは否定できず,控訴人の個性が表現されたものということはできない。

A氏が執筆する上で様々な工夫が図られているとしても,その成果物としては,控訴人のした様々な工夫は普通に考えられる範囲内に とどまり,かつ,このために表現そのものがありふれたものとなっている以上,著作権侵害の成立は認められない。

【不法行為の成否について】

A氏の文献を構成する個々の表現が著作権法の保護を受けられないとしても,他人の文献に依拠して別の文献を執筆・発行する行為が,営利の目的によるものであり,記述自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても,他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には,当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成する。

A氏が文献を執筆するに当たり,工夫した部分が,ほぼそのままB社の各文献に取り入れられているのであり,B社は,A氏の文献に依拠して,A氏の文献に酷似しているB社の出版物を,A氏の文献と同一の読者層に向けて,極めて短期間のうちに,執筆・発行したものであるから,A氏の執筆の成果物を不正に利用して利益を得た。B社の行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成する。

解説

【創作性と著作物性】

著作権法の保護の客体となるものは「著作物」です。何がその「著作物」であるのかについては,著作権法2条1項1号において規定されています。

この規定によれば,著作物とは
(1)「思想又は感情」
(2)「創作的」に
(3)「表現」したものである必要があります。

多くの場合,ある表現が著作物たり得るかにおいて問題となるのは(2)の要件の「創作性」です。つまり,誰が表現しても同じような表現となるような表現(新聞の死亡広告,時候の挨拶等)や,創作性がなく著作物とはなりません。

また,(3)にあるとおり,著作権の保護対象は「表現」であって「アイディア」そのものではありません。

今回の事例でも,裁判所は,A氏が,執筆に当って,法律問題を一般人に説明するために様々な工夫を凝らしていることは認めましたが,結果的に「表現」そのものの創作性は否定せざるを得ませんでした。

このような「創作的な表現」の保護という著作権法の基本的な発想を理解しておく必要があります。

【フリーライド(ただ乗り)は許されない】

裁判所は,A氏の文献の著作物性は認めなかったものの,B社が,営利の目的で他人の文献に依拠して別の文献を執筆・発行し,全体的印象に照らし,A氏の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たとし,「公正な競争として社会的に許容される限度を超える」として民法上の不法行為を構成するとしました。
 
裁判所としては,A氏の成果物を営利目的で「ただ乗り」したB社の行為を違法としたわけです。このように,裁判所は,厳密には著作権法で保護されないものについて,民法上の不法行為の規定を活用してA氏の成果物を保護しました(もっとも,民法に基づく保護のため差止は認められないなど不十分ではありますが)。

このように,他人の知的成果物を無断で使用することについては,慎重な検討が必要です。一般的な断定はできませんが,ビジネス上は,少なくとも,第三者の知的成果を,これと競合するような業務に使用したり,又は営利目的で使用することは避けた方が安全であり,慎重な検討が必要です。



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