2012-07-24 「やわらかい生活」脚本事件と二次的著作物

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1 今回の判例 「やわらかい生活」脚本事件と二次的著作物

知財高裁 平成23年3月23日判決

小説家Yが書いた小説につき、著作権を管理する出版社と映画制作会社は、以下の内容の著作物利用契約(以下、「本件契約」といいます)を締結しました。

 1)小説の映画化(複製や放映含む)

 2)映画脚本の出版

 3)上記使用につき、出版社は、一般的な社会慣行ならびに商慣習等に反する許諾拒否は行わない

そして、本件契約に基づき、脚本家Pは小説を脚本化し、映画化しました。

その後、脚本家で組織される協会Xは、映画の脚本を書籍「年鑑代表シナリオ集」として出版したいと考え、まず、脚本家Pから出版の許諾を得ました。その後、出版社を通じて小説家Yに許諾を求めましたが、小説家Yは、許諾を拒否しました。そこで、協会Xは、脚本の出版を実現するため、小説家Yを相手取り、出版差止請求権の不存在確認(つまり、小説家Yには出版許諾を拒否して出版をやめさせる権利がないことの確認)を求めて裁判を提起しました。

本件では主に、小説家Yが、自分の著作権に基づき、協会Xの脚本の出版に対する許諾を拒否すること(差止請求権)が、民法で禁じられている「権利の濫用」にあたり許されないものであるかどうかが争われました。

 

2  裁判所の判断

裁判所は、以下のように判断し、協会Xの請求を棄却しました。

  • 小説家Yが、映画制作の段階で脚本の内容を直してほしいと何度も訴えたのに、映画制作会社のスケジュール上の都合で強引に映画化されてしまったこと等を考えると、今回、脚本の出版化を許諾しなかったからといって、小説家Yに権利の濫用の意図があったとはいえない。
  • 小説家Yの差止請求権を認めることによって得られるメリット(小説家の思想・信条やプライバシーの保護)と協会Bが脚本を出版することによって得られるメリット(脚本の文化的価値)を比較すると、差止請求を認めることによって得られるメリットの方が小さいとはいえない。
  • 小説の映画化の許諾とその脚本の出版の許諾とは別問題であり、一般的な社会慣行や商慣習等から考えても、小説家Yが小説の映画化を許諾したからといって、当然にその脚本の出版までも許諾したと認められるわけではない。
  • したがって、小説家Yの出版許諾の拒否(および出版差止請求権)は、正当な権利行使の範囲内であって「権利の濫用」にはあたらない。

 

3 解説

(1)二次的著作物とは

本件のように、小説(または漫画)を脚本化し、映画化するケースは多くみられます。また、これらを外国語に翻訳して出版したり、他者が作曲した楽曲を編曲したりというケースもよく見られるものです。あるいは、広告、CM、ウェブサイトなどに、他者の写真、イラスト、音楽、映像などを翻案、編集して使用したいということもあるでしょう。

これらのケースのように作成されたものは「著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化、その他翻案することにより創作した」ものとして「二次的著作物」(著作権法2条11号)と呼ばれています。

そしてこの二次的著作物は、原著作物とは別の著作物となります。しかし留意すべき点として、著作権法28条は、二次的著作物の利用については、原著作者が二次的著作者と同一の種類の著作権を有すると定めていることです。すなわち、二次的著作物に関しては、原著作物の著作権者と二次的著作物の著作権者の有する2つの著作権が存在することになるわけです。

このため、二次的著作物の著作権者は、二次的著作物創作のための原著作物を利用することに関してのみならず、自己の創作の成果物である二次的著作物の利用に関しても原著作権者の許諾を得る必要があります。

(2)実務上の留意点

しかし、実際には、二次的著作物の利用方法に関して両者(二次的著作物の著作権者と原著作物の著作権者)の意見の食い違いが生じ、紛争に発展することがあります。

本件でも、原著作権者の意思を考慮せずに映画化がなされてしまったという経緯に加え、著作物利用契約にあった「一般的な社会慣行ならびに商慣習等に反する許諾拒否は行わない」といった曖昧な文言が一因となりました。

以上を考えると、自社において二次的著作物を利用する場合、紛争が生じるリスクを最小限にするためには、あらかじめ、十分な協議を行い、必要な事項に関し、契約で規定することが考えられます。本件において「一般的な社会的慣行」や「商慣習」といった曖昧な規定が置かれたのにはそれなりの経緯や理由があったものと思われますが、大きなリスクを残すこのような方法が好ましいといえないのは事実です。

(3)著作権の利用許諾契約において含めるべき規定

そこで、著作権に関する利用許諾について、実務上、多くの場合規定されるべき事項を列挙すると、主に以下のとおりです。

  • 独占的許諾か、非独占的許諾か
  • 利用方法(複製、譲渡、貸与、放送(テレビ・ラジオか、どの番組か等)、インターネット配信、上演、演奏、出版(ハードカバーか文庫本か等)
  • 利用場所(国内外の区別等)
  • 利用期間
  • 発行部数や演奏回数
  • 許諾料の額および支払方法(何に対する対価か)
  • 著作者人格権の取扱(公表時期、氏名表示の方法、改
       変の可否等)
  • 第三者に対する権利の譲渡の可否

実務上は、以上のような点に留意して、他者の著作物を利用する場合には、必要な事項をできる限り誤解がないように取り決めたいものです。また、生じるリスクをできるだけ軽減するため、自社のビジネスや大きな権利に重要な影響を与えるような契約においては、契約書作成の段階で弁理士・弁護士等の専門家に相談し、作成してもらったり、チェックを受けることは有用といえます。

 

参考ページ:著作権法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/


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