2006-04-10 キャラクター商品の使用権の確認

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事案の概要

平成18年2月21日東京地裁判決

ある有名な百円ショップY社が,ポケモンキャラクターのフェイシャルステッカー(「TOMY」という標章が付されている)を販売していました。

これに対し,「TOMY」の商標権者である玩具メーカX社が,この商品の販売の差止,謝罪広告,損害賠償等を求め提訴しました。

なお,この商品の販売に関し,Y社は,「ポケモン」の商標権者とは別件ですでに和解しています。

本号では,Y社に,商標権侵害について過失があったかどうかに絞って取り上げます。

Y社は,以下のような理由で過失がないと主張しました。
1)Y社は,仕入先に対し,商品について知的財産権などに問題がないか確認し「X社から使用許諾を得ている」などと報告を受け,これを信用して商品を販売した。
2)本件のような有名なナショナルブランド商品は,通常,メーカーから問屋(仕入先)を通じて,小売店に販売され,小売店が直接メーカーと取引することはない。しかも,メーカーと問屋の著作権等の契約内容は,両者の機密事項として,その開示を求めても,守秘義務を理由に開示を断られるのが通常であったから,過失はない。

判決の概要

【結論】

 裁判所は,販売等の差止,損害賠償,謝罪広告を認めました。

【理由】

Y社の過失を認めた部分について,判決文を引用します。

 商標権侵害については,侵害行為者の過失は推定されるものであり(商標法39条,特許法103条),本件において,Y社の過失の推定を覆す事情は認められない。その理由は次のとおりである。

a)キャラクター商品ビジネスについては,キャラクターを使用する商品については,当該キャラクターの権利者と商品化許諾契約書を交わし,権利者から製造数量相当の証紙を発行をしてもらい,商品に証紙を貼ることは通常の方法である(その方法は,商品1点ごとに一つ貼る方法と代表証紙としてインナーカートンに一つ貼る方法がある・・。)。したがって,Y社が,本件商品に証紙が貼られていないことを認識した段階で,その発売元と記載されているX社に対し,本件商品の発売元かどうかを確認するなどすべきだったのであ り,このような確認をすることが容易であったのに,これをしなかったY社については,通常の取引者として有すべき十分な注意義務を尽くしたものということはできない。

b)Y社は,100円均一ショップなどの名称で商品を販売する全国的にも有名な小売店であり,本件のようなキャラクター商品の販売について,どのような手続が必要であるかは,十分知り得る立場にある。Y社が主張しているように,メーカー等が契約上の守秘義務の関係から,著作権等の契約内容を小売店に開示することはできないとしても,本件のように証紙の貼付のない商品について,許諾契約の内容ではなく,その契約の存否自体の問合せや,少なくとも発売元と記載されているX社が本件商品の発売元かどうかを確認するための問合せについて,発売元であるX社がその回答を留保する理由はない。本件においては,Y社が,発売元であるX社に対しこのような問い合わせをすれば,本件紛争が生じることを未然に防げたのであり,Y社が,本件の権利関係を確認しないで本件商品を販売したことは,通常の取引における注意義務を欠いたものである。

解説

【キャラクター商品と商品化権】

 よく漫画,アニメーション等の主人公や登場人物などのいわゆるキャラクターを利用した玩具,文具等が販売されていることがあります。このように,商品にキャラクターを利用することに関する権利は「商品化権」と呼ばれることがあります。
 「商品化権」自体は,法律に規定されているものではなく,一般には著作権又は商標権者といったキャラクターに関連する権利者からそのキャラクターを商品に使用する許諾を受けることによって得られるものです。

この判例で,裁判所は,キャラクター商品化ビジネスで多く行われている取引形態について詳しく述べており,この点は参考となります。以下内容を紹介すると,

1) キャラクター使用を希望する企業は,権利者に対し,商品化についての企画書を提出してキャラクターの使用申込みをし,権利者から提案企画の許諾を得られた場合,権利者と商品化許諾契約書を交わす。

2) ライセンシーは,その後,権利者に対し,製品サンプルを提出し,権利者の監修を受け,権利者からデザイン,色,品質,機能等に修正の指示があった場合は,製品サンプルを指示に沿って修正し,製品サンプルが,権利者の監修に合格すれば,権利者に製造数量相当の証紙発行申請を行う。

3) 証紙は,製品1個につき1枚の証紙を製品のパッケージ(又は製品本体)に貼付するよう商品化使用契約書で義務づけられているのが通常であり,実際のキャラクター商品1個につき,証紙1枚が貼付されていることが多い。権利者は,証紙の発行により,(A)ロイヤルティーの徴収管理,(B)製品の品質の管理,(C)許諾製造数量の管理を行っている。なお,数量が多い商品の場合,当該製品の販売時にインナーカートン(出荷時に段ボール箱の中に小分けして商品を梱包する厚紙でできたカートンのこと)に入れた状態で,商品棚に陳列する販売方法をとるものについては,代表証紙としてインナーカートンに証紙を1枚貼る場合もある。

【キャラクター商品と知的財産権の確認の注意義務】

本件では,小売業者が,仕入先から「権利者から許諾を得ている」という回答を得ていましたが,裁判所は,対象となった商品が,キャラクター商品に多くの場合貼付されている証紙がない商品であったことから,小売業者として権利関係を権利者に直接確認する義務があったと判断したわけです。

このように,この判決は,知的財産権が関係する取引において,販売者が取引の実情を十分に認識した上で,これに応じた慎重な権利確認と権利処理を行うことの重要性を示しています。

特に,知的財産権の侵害においては,過失の立証責任が転換されており,他の場合と比べ侵害者にはより厳しい立証責任が課せられています。一般的には,ある権利侵害行為について損害賠償請求する前提として,侵害を受けた側(賠償を請求する側)が,権利侵害者の側の故意又は過失を立証します。しかし,特許権,商標権等の場合,裁判所が述べているように,これらの権利を侵害した事実があると,侵害者に過失があるものと推定され,侵害者側がこの推定を覆す立証をしないと過失があると認定されます。

知的財産権の侵害においては,他の場合と異なり,裁判所は,侵害者に対し,信用回復の措置(特許法106条,商標法39条等)として,謝罪広告その他必要な措置を命じることができます。今回においても,裁判所は小売業者に,商品の販売の停止と損害賠償に加え,謝罪広告をも行うよう命じる判決を出しており,この点でも,小売業者にとっては手痛い結果となったと思われます。

以上のような知的財産権の侵害に関する特別な規定は,より一層慎重に権利確認を行うべき理由となるといえるでしょう。



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