2014-09-10 店内での転倒事故と店舗側の責任

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1 今回の判例  店内での転倒事故と店舗側の責任

 

東京高裁平成26年3月13日判決

 57歳の女性客AがB銀行のATM利用後、外に出ようとして店舗出入口に敷かれた足ふきマットに足を載せた途端、マットの端がまくれ上がって転倒し、後遺障害が残る傷害を負いました。

 そこで、AがB銀行に対し、不法行為による損害賠償請求訴訟を提起しました。

 第1審判決は、マットの裏が濡れていたことは認めつつも、専らAの不注意によってマットが滑り事故が発生した可能性もあるとしてB銀行の責任を認めませんでした。これに対して、Aが控訴したのが本件です。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下の事情を考慮して、B銀行の責任を肯定しつつ、4割の過失相殺を認めました。

● B銀行には、顧客が出入口に敷かれていたマットの上を通常の態様で歩行するに当たって加えられる力により床面上を滑ることがないように整備しておくことが求められる。

● Aは急いで出入口に向かった様子もなく、マットの端から10~20cmの所に足を乗せたところ、マットが横にずれたためバランスを崩し滑り込むような体勢となって転倒した。事故当時、マットの裏面は湿って波打った状態にあったことから、床面上を滑りやすい状態で敷かれていた点でB銀行には注意義務違反がある。

● ただ、Aももっと注意深く足を運び、身軽な状態であればマットがズレて盛り上がったとしても転倒しなくて済むか、転んでももっと軽いケガで済んだことも考えられ、4割の過失相殺を認めるべきである。

 

3 解説

(1)店舗における顧客の転倒事故についての責任

 店舗において顧客が転倒する事故が発生した場合、どこまでが顧客の自己責任で、どこからが店舗経営者の責任となるのでしょうか。

 この場合の店舗経営者の責任には、法律上は、「債務不履行責任」というものと「不法行為責任」というものの二種類が考えられますが、実質的な内容はほぼ同じです。すなわち、事故を予見し得たこと(予見可能性)と結果を回避する義務があってそれに違反したことの両方が肯定される場合に、責任が認められます。

 例えば、雨が降れば傘の雫や濡れた靴により床が濡れることが予見できるので、滑りやすい材質の床やマットはそもそも避ける必要があり、また床が滑りやすくなっていればモップで拭くなどの適切な対処をして事故を回避する義務が認められるという方向で考えられることになります。

 他方、そうした対処をしても、顧客が通常では想定できないような歩き方をしたために事故が発生したような場合には、顧客の自己責任として店側の責任が否定される方向で考えられることになります。

(2)転倒事故についての裁判例

 では、具体的にどのようなケースで責任が認められ、または否定されるのでしょうか。この点は究極的にはケース・バイ・ケースですが、具体的なイメージを持っていただくため、数点の裁判例を挙げます。

●責任肯定例

 ショッピングセンターのアイスクリーム店の前の床にアイスクリームが落ちていて、71歳の女性が転倒した事例では、当日はアイスクリーム店の特売日であったため、店側は付近に十分な飲食スペースを設けて誘導したり、巡回を強化するなどしてアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務があったとして、店側の責任を認め、2割の過失相殺を認めました。

 コンビニで床が水拭きにより濡れていたため21歳の女性が滑って転倒した事例で、コンビニは、靴底が減っていたり急いで足早に買い物をするなどの客もいることも当然の前提として、水拭きの後は乾拭きをするなど床が滑らない状態を保つ義務があったとして、店側の責任を認めつつ、客もパンと牛乳を持って両手がふさがった状態であったことや靴底がすり減っていたことなどから過失相殺を5割認めました。

●責任否定例

 職員食堂で他の利用者が床にこぼした汁による転倒事故の事例では、セルフサービスという運営形態や共済組合が運営する安価な職員食堂という点が考慮され、また従前転倒事故がなかったこと等から、共済組合の責任自体が否定されました。

(3)実務上の留意点

 このように、裁判例は、もろもろの要素を考慮して、自己の予見可能性と回避義務の有無を判断しています。

 それで、店舗の安全管理においては、同様に、もろもろの状況を総合的に見て、実務上可能な適切な防止策を講じる必要があります。

 その中には、店舗の業態や構造に応じた危険箇所の検討、店舗の顧客層を考慮した適切なマット・床材等の内装設備の選定、監視体制・頻度の検討、清掃の頻度・時間帯と方法、顧客の動線と混雑緩和の方策、清掃後や悪天時の注意喚起等が含まれます。また、過去に事故の前例があるのであれば、この点再発防止策は必要といえます。

 なお、フランチャイズ経営の店舗の場合には、フランチャイジーの店舗の維持管理の不備を理由に、本部(フランチャイザー)が責任を負うこともありえます(前記肯定例2番目はその事例です)。それで、フランチャイザーにとっては、店舗の安全管理のための適切な方策を、加盟店(フランチャイジー)にきちんと指導するという点も留意する必要があると考えられます。



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