2016-12-27 不正目的による商標登録

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

学術的・難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。メルマガの購読(購読料無料)は、以下のフォームから行えます。

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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前書き

 本稿を執筆している弁護士の石下(いしおろし)と申します。本年はこの号をもって最終となります。皆様の1年間のご愛読に心より感謝申し上げます。年明については1月10日からの発行を予定しています。

 ところで、この度、レクシスネクシスジャパン株式会社が発行する「Business Law Journal」 2017年2月号(2016年2月)付録の”LAWYERS GUIDE 2017″にて、弊所が紹介されました。

  http://www.businesslaw.jp/contents/201702.html

 同誌では、西村あさひ法律事務所といったビッグファームや中村合同特許法律事務所といった知財に特化した事務所など、ビジネスローにおいて実績を残している我が国の代表的な事務所が紹介されています。

 多くの企業の法務部や知財部が購入している雑誌ですので目にする方もおられるかと思いますが、機会があれば弊所の掲載ページ(54~55頁)をぜひご一読ください。

1 今回の事例 不正目的による商標登録

 知財高裁平成28年12月8日判決

 ある寺を運営する宗教法人A寺は、平成8年7月頃から、開創400年記念事業の一環として「縁の会」という生前個人墓に関する事業(本件事業)を開始しました。

 また、A寺とB社は、上の事業について共同事業契約を締結し、さらに平成18年、A寺がB社に、「緑の会」の会員募集に関する業務を委託しました。

 そして、A寺とB社は、平成25年2月14日付の覚書で、両者間の契約が平成26年12月31日まで終了することを合意しました。

 その後B社は、平成26年2月12日、「縁の会」 (標準文字)の商標を出願し、登録を受けました。指定役務は、 第35類「墓地・納骨堂及び墓の販売に関する事務の代理又は代行」等、第45類「葬儀の執行、永代供養の執 行及びこれの媒介又は取次ぎ、墓地又は納骨堂の提供」等でした。

 これに対しA寺が商標登録異議を申し立て、特許庁が当該登録の取消の決定をなしたため、B社がその決定の取消訴訟を提起しました。

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、B社の商標登録を取り消す判断を維持しました。

● B社商標の出願日及び登録査定日のいずれにおいても、A寺の「緑の会」は、A寺の事業を表示するものとして、需要者の間において広く認識されていた。

● B社は、平成25年2月時点で、遅くとも平成26年12月31日までに委託契約が終了し、「緑の会」の業務をA寺に引き継ぐべき義務を負ったにもかかわらず、B社商標の出願をし登録を受けた。

● B社の商標登録によりA寺が「緑の会」の商標を使用し得なくなるとその事業継続に重大な支障を来すおそれがあることは、B社が当然予見し得る事情であった。

● B社は、A寺の商標がいまだ商標登録されていないことに乗じ、これに化体された信用と顧客吸引力にただ乗りし、他の宗教法人と展開するA寺事業と類似の事業にB社商標を使用することで利益を得、又はA寺の事業の継続に支障を生じさせてA寺に損害を生じさせることを目的としてB社商標を使用するものと推認される。

● よって商標法4条1項19号の「日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一の商標であって、不正の目的をもって使用をするもの」に該当する。

3 解説

(1)商標法4条1項19号の概要

 商標法4条1項19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするもの」については商標登録ができない、と定めています。

 ある商標が周知となっているのに、たまたま未登録であるために他者が出願登録してしまうことがあります。そこでそのような商標登録のうち、不正な目的があるものについて、商標登録拒絶理由としました。

 なお、同号の規定は、海外で周知となっている未登録商標にも適用されますから、海外で有名になっているブランドで日本国内で未登録のものを第三者が無断で登録することを防ぐ規定でもあります。

(2)悪意の商標出願に対して対抗できる商標法の規定

 ビジネス上のリスク管理の観点でいうと、自社で使用しており今後も使用する予定のある重要な商標であれば、未登録のままにせずにきちんと出願・登録することが、権利保護の確実性に加え、コストや労力の面からもずっと得策であるといえます。

 もっとも、何らかの理由で出願をせず(又はできず)、その間に第三者が自社の商標と類似の商標を出願登録してしまうということがあるかもしれません。

 この場合に、商標法は、上に紹介した規定のほか、種々の規定を置いています。その主なものは以下のとおりです。

 ・ 商標の使用意思(3条1項柱書)
 ・ 公序良俗違反(4条1項7号)
 ・ 他人の名称等を含む商標(4条1項8号)
 ・ 他人の周知商標と同一・類似の商標(4条1項10号)
 ・ 出所の混同(4条1項15号)
 ・ 他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標(4条1項19号)

 例えば、自社の未登録商標が日本国内で周知性があり、他者が、自社の商品と類似の商品を指定商品として出願する場合、商標法4条1項10号が活用できます。また、他者が出願した商標の指定商品が自社の商品と類似しない場合でも、出所の混同のおそれがあれば、同項15号の規定が活用できます。

 また、前述のとおり、自社の未登録商標が海外で周知なブランドである場合、同項19号の活用が検討できます。さらに、出所の混同のおそれがなくとも、出願人について不正の目的がある場合も、同項19号が活用できます。

 また、出願の経緯などに商標法の趣旨に反するような不正があるというような場合には、同項7号が活用できますし、自社の名称を含むような商標の出願については同項8号が活用できる余地があります。

 以上のとおり、自社の未登録商標が万一第三者によって登録されてしまった場合の対抗手段は複数あります。それで、そのような事態が生じた場合、簡単にあきらめることなく、弁理士や商標に詳しい弁護士に相談し、適切な手が打てるように対応することが重要と思われます。

4 弊所ウェブサイト紹介~商標法 ポイント解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した商標法については

   https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/

において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。

 

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