2016-10-04 長期間更新された有期雇用契約と雇止め

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

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前書き

 本稿を執筆しております弁護士の石下(いしおろし)です。いつもご愛読ありがとうございます。

 前書きは前回の続きです。一見自分でできるように思える契約書の作成やチェックについて、コストを掛けて専門家に依頼する企業が少なくないのはなぜか、という問題提起をしました。

 この点まず、自社で契約書の作成・チェックを行うということは、例えるならば地雷が埋まっているかもしれない土地を地雷の有無を専門家にチェックさせることなく購入することに似ているといえるかもしれません。つまり、大きなリスクを抱えたまま、しかもそのリスクを知らずに取引や事業を行うことになる、ということです。

 また、きちんとした契約書を専門家に作成してもらう、または専門家のチェックを受けることは、自動車を運転する前に任意保険に入っておくこととも似ています。多くの人は万一の事故のために自動車保険に入りますが、何年も保険料を支払ってもその間一度も保険を使わないことが多いといえます。でも、多くの人は、支払った保険料を無駄とは考えません。

 別の言い方をすれば、契約書を作らずに、またはそれらしい契約書だけで取引をしてトラブルが生じなかったから良かったと考えることは、費用を惜しんで任意保険に入らなかったがたまたま交通事故を起こさなかったので保険に入らなくて良かった、と考えることと似ているといえるかもしれません。

 しかし、そのような考えは企業経営上のリスク管理として妥当かと問いかけることは間違った問いかけではないと思います。そのため、健全な判断をする多くの経営者にとっては、取引や事業に伴うリスクを避け・軽減するためには、事前に専門家にコストをかけ契約書を整えることは、自動車保険と同様の必要経費と見られているのです。

 長くなりましたので、上の「リスク」にはどんなものが含まれているか、といった具体論は、この続きとして次の機会に申し上げたいと思います。

 なお、本稿の末尾には、弊所取扱案件として英文契約実務(M&A編についてご紹介しています。ご関心があればこちらもご覧ください。

 では、本文にまいります。

1 今回の事例 長期間更新された有期雇用契約と雇い止め

 横浜地裁平成27年10月15日判決

 A氏は、平成10年にB社のパートタイム社員として入社して以来、104の番号案内業務を担当し、15年7か月にわたり期間1年又は3か月の雇用契約を約17回更新してきました。

 しかし、平成25年、B社は、104業務が縮小している中A氏の業務遂行能力が十分ではないなどの理由により、A氏を雇止めにしました。

 そこで、A氏が、この雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上不相当であると主張して、B社に対し、雇用契約が更新されたものとして自身が雇用契約上の労働者の地位にあることの確認を求めました。
 

2 裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、A氏の請求を認めました。

● B社の104業務は、規模の縮小はあるもののB社の恒常的・基幹的業務であり、A氏の勤務条件は賃金水準等を除けば一般常用労働者と同様であった。

● A氏の勤務年数は約17回の更新を経て15年7か月であり、更新については契約期間終了前後にロッカーに配布される契約書への署名押印という形骸化したものであった。

● これら事情からは、本件の雇止めは、労働契約法19条1号により無期雇用契約における解雇と同視できる。そしてB社は整理解雇を理由としているので、人員削減の必要性、雇止め回避努力、人選の合理性、手続きの相当性という4要素の観点から検討する。

● B社においては人員削減の必要性の程度が弱く、相応手厚い雇止め回避措置が期待される。しかし、B社は、雇止め後の円滑な他業務での従事のために雇止め通告前から調整を図る等、より真摯かつ合理的な努力をしたとはいえない。

● B社がA氏に紹介した他業務転出も、改めての採用面接で適性がなければ採用されないから、雇止め回避策としては不十分であるし、その紹介等は雇止めの通告後であるから雇止め回避策ではない。

● そのほか、A氏を対象とした人選の合理性や、A氏への雇止め通告までの手続の相当性も不十分だった。よって本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、A氏とB社は従前と同一の条件で雇用契約を更新したものとみなされる。

3 解説

(1)有期雇用契約とは

 有期雇用契約とは、雇用期間の定めのある契約であり、有期雇用契約は期間の満了とともに終了するのが原則です。解雇が厳しく制限される我が国の労働法において、有期雇用契約は、期間満了とともに契約を当然に終了させることができるもので、多く利用されています。

 しかし実際は、「有期契約」であっても、人員調整を容易にするための便宜上使われていることも多く、更新の手続がルーズかつ機械的に行われたり、更新手続さえされずに、長期間雇用されるケースも少ないとはいえません。

 それで、裁判所は、期間の定めが一応あっても、更新することへの期待ができる事情があるときは、安易な更新拒絶(雇止め)は許されず、期間の定めがない契約における解雇と同様、合理的な理由が必要となる、と判断してきました。また、場合によっては、もとの雇用契約が、実質的には「期間の定めのない契約」とみなされる場合もあります。

(2)有期雇用契約の雇止めに関する労働契約法の改正

 そしてこの判例法理を敷衍し、労働者を保護する趣旨から、改正労働契約法19条に、有期雇用契約に適用される「雇止め法理」(雇止めを制限する法理)の規定が新設されました。

 具体的には、以下のいずれかに該当する場合に、雇止めが有効となるためには、解雇と同様の合理性が必要であり、そうではない場合には、従前と同一の条件で更新したものとみなす、という規定です。

  [1] 過去に反復して更新されたことがある有期労働契約で、そ
    の雇止めが無期労働者を解雇することと社会通念上同視でき
    ると認められるもの(19条1号)
      
  [2] 労働者において有期労働契約の期間満了時に当該契約が更
    新されるものと期待することについて合理的理由があると認
    められるもの(19条2号)
    
 今回は、このうち1号に該当すると判断された事例と評価できます。

 

(3)雇止めを有効なものとするための措置

 以上の労働契約法の考え方を踏まえれば、有期雇用契約を利用する企業としては、安易な雇止めは避けるべきといえます。

 しかし、いざ真に必要な場合にも、更新拒絶(雇止め)が無効とされてしまうことも避ける必要があります。それで、この点を防ぐためにも普段から手を打っておく必要があります。

 この点、平成12年9月11日労働省労働基準局監督課発表の「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」は、参考となります(*)。

 同報告によれば、以下の状況が全て認められる有期労働契約は、無期雇用契約とみなされる可能性は低いとされています。

 [1] 業務内容や契約上の地位が臨時的であること又は正社員と業
   務内容や契約上の地位が明確に相違していること
 [2] 契約当事者が有期契約であることを明確に認識していると認
   められる事情が存在すること
 [3] 更新の手続が厳格に行われていること
 [4] 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるこ
   と

 そこで、企業としては、以上の要素を踏まえ、自社において締結されている有期雇用契約の内容や有期契約社員の処遇等を見直すことは、将来のリスクの軽減に役立つと思われます。

 少なくとも更新の手続を形骸化させない工夫、例えば、都度面談を行い、正式な契約書を交わすようにしたり、次回更新する・しないの判断は、会社の経営状況、期間満了時の業務量により判断する旨を明記し、当該判断を記録に残すといった措置が取れるかもしれません。

 この点で、時代とともに変動する判例法理にあわせたアドバイスを得るために、労働法に精通した弁護士のアドバイスも活用できると思われます。

  (*) なおこの報告内容は労働契約法制定前のものですが、制
    定後も引き続き有用なものではないかと考えます

4 弊所取扱案件紹介~英文契約実務(M&A・投資編)

 近年では多くの企業が海外取引に積極的に取り組んでいます。海外取引・国際取引では英文契約はまさに自社を守る必須のツールといえます。

 また国内ビジネスであっても、海外企業の代理店になるとか、海外企業と取引する場合には英文契約の締結が必要となる場合が少なくありません。

 そして弊所では、英文契約業務に積極的に取り扱い、多くの企業の国際化を支援しています。

 これまで弊所が作成・レビューとして取り扱ってきた英文契約は多種多様ですが、今回は特にM&A・投資関係のものをピックアップすると、以下のようなものがあります。

  ・合弁契約書(Joint Venture Agreement)

  ・出資契約書(Investment Agreement)

  ・株主間契約書(Shareholders Agreement)

  ・株式譲渡契約書(Share Transfer Agreement,
              Stock Transfer Agreement)

  ・法務デューディリジェンスチェックリスト
              (Legal Due Diligence Checklist)

  ・不動産信託契約書(Real Estate Trust Agreement)

  ・不動産賃貸借契約書(Real Estate Lease Agreement)

 弊所では海外取引・国際契約をご検討の方のご相談を歓迎します。詳細は以下のURLをご覧ください。

取扱案件詳細~英文契約書実務



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