2015-12-01職種限定契約と職種変更における制限

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1 今回の判例  職種限定採用社員と職種変更の有効性

福岡高裁平成27年1月5日判決   

 A氏と鉄道やバス事業を営むB社とは、職種をバス運転士とする職種限定合意を含む労働契約を締結していました。

 しかし、A氏には、バス運転士以外の職種としての勤務を命ずる辞令が発せられ、その後A氏が退職したため、A氏は、上記職種変更は無効であると主張して、賃金差額・退職金差額および慰謝料等の支払いを求めました。

 なお、本件では、A氏は職種変更に同意したか、その同意の効力が問題となりました。

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断し、請求を認めませんでした。

● 一般に職種は労働者の重大な関心事であり、職種の変更が、通常は給与等の他の契約条件の変更をも伴うものであることに照らすと、労働者の職種変更にかかる同意は、労働者の任意(自由意思)によることを要する。

● 使用者の働き掛けにより不本意ながら同意した場合には、労働者が当該職種に留まることが客観的に困難な状況であったのかなど、職種変更に同意する合理性の有無や、さらには職種変更後の状況等を総合考慮すべきである。

● A氏に係る苦情、A氏による事故やトラブル、事故後の所内教育中の状況によれば、A氏には、バス運転士として適格性に欠けるところがあったといわざるを得ず、B社において、運転士として乗務させることができないと判断したことには相当の理由があり、A氏が運転土として乗務を継続することは客観的に困難であった。

● また、職種変更に至る経緯にも照らすと、A氏による職種変更の同意は任意によるものであった。

3 解説

(1)職種限定契約と職種変更における制限

 労働者を採用する際に、労働契約などによって、会社と労働者の間で、職種を限定する合意がなされることがあります。

 こうした合意は、特に、特定の経験や技能がある社員を「即戦力」として採用するような場合に見られると思いますが、今回の事例のように、当該労働者を別の職種へ変更するには、労働者の承諾が必要となるという点、留意が必要です。

 つまり、通常は会社は労働者に対する配転命令権を持っていて、職場や職種、部署について一方的に配置転換する権利がありますが、職種限定契約の場合、こうした権利が制限される、という点です。

 この点、実務上、ある労働契約において、労働者が専門的な資格を有する場合や、特殊技能を有する場合で、長年同じ職種にある労働者について配置転換をした場合など、職種限定の合意があったか否かが問題となるケースも少なくありません。それで、労働契約書などの書面を作成し、そこにおいて職種限定の有無や、職種・勤務地・部署などの変更の可能性を明示しておくことは紛争防止上重要と思います。

(2)合理性・同意を得るプロセスなども重要

また、職種の変更について労働者の同意を得る場合、「とにかく形だけでも同意を取ればよい」と、性急に同意を得ようとするならば、後にそれが弱点として突かれてしまう場合もあるという点も認識しておく必要もあります。

 今回の事例のとおり、一般に裁判所は、労働者に不利益な効果を伴うような内容の同意については、同意の真意性や任意性を慎重に判断しようとします。そしてその判断材料として、職種変更という会社の判断が客観的に見て合理的であることが挙げられます。それで、会社としては、裁判所が「これじゃあしょうがないね」と思ってくれるよう、本人の能力や実績などに照らした客観的合理性を裏付る、もろもろの事実を記録化する・証拠化するなどの措置が重要となってきます。

 また、裁判所は「同意を得るプロセス」も重視します。それで、性急に片付けようとして同意を強要したりするよりも、本人への丁寧な説明を尽くすこと、本人が希望するのであれば労働組合や代理人弁護士などの同席も認める方向で考えること等、丁寧なプロセスを経ることやこれらを記録することが、意外とモノを言うということも留意するとよいかと思います。



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