2019-04-02 社債の取得と取締役の責任

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今回の事例 社債の取得と取締役の責任

 東京地裁平成30年3月1日判決

 A社は、コンピュータのソフトウェアの開発・販売等を業務とする会社です。

 A社は、B社発行の私募方式普通社債を2回にわたって引き受けるなどしましたが、これらの社債は償還不能又は遅滞に陥り、取得額の半額強の損害がA社に生じるようになりました。

 そのため、A社の株主が、A社の取締役に対して、取締役としての任務を怠った(任務懈怠)として、株主代表訴訟を提起しました。

裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、A社取締役の任務懈怠を認めませんでした。

・ 資金運用として社債を取得する場合、取締役は、会社の財務状況に重大な影響を及ぼさないよう、リスクを勘案し、資金運用の性質、内容、規模等に照らして判断する義務を負う。

・ 判断の前提事実のための情報収集やその分析が不合理であるか、あるいは、意思決定の推論過程や内容が著しく不合理な場合、取締役の義務違反となる。

・ B社の社債取得については、決算報告書等により同社の財務状況等を分析し、B社の投資案件の仕組みやプロジェクトなども検証し、償還原資となる収入の見込みについて検証している。

・ 投資顧問契約先からも推奨意見を得ており、現地視察なども行わせ、投資対象プロジェクトの実在も確認した上で、償還の危険性や投資した場合の利益の内容等を検証した。

・ B社は、さらに為替リスクを回避するために社債を円建てにし、リスクに見合った高金利としたことなども併せ考慮すると、投資判断にあたって、情報収集やその分析が不合理であったということはできない。

解説

(1)「経営判断の原則」とは

 取締役は、会社が利益を生むよう、積極的な経営判断が求められますが、新規事業を例に取れば分かるとおり、成功すれば大きな利益を生むものの、成功の可能性は不確実であって大きなリスクが伴います。

 それで、取締役の判断について、「後知恵の結果論」で責任を認めると、取締役の積極的な経営判断が萎縮することにつながりますので、裁判所は、取締役の判断に広い裁量を認めています。

 具体的には、裁判所は、「判断時」の状況を前提とし、(a)不注意で判断の前提たる事実認識で誤ったか、又は、(b)事実に基づく判断が著しく不合理であった場合でなければ、取締役の責任を問わない、という考え方を取ります(いわゆる「経営判断の原則」)。

(2)実務上の留意点

 以上を考えると、取締役としては、万一の場合に備えて、当時の「経営判断の過程・内容」が合理的であったことを立証する資料を整えておくことが重要、といえます。

 つまり、当該経営判断をした当時、合理的な方法で情報収集と調査がされていたこと、そしてこの調査の結果、どのような事実認識のもと、どんな検討がなされ、どんな判断がなされたか、を示す資料、ということです。

 この点、取締役会議事録、取締役会や経営会議で用いた会議資料などが重要な意味を持つことになります。

 また、今回の事例において、裁判所は、前提事実の認識過程の合理性判断の一要素として、投資の専門家からの意見聴取を指摘しています。この点、取締役が専門家から得た知見を信頼して経営判断をした場合、当該専門家の能力を超えると疑われるような事情があった場合を除き、取締役の義務違反が否定されるという、いわゆる「信頼の原則」が認められることがあります。

 そこで、会社としては、経営判断において、法律分野、知財分野、会計分野、財務分野、技術分野など、必要に応じて適切な外部専門家の知見を活用することも、大きな意味を持つことがあります。

弊所ウェブサイト紹介~会社法 ポイント解説

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例えば本稿のテーマに関連した会社法関連の情報については

https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kaishahou/index/

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