2019-11-05 退職従業員の競業制限規定の有効性

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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

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 知財高裁令和元年8月7日判決

 A社は、X市においてまつげエクステサロンを営んでいたところ、元従業員であるB氏が、A社を退職後に、A社と同じX市内のまつげエクステサロンに就労しました。
 
 これに対し、A社は、B氏の行為が、競業禁止を定めた就業規則の規定やB氏の入社時誓約書に反するとして、B氏に対し、退職後2年間、X市内におけるアイリスト(まつげエクステ)業務への従事の差止を求めました。

 なお、A社就業規則には、(1)社員は、退職後も競業避止義務を守り、競争関係にある会社に就労してはならない、(2)社員は、退職後、同業他社の業務に携わり、又は競合する事業を自ら営んではならないとの趣旨の規定がありました。

 また、入社時誓約書には、B氏が、退職後2年間、在職中に知り得た秘密情報を利用して、X市内において競業行為を行わないこと等の規定がありました。

裁判所の判断

 裁判所は主として以下の理由から、A社の請求を認めませんでした。

・ 退職者に対する競業制限は、退職者の職業選択の自由や営業の自由を制限するから、個別の合意又は就業規則の定めがあり、内容が、使用者の利益の内容・程度、退職者の地位、制限の範囲、代償措置の有無・内容等に照らし合理的である限り許される。

・ A社の就業規則の競業制限規定は、退職社員の地位に関わりなく、無限定に競業制限を課するものであって、到底合理的な内容とはいえず無効というほかはない。

・ 入社時誓約書は、2年という期間とX市内という場所に限定した上で、秘密管理性を有する情報を利用した競業行為のみを制限するから、合理性を欠くとはいえない。

・ A社が秘密情報であると主張する施術履歴の情報が記載された「顧客カルテ」は、従業員は誰でも閲覧でき、 保管時に施錠等の措置はなく、私用のスマホのLINEで各支店の従業員間での共有が日常的に行われていた。よって秘密管理性を認めることはできず、施術履歴は「秘密情報」には当たらない。

・ よって、B氏が入手した施術履歴を利用したとしても、入社時誓約書の規定する「秘密情報」を利用したとはいえないから、B氏が入社時誓約書に違反したとはいえない。

解説

(1)従業員の退職後の競業は禁止されるか

 会社の立場から見れば、退職社員による機密やノウハウ漏洩を防ぐために、退職社員に競業制限を課す必要性を感じる場合があることは理解できます。

 まずこの点で留意すべきなのは、競業制限(競業避止義務)を課すには、就業規則や社員の誓約書・同意書に明確に謳う必要がある、という点です。

 これらの点で明確な規定がなければ、例外的場合を除き、競業制限を退職従業員に求めることは難しいと考えておくべきでしょう。

(2)退職後の競業を禁止できる範囲

 
 また、就業規則、誓約書、合意書などで定めさえすれば、どんな競業制限でも効力が認められる、というわけではなく、今回の判決も述べているように、競業避止の内容に合理性が必要です。

 それは、退職後の競業避止義務を広く認めると、一般に企業に比べ経済的弱者と考えられている労働者の生計の道を奪うことにもなりかねないからです。

 この点、平成24年度経済産業省委託調査「人材を通じた技術流出に関する調査研究」は、裁判例を題材にした詳細な分析のまとめとして、以下のように指摘しています。

【有効性が認められる可能性が高い競業避止規定のポイント】
 ・競業制限の期間が 1 年以内。
 ・禁止行為の範囲を、業務内容や職種等によって限定。
 ・経済的代償措置の設定。

【有効性が認められない可能性が高い規定のポイント】
 ・競業制限が不要な従業員にも制限を課している。
 ・職業選択の自由を阻害する広汎な地理的制限。
 ・競業制限の期間が 2 年超。
 ・禁止行為の範囲が、一般的・抽象的。
 ・代償措置なし。

 確かに会社としては、汎用的で広く通用する競業制限のルールを作れば、会社の保護に資する、と考えるかもしれません。またそれができれば運用面の手間も省けることでしょう。

 しかし現実には、競業制限の対象や内容を広げれば広げるほど、いざ違反が起きても裁判所によって有効性が否定されてしまい、本末転倒な結果となってしまうかもしれません。

 それで、競業制限の必要性・会社の業種・取扱商品やサービスの内容・顧客層・守るべき営業秘密・会社の規模・組織・業務体制等を考慮して、制限の効果と合理性のバランスを確保することが真に会社の正当な利益を守るという観点から、きめ細かな取り決めの設定をすることが、結果的にはプラスになるかもしれません。

(*)「人材を通じた技術流出に関する調査研究」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/houkokusho130319.pdf

弊所ウェブサイト紹介~労働法 ポイント解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した労働法については

   http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/

において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。



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